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スポーツ心理学からみたサッカーの理論 増補版

サッカーを楽しむ個人の問題に絞り「どうしたらうまくなるのか」という観点から、サッカーの本質と練習メニューを解説。
中・高校生でも気軽に読めるように語りかける文体。
初版に訂正・加筆説明を巻末に加えた増補版。



麓信義著 新書判 318頁 950円+税
三一書房

トップアスリートを創る日本体育大学アスリートたちの軌跡

オリンピックなど、常に競技スポーツの第一線で活躍してきた日本体育大学のアスリートたち総勢21名にインタビューしてまとめた本。
トップアスリート育成のためのノウハウ満載。
指導者のみならず中・高校生にもお勧め。



日本体育大学学友会運動部編 A5判 250頁 2,500円+税
大修館書店

キンタのサッカーで遊ぼう--日本サッカーの夜明け

タイトルの奥に潜む熱き心
筆者の「キンタ」こと金田喜稔氏は、サッカー通なら誰もが知っている名選手、元日本代表選手だ。
現在、彼はTVのサッカー解説者としても活躍中だ。

そんなキンタ君が日本サッカーを熱く、熱く語ったのがこの一冊。
「キンタのサッカーで遊ぼう」なんてタイトルに、皆さん騙されてはいけません。
自身がサッカー界のトップにいた経験を十二分に生かして、日本サッカー界の現状や問題点、果ては日本のスポーツ界全体に至るまでの提言をこの一冊にコンパクトにまとめてある。
サッカー関係者のみならず、スポーツ指導に携わる人たちには是非一読をお勧めしたい。

キンタの「教えすぎない」指導法
キンタ君がもうひとつ熱っぽく語るのは、ジュニア育成法だ。
彼自身、親善大使として海外でサッカースクールを開講したり、ボランティアとして日本の子どもたちに教えている経験をもとに、「キンタ」のジュニア指導論を展開している。
「教えすぎない」指導法もそのひとつ。
よい指導者となるためには、どこまで教えるかを見極めることが必須条件。
しかし、これがなかなか難しい。キンタ流「教えすぎない」指導法とは?

このほかにも、彼のサッカー観に基づくジュニア育成観が多く語られていて、果ては地域スポーツクラブ設立まで話が及ぶ。これも興味深い。

W杯がやってくる
さて、今年最大のスポーツイベントといったら、なんと言っても日韓W杯開催。
今世紀初、アジア初、初の共催と初めてづくしの大会開催まで、あと少しだ。
キンタ君はこの大会を、世界のサッカーファミリーの祭典と考えている。
そして、彼はホストとして、どうやってファミリーを日本に迎えようか真剣に考えている。
彼は、決勝が予定されている横浜国際競技場の近くに在住しているそうで、そんなことから、決勝当日はスタジアムに入れないみんなと、行きつけの店でTV観戦なんてことも考えている。
もしかしたら、キンタ君の名解説つき決勝観戦なんてことも……。
行きつけの店ってどこかって? それは、読んでのお楽しみ!

(久米秀作・帝京平成大学情報学部福祉情報学科助教授)



金田喜稔著 四六判並製 232頁 1,400円+税
朝日ソノラマ

高血圧の医学

30歳以上の日本人のうち、約3300万入(男性1600万人、女性1700万人)が高血圧であると推定されている。
平成8年度の高血圧性疾患受診患者数は749万人、これは3300万人の22.7%にしかすぎない。
高血圧を放置すると、脳血管障害、心臓病、腎臓障害、血管障害などを合併するリスクが高くなる。
では、高血圧とわかった人はどうすればよいのか。

この本には「あなたの薬と自己管理」という副題がついている。
高血圧に関する知識全般と、特に薬について詳説し、生活習慣改善の仕方や自己管理のあり方を説いている。
もちろんこれらの知識があれば、高血圧の予防にもつながる。
高血圧が広く知られるようになって100年、日本では近代的な治療が開始されて50年。
薬の開発もどんどん進んでいるようだが、運動療法指導管理料がまず高血圧を対象としたことからわかるように、運動や食事、喫煙なども大きく関係する。
少しでも気になる人は読んでおいたほうがよい。



