「北島康介」プロジェクト2008
長田 渚左
アテネオリンピックと北京オリンピックにて、2大会連続で100m平泳ぎ、200m平泳ぎの2種目共に金メダルを獲得した北島康介選手。そのメダルの陰には、通称「チーム北島」と言われる各分野のスペシャリストである5人のスタッフの存在があった。
本書では、コーチである平井氏と北島選手が出会ったときから、アテネオリンピックで金メダルを獲得するまでのスタッフ5人と北島選手の努力の日々が描かれている。
北島選手とコーチである平井コーチが出会ったのは、北島選手が14歳のとき、特別泳ぎが速いわけでもなく、体格も決してよいとは言えない平凡な選手の一人であった。ある日、平井コーチの仕事先でもあり、北島選手が通っていたスイミングスクールで二人が会話をしたとき、「何者も恐れないというような光のある眼」に将来性を強く感じ、平井コーチは北島選手を育てることを決心する。その後、北島選手をオリンピック選手に育てるため、平井コーチに加え、映像分析、戦略分析、肉体改造、コンディショニングのスペシャリストが立ち上がり、アテネオリンピックで金メダルを獲得するまでのそれぞれのスタッフから見た北島選手の当時の様子やスタッフの率直な気持ちが描かれている。
チーム北島と言われる5名のスタッフも、オリンピックで戦う選手を支えている立場だからこそ感じるプレッシャーや不安や苦悩の日々があったことを改めて感じとることができた。また、北島選手自身もメディアでは映し出されていない、大会前後の気持ちや想像を絶するような努力の日々が描かれている。
このように、選手からスタッフまで、さまざまな視点から描かれている1冊である。
(清水 歩)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2012-10-13)
タグ:水泳 スタッフ
カテゴリ 人生
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「北島康介」プロジェクト2008
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「北島康介」プロジェクト2008
長田 渚左
言葉通りの結果と期待以上の感動
北京オリンピックの表彰台に立つ3人のアスリート。中央は一段高いはずだが、頭の位置が皆変わらない。そんな体格的に決して恵まれているわけではない中央のアスリートは、試合前に誰よりも強い眼の光を放つ。自ら世界記録を出して金メダルを獲得することを明言した。周囲の期待を一身に背負っていた。他人には計り知れない重圧の中、その言葉通りの結果を、そして期待以上の感動を見せつける。そんな男にはなかなかお目にかかれない。
本書はその男、北京五輪で2つの金メダルと1つの銅メダルを獲得した競泳平泳ぎの北島康介選手と、彼を支える「チーム北島」についてのドキュメントである。言わずとしれた平井伯昌コーチを軸に、映像分析担当・河合正治氏、戦略分析担当・岩原文彦氏、肉体改造担当・田村尚之氏、コンディショニング担当・小沢邦彦氏という「5人の鬼」が描かれている。2004年に刊行された『「北島康介」プロジェクト』に、新たな取材をもとに加筆され、北京五輪を前に発行されたものである。
勝負の「鬼」
北島選手はまさに勝負の「鬼」と呼ぶにふさわしい眼光を持っている。その彼が「鬼」と呼ぶ平井コーチは、一見すると温和そうな風貌である。しかし、「選手をコーチのロボットにしては駄目だ」「選手はコーチを超えていかないと駄目だ」「選手は勝手に育つんです」「康介の康介による康介だけの泳ぎを考えた」「既存の××理論などに康介をはめたのではない。康介から良いところだけを引っぱり出すために何かをプラスしたのではない。余計なものを削ぎ落としてシンプルにした」といった語録を見ると、確固たる己の人生哲学を基礎にコーチングしていることがわかる。
もちろんこれらの発言そのものではなく、それを北島康介というたぐいまれなるアスリートの中に昇華させたことが凄いところだ。100mと200mがまったく別物だという水泳界のそれまでの定説を「やり方しだい」と考えを巡らせたことや、一般的には欠点とされる身体の硬さを、逆にどう活かすかという工夫につなげたエピソードなどにそれが垣間見える。そのほかにもさまざまな観点から北島選手をサポートし育て上げるチームの奮闘は読み応えがある。それにしても0.1秒の違いを身体で感じ取る感覚が必要になるのだから、常人には理解できない世界である。
