ことわざ比較の文化社会学 日英仏の民衆知表現
金子 勇
本書は日本語のことわざ・英語のことわざ・フランス語のことわざをそれぞれ比較し、筆者の評論が続くという形式で書かれています。感想として国が変わっても似た表現というよりもほぼ同じ表現をしていることわざの多さに驚きました。
「ことわざ」とは、風刺や教訓などを盛り込んだ言葉です。国や文化が変われば当然表現も変わるはずですが意外に類似のことわざが多く、洋の東西を問わず生きていくうえで気をつけないといけないことはさほど違いはないことに気づかされます。もっとも類似性の高いものを集めてきたということも考えられますので、多少は割り引いて考えた方がいいかもしれません。
タイトルの通り本書はことわざの比較がメインではなく、文化社会学の方が主体となります。この着想は実に新鮮で、ことわざというフィルターを通じて文化社会学を語るという珍しいスタイルになっています。とりわけ筆者が専門分野とする項目では迫力を感じる論調になります。その反面社会学の範疇を通り越してお雑煮やベンチャーズ・王貞治の一本足打法などその時々の風俗についても話題が広がり、お堅い部分と穏やかな部分とのギャップが筆者の人となりを表しているように感じました。
ことわざは古い時代から受け継がれてきた教訓ですが、現代の時事問題と重ねることでこの時代の課題も浮き彫りになり、昔の言葉が今の時代の言葉として生命を持つことが改めてわかりました。2020年を象徴する新型コロナウイルスの話題が昔からの言葉で表現されていましたが、ニュースなどを読むよりもリアルに感じてしまいました。
(辻田 浩志)
出版元:北海道大学出版会
(掲載日:2021-01-04)
タグ:ことわざ
カテゴリ その他
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ことわざから出会う心理学
今田 寛
大学で心理学を履修しました。様々な履修科目の中でもっとも興味があった学問でした。「人の心理がわかる」というすごく単純な興味は幻想に近いものだったというのが、実際に授業を受けた感想です。私が授業で学んだ心理学は実に淡々とした研究結果の集積みたいなものがほとんどで、私が期待していた「人の心が読める」的なHow to本によくある人の興味をそそるものとはかけ離れていたのです。
本書を手にしたときには、ことわざに表現される状況の心理描写を書いたものだと思ったのですが、予想に反してしっかりした学術的な理論が紹介されているのに驚きました。普段よく使われることわざを、学術的な心理学の研究と結びつけるというギャップは、あたかも水と油を結びつける界面活性剤にたとえても面白いかもしれません。
さらに本書を読むにしたがって、ことわざが主役ではなさそうなことに気が付きました。むしろ様々な研究を結びつける役割をことわざが担っているに過ぎないという感じすらしました。ひょっとしたら筆者の意図はそれぞれ異なる心理学の研究をことわざというワードで関連性を持たせているのかもしれません。ことわざを読み解くツールとして心理学を引っ張り出してきているんだと思い込んで読み始めた私は、筆者に一本取られたのでしょうか。
私が学生のころ学んだ心理学はあくまで基礎中の基礎であり、単品の研究を教わっただけで、それらの関連性がなかったがために面白みもなく興味が薄れていった記憶があります。ところが本書のように馴染みのあることわざに絡ませて小難しい心理学の知識を展開することで、身近なものとするばかりかそれぞれ単品の研究がことわざを介して関連性を持たせようという筆者の思惑を意識せずにはいられませんでした。さらには一つのことわざに関連して数多くの研究が登場するところは、筆者の懐の深さを垣間見た気がします。
私が感じたことが的を得たものなのかも疑問ではありますが、ひょっとしたら私が感じ取れなかったもっと別の何かがあるのかもしれません。
プラシーボ効果や血液型と性格など興味を引く題材が多かったので読み始めとは別の角度からの興味がわいてきました。学問も切り口を変えるだけでこんなに面白いものであることが証明されたのではないでしょうか。「活きた学問の断片」を見たような気がしました。
(辻田 浩志)
出版元:ミネルヴァ書房
(掲載日:2023-01-31)
タグ:心理学 ことわざ
カテゴリ その他
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