強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ
Eddie Jones
ラグビーのコーチを20年以上続けているとよく、「どうしたら勝てるんですか?」ときかれます。必ずわたしはこう答えます。
「あなたは、どうやったら勝てると思いますか?本気で考えていますか?」
わたしが日本代表ヘッドコーチになって最初に取り組んだこと。ーそれは、いわれたことをやっているだけの選手たちに、自分自身で「どうやったら勝てるか」を考えて判断できるように、変わってもらうことでした。(本文より引用)
この本は、記憶に新しい2015年ラグビーW杯で、世界的な強豪チームである南アフリカ代表相手に歴史的勝利をおさめた、当時の日本代表チームのヘッドコーチであったエディー・ジョーンズ氏によって書かれている。4年間でいかにして強いチームを作ったか、その軌跡を振り返りながら強くなるための心構えや、彼のひたむきに強さを追求してきた人生観についてご自身の過去にも触れつつ、非常に丁寧に語られており、子ども向けの本だと思って気軽に読むと予想以上に胸を打たれてしまう、ある意味危険な一冊だ。
世界の舞台での「負けぐせ」がつき、エディー氏のヘッドコーチ就任時はほとんど全員が下を向いて、目を合わせようともしないくらいおとなしかった日本代表選手たち。そんな彼らがW杯でベスト8入りを目指して世界一ハードな練習を乗り越え、なぜこんなに厳しい練習をやる必要があるのかを自分の頭で考え、勝つためにできることをすべてやり尽くし、心も身体も強い集団に生まれ変わるまで、コーチの目線からどんな関わり方をしていったのかが非常に具体的に語られている。
五郎丸歩選手がスランプに陥ったときに、寿司屋でかけた言葉。
リーチ・マイケル選手を新キャプテンに選んだ理由。
前キャプテン、廣瀬俊朗選手の苦悩と貢献、人間的魅力。
一つひとつのエピソードが「人を強くする」プロであるエディー氏の考えや人柄をよく表現しており、たとえラグビーのような競技スポーツをやっていなくても、子どもから大人まで夢や目標がある人にとっては、心に響く貴重な学びが大いにあるだろう。
特に、身体が小さくても、大きい相手に勝つ方法はいくらでもある。欠点があっても、あまりそこにはこだわらないで、強みを伸ばすことを考える。そして長所は誰よりもうまくなるように練習し、努力を続ける。このメッセージを伝えるのに、彼ほど適任な人はいないのではないだろうか。エディー氏が指揮をとった、あの南アフリカ戦での日本代表選手たちの戦いぶりこそが、言葉以上にそれを体現している。
エディー氏自身も173cmと小柄で、ラグビーが大好きだった少年時代から母国オーストラリアの代表選手に選ばれるという夢を追い、選手としてそれが叶わなかった過去を持つ。しかし32歳で選手を引退後、自分はトップ選手になる方法やトップチームをつくる方法を考えて人に伝えるのが大好きで、そこにコーチとしての自身の才能を見出したという。
「きみも、たとえ夢がかなわなくても、あまり落ち込まなくていいんですよ。なにかうまくいかないときこそ、新しいステージに進んでいると思ってください。」「大事なことは、自分の才能は必ずなにかに活かせると信じることです。そして一生懸命、なにかに取り組むからこそ、自分を信じる力がわいてくるのです。」
あなたには、必死になって何かに取り組んだ経験がありますか? もしあれば、きっとこの本に書かれたメッセージは、今でもあなたの背中を力強く押してくれるだろう。
(今中 祐子)
出版元:講談社
(掲載日:2019-08-13)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ
Eddie Jones エディー・ジョーンズ
覚悟と背中
