測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?
ジェリー・Z・ミュラー 松本 裕
原題は『The Tyranny of Metrics』。直訳すると「数値目標による圧政」となる。現代社会において、さまざまな分野で数値による成果評価が重視されているが、圧政とはどのような意味を持つのだろうか。
『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』は、数値指標に過度に依存することがもたらす弊害を示し、その危険性を警告している。著者は教育、医療、ビジネス、政治など、数値化された評価基準が広く浸透している領域における問題を取り上げて、その弊害について論じている。特に短期的な成果や容易に測定可能な指標に依存することで、長期的な視点や測定が難しい要素(創造性、倫理、施策)が見落とされがちであると指摘する。数値目標を達成するまでのプロセスやそこから得られる学びが見過ごされる事例には、私自身も共感を覚える。「数値目標による圧政」とはこのような状況を指すのだ。
特に印象深かったのは「数値目標が目的化する」という現象である。本来、目的達成のための手段として数値目標が設定されるべきであるが、いつの間にかその数値の達成が目的となり、手段そのものが歪められてしまう。このような経験を持つ方も多いのではないだろうか。
さらに、著者が指摘するもう一つの重要な問題は、「測定可能なものだけが重視され、測定が難しいが本質的に重要な要素が軽視される」という点である。例えば教育現場では、テストの点数が教師や生徒の能力の指標とされることが多いが、その背後にある成長や学びの過程が評価されることは少ないのが実情である。この傾向は医療、ビジネス、政府など、著者は、こうした実例を豊富に挙げて、問題の深刻さを強調している。
特筆すべきは、数値評価そのものを全否定するのではなく、適切な場面で適切に使用するべきだという主張だ。数値化が有用な場面と、逆にそれが害を及ぼす場面を明確に切り分け、その使い方の重要性を明示している。
本書を通じて、数値評価を適切に扱うための視点を得ることができ、評価のあり方を再考する機会となった。組織や教育現場に携わる方々には必読の書と言えるだろう。
(川浪 洋平)
出版元:みすず書房
(掲載日:2025-01-28)
タグ:測定
カテゴリ その他
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