塩之入洋著 新書判 236頁 2002年1月15日刊 780円+税
中央公論新社

スポーツ外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド

臨床スポーツ医学の第18巻臨時増刊号。
序文で、身体各部位の機能解剖と理学的診断法での共通認識が必要であるのに、専門の解剖書や手術書は多くあっても、「スポーツでの動きやスポーツ外傷・障害を考慮した機能解剖や理学的診断に関する書籍を見いだすことは容易ではない」と記されている。
この点を考慮してまとめられたのが本書である。

3部構成で、I部は「機能解剖」、II部は「診断・評価のための基本テクニック」、III部は「事例解説」である。
整合性を持たせるため、I部とII部は同一の著者が担当している。
III部は数年にわたり連載された外傷・障害別のアスレティックリハビリテーションを一部手直しし、具体的疾患に対してのリハビリテーションメニューが理解できるようにしたとのこと。

現場復帰に至るまでのアスレティックリハビリテーションが重要と長く指摘されてきて、多くの人が研究、臨床、教育に携わってきたが、この1冊はその1つのまとめになっている。
注文をつけるなら、機能解剖が60頁足らずのボリュームでやや物足らない。
多分、それだけで膨大な1冊になり、かつ映像も不可欠なものなのかもしれない。
これについては、今後の成果に期待したい。



臨床スポーツ医学編集委員会編 B5判 436頁 2001年11月30日刊 7000円+税
文光堂

タンパク質の生命科学

脚光を浴び、ほとんど毎日のように報じられる生命科学だが、専門的で複雑なため、一般には理解しにくいことが多い。
だから、勉強したくない、関連書も読んだけれどわかりにくいからもう読まないという人も少なくないだろう。

この本は、書名通りタンパク質を生命科学の視点で述べているのだが、「はじめに」のむすびで著者は「これから、タンパク質の構造と機能を中心にタンパク質のすべてを解説していきたいと思う」と記している。
この自信のすごさ。

だが、それは期待を裏切らない。
全3章で構成、1章では「タンパク質とはどのようなものか」で、まさにもつれた糸をほどくかのように語っていく(2章は「タンパク質と遺伝子」、3章は「タンパク質と生命」)。
文化系の人でも、こう説明されれば容易に理解できるだろう。
酸とは何か、酸化とは何か、という昔習ったかもしれないことをちゃんと整理しつつ、解説を進めている。
驚く腕前である。
「ある程度知識のある人が読むのだろうから、基礎知識までは触れません」
と言わず、難しいことを「これならわかるでしょ」とわかるように説明している。
それでいて内容は極めて高度である。
著者は、京都大学ウイルス研究所、大阪大学蛋白質研究所を経て、現在関西大学工学部教授。
「説明する」ということのお手本のような1冊である。



池内敏彦著 新書判 210頁 2001年12月29日刊 800円+税
中央公論新社

イチローUSA語録

昨年アメリカの主として新聞に載ったイチローに関する記事をイチローの言葉をメインに編集したもの。
右頁は日本語で、左頁には英語の記事が収録されている。
こうして年間の記事を読むと、イチローが当初は軽く見られつつも、やがて驚異の活躍をしていく様が改めてわかる。
それ以上に、イチローの「言葉」が新鮮である。
もちろん、これはイチロー自身の言葉というより通訳を介しての表現なのだが、イチローは時にとてもユーモラスであり、時に深遠でもある。
足の裏をマッサージするのに使っている器具の名前を聞かれたときの彼の答えは「木です(Wood.)」。
質問の意味がよくわからないというより、どうもマスコミの執拗な質問をうまくはぐらかすのが得意のようである。

「彼はメディアの扱いに慣れているし、彼の発言のいくつかはむしろアメリカのファンのあいだで彼の人気を高めるのに役立っている」(ジム・アレンの解説より)

アレンの指摘で書き出しておきたいのは「イチローがメジャーリーグに惹かれた理由の一つに、大リーガーはプロフェッショナルと見なされていて、何者であるかではなく、何をするかで判断されるということがある」という一文。

一流は何を語るかも問われる。
イチローは疑いなく一流と改めて知ることができる。



デイヴィッド・シールズ編 永井・戸田訳 新書判 206頁 2001年12月19日刊 660円+税
集英社

思想する「からだ」

『「からだ」と「ことば」のレッスン』(講談社新書)などの著書で知られる著者の新著。

あれこれ言うより、著者の言葉を引こう。
それのほうがわかる。
「いずれにせよ、『からだ』の対極に『ことば」を置くと見えて来る地平に私は生き始めており、『からだとこころ」を対にする地平は私に遠い、というよりは、そこには生きていない、と言うことであろう(P.115)