チームの相乗効果
いわゆる集団競技でも、強いチームは選手やスタッフの巡り合わせがいい。互いの相乗効果でチーム力が期待以上に上がるからだ。チーム北島は高いプロ意識と実力を持った専門家の集まりだが、このチームの相乗効果というものがどれほど凄まじいものだったかは、その結果を見て推して知るべし、である。もちろんアテネ五輪以後の4年間だけでもその過程で失敗や苦悩がどれだけあったのか想像もつかない。
そんなことを考えると、「よくやった」と気安くほめることさえはばかられる思いがする。ただただ感動するのみ。たとえどんな結果であったとしても、それは国を代表して五輪に参加した多くのアスリートに対しても同様である。
(山根 太治)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2008-11-10)
タグ:水泳 スタッフ
カテゴリ 人生
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8人のキーマンが語る ジャパンラグビー革命
上田 昭夫 大元 よしき
キーマンへのインタビュー
2009年6月、20歳以下の世界大会「IRBジュニアワールドチャンピオンシップ 2009」が日本で開催される。この大会は、2015年および2019年度ワールドカップ開催国に立候補している日本にとって重要な試金石となる。両ワールドカップとも日本以外に7カ国が立候補しており、その発表が2009年7月28日、同時に行われるのである。次世代を担う若いチームが世界中から集い、熱戦を繰り広げるこのジュニア大会をどう運営するか、その手腕がワールドカップ開催地決定に及ぼす影響は大きい。
本書はそんなラグビー界を改革せんとする8人のキーマンへのインタビューをまとめたものである。インタビューを行った著者の1人、上田昭夫氏は元日本代表選手であり、かつて慶應義塾體育會蹴球部を日本一に導いた名将でもある。上記の「ジュニアワールドチャンピオンシップ 2009」ではトーナメントアンバサダーに就任している。
8人のキーマンとなるのは日本代表ヘッドコーチであるジョンカーワン氏はじめ、日本代表GM、トップリーグ最高執行責任者、大学指導者、高校指導者など、さまざまな立場の方々である。タイトルの「革命」という言葉は誇張があるにしても、ラグビー界は今どこに進もうとしているのか、その現状についてそれぞれの立場で語られる内容は、時折相反する考えも見え隠れし興味深い。
ラグビー界活性化に期待
日本代表の強化、日本ラグビーを牽引するトップリーグの運営、この競技に注目を集め、しかも大規模な収益を見込める国際的イベントの招致、学生ラグビー界の取り組み。これらが競技人口増加や集客率向上、ひいてはラグビーという競技の隆盛につながればと、今は草ラグビーに興じるだけの我が身でもそう思う。ラグビーが盛んなはずの大阪府下の高校生大会でも、合同チームの数が増えているし、トップリーグのメディアへの露出がまだまだ少ないことにも寂しさを感じているのだ。
さて、ラグビー界でそれぞれ重要なポストに就いている8人のキーパーソンの中で、個人的に最も注目したいのは、ATQコーチングディレクターという立場の薫田真広氏だ。ATQ(Advance to the Quarterfinal)とは、ワールドカップ2011年大会でベスト8に入ることを目標に、ユース世代を中心とした選手、コーチ、レフリー、競技スケジュールおよびスタッフを強化・育成するプロジェクトのことである。薫田氏は東芝ブレイブルーパスを常勝軍団につくり上げた後勇退し、現職に就いている。その手腕が若手育成に一石を投じ、高校ラグビー界や大学ラグビー界にもよい波を広げることを期待する。
そして将来の代表の軸となる選手の育成は、トップリーグの新陳代謝活性にもつながるはずだ。ベテランと若手が混在するチーム編成も見応えがあるし、長年トップに君臨し続けるビッグネームプレイヤーも畏敬の念を持って応援したい。しかしそれ以上に、ベテランプレイヤーに引導を渡す若い力が次から次へと顔を出す、そんな活性化されたラグビー界も見てみたい。
(山根 太治)
出版元:アスペクト
(掲載日:2009-01-10)
タグ:ラグビー スタッフ
カテゴリ その他
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