PT・OTビジュアルテキスト専門基礎 解剖学
坂井 建雄 町田 志樹
解剖学の学習は、とかく事実の暗記に終始し、「退屈だ」と感じる人も少なくないはずだ。学生時代の私もその一人で、呪文のような筋肉や臓器の名前を覚えるのは苦痛だった。しかし、この一冊は、その既成概念を覆してくれた。
本書の特徴は、体の構造が、実際にどう動き、どんなときに機能を低下させ、損傷するのかという、実践的な視点から解説されている点だ。単なる部位の羅列ではなく、「なるほど! そういうことだったのか!」「だからこの構造なのか!」と、知識が繋がり、深く理解できる感覚を味わえる。
とくに感銘を受けた内容があるのでぜひ紹介させていただきたい。
「四肢の骨格の特徴」と題して紹介されていたのは、人体の上肢と下肢が対応しているという内容であった。以前から私は「上腕骨と大腿骨、前腕と下腿の骨の数が同じ」「肩関節と股関節が共に球関節」など、上肢と下肢は構造的にも機能的にも対応があり、それが治療やトレーニングに応用可能ではないかと考えていた。このページでは、ヒトとイヌの骨格を比較しながら、四肢の骨格が進化の過程で共通の祖先から形成されてきたことが示されており、上肢と下肢の対応関係が偶然ではなく、生物学的・進化的な背景に裏づけられたものであることを再確認できた。私が現場で経験し組み立てていた理論が、科学的視点からも立証されていたことを知れたこの瞬間は興奮を感じた。
さらなる驚きは巻末に収められたMRI画像だ。正直、「まさか解剖書でこれを見られるとは」と、ページを捲った瞬間、思わず声が出た。これまでネット検索で曖昧な情報を探すか、病院や研究機関でしか見られなかったリアルな画像が、ここに網羅されている。これは、体を扱うプロにとって、これ以上ない強力な武器となるだろう。
解剖学の基礎を学ぶ人には、まずこの一冊から入ることを勧めたい。そして、知識の振り返りとしてや、さらなる深求が必要なとき、卒業後いつでも立ち返れる「羅針盤」として、あなたの傍らに置いてほしい。
(川浪 洋平)
出版元:羊土社
(掲載日:2025-06-18)
タグ:解剖学
カテゴリ 医学
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