スポーツ競技学
L.P.マトヴェーエフ 渡辺 謙 魚住 廣信
運動学やコーチングを学術的に学ぶ上で、避けて通れないのが旧東ドイツのクルト・マイネルとロシアのレフ・パヴァロッチ・マトヴェーエフの両巨頭である。マイネルが人文学的要素が強いのに対して、マトヴェーエフは自然科学の要素が強い。
そんなマトヴェーエフの集大成とも言える本書の概念はトップアスリートの現場を骨太に支えている。本書で述べられている長期計画、試合から逆算して各段階においてするべきトレーニングは4年周期のオリンピックでメダルを目指すためには欠かすことができない。
またピリオダイゼーション、ピーキング、テーパリングという考え方は場合によっては真面目な日本人には馴染みにくい考え方かもしれないが、本書を読めば納得し、オリンピックのない年であっても選手の成績の変動を温かく見守ることができるかもしれない。
また普段はそれほど追い込んで練習はせず、試合が近づくと人が変わったように練習やトレーニングを頑張るものの、勝利に結びつかない選手が読むと、いかに自分が勝てない練習をしているのかがわかるかもしれない。いわゆる“試合前”よりも前の準備として何ができていなければならないのかが記されている。
ロンドン五輪がある2012年はリオディジャネイロ五輪のスタートの年でもある。スポーツの現場を志す方はもちろん、現在スポーツの現場に関わっていない会社員でも、会社の朝礼などで長期計画の重要性を説くにはお勧めの書である。
(渡邉 秀幹)
出版元:ナップ
(掲載日:2012-10-16)
タグ:トレーニング ピリオダイゼーション テーパリング ピーキング
カテゴリ トレーニング
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テーパリング&ピーキング 最適なパフォーマンスのために
Iñigo Mujika 水村(久埜)真由美 彦井 浩孝 寺本 寧則
テーパリング戦略の現実は試行錯誤の積み重ねであるうえに、競技特性や個々の選手によってもやり方が変わってきます。さまざまな要素が絡むために基礎となるべきデータの集積と問題点の整理が必要とされますが、それらをまとめ上げたものが本書だと言えます。
現場でテーパリングとピーキングをプログラムする際の参考として役立つものが項目別に整理されています。
テーパリングの生理学的見地と心理学的見地からの考察。具体的に数値化されたトレーニングの変化。各競技にあった方法論などが網羅されています。しかもそれらが単なる数字集めにとどまらず、問題点の掘り起こしや重要度の違いについても言及されているので活きたデータといえるでしょう。膨大なデータに裏付けされた解説には重みがあります。
練習量や運動強度、あるいは期間やペースなどをむやみやたらと減らしていけばいいというものでもありません。あくまでも試合のときに最高のパフォーマンスを発揮させることが目的ですから、テーパリングプログラムをデザインするときの目安として強い味方になりそうな内容です。
進め方でありがたかったのは「一目でわかる」という結論の表記。難解な部分も多かったので、理解できないときは結論から読んだ後に詳細を読んでいけば、頭の中で整理されるので助かりました。
(辻田 浩志)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2017-10-17)
タグ:テーパリング ピーキング
カテゴリ スポーツ医科学
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テーパリング&ピーキング 最適なパフォーマンスのために
Iñigo Mujika 水村(久埜) 真由美 彦井 浩孝 寺本 寧則
テーパリング(tapering)とは、「漸減させる」という意味である。
トレーニング指導においてチームから求められることは、試合でのパフォーマンスの最大化であることは言うまでもない。コーチやトレーニング指導者は試合直前まで選手のパフォーマンス向上を目指しながら、同時にケガの発生と疲労による影響に注意しなければならない。
本書は前半でテーパリングによる身体的・心理的変化に関する研究、パフォーマンス向上のためのテーパリングメソッドを解説し、後半ではオリンピックや世界選手権で結果を残した一流選手の試合直前のコンディショニング=テーパリング記録を紹介している。
非常に興味深かったのは、第7章のトレーニングの数理的モデル化である。選手に影響を与える要素はトレーニングはもちろん生活環境や人間関係も含めありとあらゆるものがあるが、それらとパフォーマンスとの関係を可能な限り簡略化するものである。これよってそれまでの章のテーパリングの研究結果やメソッドの理解が格段に深まり、指導者がこれから実施するテーパリングの効果を予測しやすく、コントロール可能なものにする。現場にいる人間が理解・実行できる内容であることは非常に重要なポイントであろう。
瞬発的競技、持久的競技、個人競技、チーム競技など、競技特性別にポイントを解説しているのも魅力的である。豊富な科学的知見とそれらが理解しやすい構成の本書は、指導の質の向上だけでなく、選手に対する説得力や他スタッフとの円滑な連携にも寄与するはずだ。
(川浪 洋平)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2019-09-25)
タグ:テーパリング ピーキング
カテゴリ スポーツ医科学
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ピーキングのためのテーパリング 狙った試合で最高のパフォーマンスを発揮するために
河森 直紀
選手をサポートするトレーナーの方であれば、試合に勝って勝利の喜びを分かち合うこともあれば、日々厳しい練習を積み重ねながらも、コンディショニングがうまくいかず、思い通りのパフォーマンスが発揮できずに試合を終える選手を、ただ歯がゆい思いでみているしかない経験をしたことがあるはずだ。本書はそんなあなたに「フィットネスー疲労理論2.0」という武器を授ける。
内容はピーキングを構成する手法の1つ、テーパリングに焦点をあてて解説している。第1章ではテーパリングの定義とピーキングとの違いを明確化し、第2章でテーパリングのメカニズムを解説。またPreparednessという概念を紹介している。Preparednessとは、パフォーマンス発揮のための筋力や持久力などの身体的ポテンシャルのことである。第3章では実際のテーパリングの介入方法を4つのシナリオを例に紹介している。
冒頭で申し上げた通り、本書の最重要項目は「フィットネスー疲労理論2.0」である。本書はこの理論を理解するための一冊と言っても過言ではない。少し紹介しよう。
古典的な超回復理論はトレーニング後の疲労という一つの要因による体力レベルの変化をみせる一元論モデルである。それに対してフィットネス−疲労理論はフィットネス(体力レベル)と疲労の二元論モデルである。これをもとに発展させたものを、「フィットネス−疲労理論2.0」として、著者の河森氏が紹介している。簡単に説明すると、複数のフィットネスと疲労が存在する多元論モデルである。たとえば最大筋力におけるフィットネスと疲労、最大酸素摂取量におけるフィットネスと疲労、などで構成される。
パフォーマンスに影響を与える要素は数多くあり、また目標とする試合で最も必要とされるパフォーマンスも、競技種目や対戦相手との相性などによって変化する。それらが可視化・数値化、比較可能なものとなり、テーパリング計画の優先度の決定が可能になる。もちろん、テーパリングを必要としないオフシーズンのトレーニング計画の立案にも応用できるだろう。
著者は河森直紀氏。アメリカとオーストラリアの大学院で博士号を取得し、シンガポールの政府機関や国立スポーツ科学センターでのトレーニング指導を歴任。理論と実践に裏付けられた本書の内容は必ずあなたの武器になるはずだ。
(川浪 洋平)
出版元:ナップ
(掲載日:2020-04-25)
タグ:テーパリング ピーキング
カテゴリ スポーツ医科学
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