我が子に強くなってもらいたいと、親は願う。強さにも様々な形があるので、それぞれの種類の強さでいい。自分色で強くなってもらいたいと、そう願う。しかし、ただ願うだけでは足りない。「強くあれ」と言葉にするだけでも足りない。我が子とどんな関係を築いていくのか、親としてどう行動するのか、実働を伴わなければならないと個人的には考えている。スポーツの指導者も同じだろう。己の立場をいいことに自らの立ち居振る舞いを棚に上げ、アスリートを支配するようではとても指導者とは呼べない。親や指導者は、子どもやアスリートに対する言動に責任を持つのが当然であり、そこに自らを律する覚悟がなければ、誰かを教育したり指導すべきではない。人は不完全なものだから、「できるか、できないか」ということであれば、この極めてシンプルな真実を隙間なく遂行することは、相当に困難である。しかし「やるか、やらないか」であれば、そうありたいと自らの行動の端々に結びつけることは誰にでもできるはずだ。まさしくその覚悟が「強くある」ことの基盤になり、若い世代に「強くなりたい」と考えさせるために見せたい背中であるのだから。
さて本書は、昨年のラグビー W杯で旋風を巻き起こした日本代表チームの指揮官、エディ・ジョーンズ氏による強くなりたい子どもたちへのメッセージである。氏は代表選手にどんな取り組みを行い、その結果彼らに何が起こったのだろうか。最も重要なポイントは、メンバーの心身のバリアを取り去り、その基準値を大胆にリセットすることにあったと思う。我々は無意識に自分の言動にバリアを張り巡らせている。「どうせ...」「めんどくさい...」「仕方がない...」「誰に何言われるかわからない...」と、言い訳を探せばいくらでも出てくるものだから、結局楽なほうに流れがちだ。「身の程を知る」といった言葉に代表される強固なバリアで自分を守っているのだ。氏は、日本代表が掲げる目標を、単なるお題目ではなく実現可能なものにするために、世界一厳しいトレーニングを選手に課した。そして、それが単なるしごきではなく、目標を達成するために必要な行動だと考えさせることに成功したのだ。自分が今まで考えていたバリアを超えたところにある「あるべき自分」が「ありたい自分」となったとき、以前の自分が決めてしまっていた限界を自らの意思で書き換えることができる。
説得力はどこからくるか
そのためには、エディ・ジョーンズ氏をはじめとしたスタッフの覚悟がまず問われただろう。生き様と言っていいのかもしれない。ラグビー選手たちと同じ種類のハードワークはできなくとも、自身のプロフェッショナル領域における揺るぎないハードワークがなければ、世界一のハードトレーニングは成立しない。氏の妥協なき態度は相当に熱く、周りへの要求は半端なく高いと伝え聞くが、それに応えきったスタッフの方々の力たるや凄まじいものだったろう。
そんなスタッフも選手もその気にさせ続けた氏の魅力がどのように築き上げられたのかについても、本書から伺い知ることができる。圧倒的な力を持たない者が、挫折を知り苦しみを知った者が、強くなりたいと様々な工夫を重ね己を磨き続けてきたその生き様が根底にあるのだ。自分に言い訳をせず、妥協せず、ただ強くありたいと考え、考えうる行動を実践してきた者が、自分を好きになり自信を持つことができるのだろう。そしてそんな風に生きてきた者が説得力を持つのだろう。
子どもたちに、「きみの未来は、希望と無限の可能性に満ちあふれています」と言える大人でありたいと思う。エディ・ジャパンは、金星を挙げた南アフリカ戦の最終局面で、同点にすることを指示したこの指揮官を乗り越え、逆転勝利を挙げた。親父に鍛え上げられた子どもたちが、その親父を爽やかに超えていったのだ。親としては最高の結末ではないか。
ところで、常に「もっと強くなりたい」と考えている主人公が活躍するアニメ主題歌で、「身ノ程知ラズには、後悔とか限界とか無ーいもん!」とあるが、これはいい歌詞だと思う。小学校 3 年生の長男坊が、先日初めて黒帯への昇段審査に挑戦し、残念ながら失敗に終わった。こんなときはチャンスである。存分に悔しがればいいが、恥ずかしいと思う必要はない。黒帯を締めるに足る存在になるように心身を鍛え続け、強くなればいい話だ。まだそんな風になかなか思えない幼なさが残る我が子に、「強くなりたい」と思う気持ちを膨らませ、それを様々な形で行動に移すための気づきを促すところに、親父たる者の果たす役割がある。それができる親父であるために、己もまだまだ「強くありたい」と思い続け、行動し続けたい。
(山根 太治)
出版元:講談社
(掲載日:2017-01-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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