かつて聴覚言語障害者であり、弓道にも打ち込み、演劇にも深く関わる著者の「ことば」、あるいは「声」への言及は深く身体に問いかけてくる。
思いもかけない「からだ」の発見。
あなたは、どんな声でどんなことばを日々投げかけているか・・・。



竹内敏晴著 四六判 238頁 2001年5月10日刊 1800円+税
晶文社

高齢者の転倒

副題は「病院や施設での予防と看護・介護」。
この副題が本書の特徴をずばり表現している。
MSM34号の特集でも示した通り、各方面で転倒予防教室が展開されている。
監訳者は、介護予防、老人保健事業では健康教育と機能訓練項目として組み込まれているが、残されているのは病院にいる約63万人の高齢患者、介護施設にいる約63万人の虚弱高齢入所者から要介護高齢入所者に対する転倒予防策だと言う。
また、多くの病院での事故の3割以上が転倒で占められるのではないかと言う。

本書は、そのために書かれたティディクサーの名著を日本語として読みやすく理解しやすく翻訳したものとのこと。
確かにその通りで、本文は適所にイラストがあり、文章も平易に書かれている。
また、付録として、「行為・状況別動作遂行能力検査」「歩行補助具の高さ設定法」「歩行補助具の使用法」「転倒・骨折防止」「ケーススタディ」などがあり、とても実践的な内容になっている。



レイン・ティディクサー著 林泰史監訳 B5判 174頁 2001年12月7日刊 3000円+税
メディカル出版

「わかる」とは何か

「あいつはわかってない」「それでわかった」「そうだろうと思うけど、でも分からない・・・」
私たちの日常「わかる」という言葉を頻繁に使う。
「分かる」は「分ける」であるとも言われる。
だが、「わかる」とはいったう何がどうなることか。

このテーマに、現在京都大学総長である著者が平明な記述で挑んだ。
著者の専攻は「情報科学」であり『人工知能と人間』『電子図書館』などの著書もある。

当然、1つの科学分野のみで語れる話ではない。
大きな章題を並べると、「社会と科学技術」「科学的説明とは」「推論の不完全性」「言葉を理解する」「文章は危うさをもつ」「科学技術が社会の信頼を得るために」の6つ。

その「言葉を理解する」の章で、著者は「わかる」というレベルを説明し、「第一のレベルは、言葉の範囲で理解することであり、第二のレベルは、文が述べている対象世界との関係で理解することであり、さらには第三のレベルとして、自分の知識と経験、感覚に照らして理解すること(いわゆる身体でわかる)というレベルを設定することが必要であろう」と記している。

そして、科学技術の文章においては、第二のレベルまでの理解でよいとしつつも、第三のレベルの理解が必要という場面も出てきたとする。

「たとえば遺伝子操作、クローン生物、臓器移植、脳死判定といった問題になると、理屈の世界でわかっただけでは私たち人問は納得でぎず、感情的体験的世界においても納得することが必要であり、これを避けて通ることができなくなっているのである」日々接する情報の量は夥しいが、「わかる」ものは実は少ない。
「わかること」から考える必要は確かにある。



科学を初めとして、各種専門分野の知識は理解しがたく、伝えづらいものではないだろうか。この本は現代において、複雑化する科学技術を科学に携わるものが、わかりやすく一般の人に伝えることの大切さと、そのために必要な努力を論じた本である。
 読んでみて感じるのは、この本自体がわかりやすく理論について例を挙げながら解説しているところだ。私自身、恥ずかしながら理解していなかった、推論の方法である演繹法や帰納法を深く理解することができた。
 指導をするうえで、何より大切なことは指導する側と指導される側の信頼関係であると思う。指導者が信頼を得るには知識をわかりやすく伝える事が必要となるが、多様な相手には1つの方法ではうまくいかないことがあるだろう。そこで大切なのは相手に合わせることのできる多様な知識の理解である。
 この本は科学技術に対して理解できるだけではなく、理解や伝えることに対しての根源的な考え方を学ぶことができる、よき一冊である。
(阿部拓馬)



長尾真著 新書判 186頁 2001年2月20日刊 700円+税
岩波書店

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