スポーツドクター
松樹 剛史
この本は、主人公夏樹を中心にいろいろなアスリートの心情が描かれている。スポーツに関わる人のバイブルといってもいいと思う。各章、各章に非常に心に残るセリフが多い。
第一章はACLを損傷してしまった夏樹が高校最後の大会をやり遂げる、熱いストーリーから始まる。最後の試合を間近に控え、自らの膝への不安を抱えながらもキャプテンとしてチームを支えていこうとする。「一年も休んだら、もうわたしたちの部活は終わってしまっている。そのことに比べたら、一人で膝の不安と闘うことなんて、なんにも怖くなかった」。ドクターから告知をされた直後の夏樹の言葉の多くが重く、共感を覚えた。
第二章は、野球肘の少年とその両親のストーリー。自分の夢を子どもに叶えさせたいと強く願うがため、子どもをみることを二の次に、自分の考えを押しつける。子どもを大人の小型にしたものとして扱ってしまう。
第三章は、摂食障害の女性水泳選手のストーリー。大切な人の期待に応えたい。そのためにはトレーニングで身体を鍛えていかなければならないが、女性としてみてほしいから筋骨隆々にはなりたくない。女性ならではの葛藤、切ない恋のストーリーである。この2つの章ではとくに、選手を取り巻く家族やコーチとの関わり方が、ドクターの会話方法から勉強になった。
第四章は、女性水泳選手のドーピングのストーリー。ドーピングを禁止すべきとする立場と、相対する承認すべきとする立場の意見が述べられている。また、ドーピングの病態・生理学的な内容から、検査法まで載っている。体験談も含んでおり非常にリアルである。「ルールを定めているからとか、練習をしているからとか、そういうことではありません。ドーピングをしたことで泣いている人がいる。だから私はそれを悪と断ずることができます」と言い切った看護師のセリフは簡潔かつ壮快。とくにこの章は熱く響いた。
人を動かすには人の立場に身を置くことが大切である。スポーツに関係する職業の方は、過去に選手であったが多く、その経験をもって選手、スポーツ、広くは社会に貢献しようとする方が多いと思う。しかし、月日を重ねると共に選手時代の気持ちが薄れ、指導者や評論家としての立場からの視点のみで働いてしまっていないだろうか。この本は自分の選手時代を思い出し、初心に帰るきっかけとなると思う。
(服部 紗都子)
出版元:集英社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:傷害 摂食障害 バスケットボール 水泳 野球 ドーピング
カテゴリ フィクション
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アナボリックステロイドとはいったい何だ
吉見 正美
スポーツで決して行ってはいけない不正の1つにドーピングがある。オリンピックや世界選手権などでメダル剥奪、出場停止といった話は毎回のように出てくる。ドーピングは検査と追う側と追われる側の歴史でもあり、情報が出てしまえば相手に裏をかかれてしまう。
しかしドーピングにも禁止物質や禁止方法など複数あるが、それらが身体にどういう影響があるのかきちんと語られている書籍は少ない。本書では筋肉増強剤として知られている、アナボリックステロイドについて述べられている。
ドーピングを行っても必ず勝利が約束されるわけではなく、その不確実な勝利の代償として、ドーピングは確実に身体を蝕む。勝利を欲するあまり、悪魔に心を売り渡してしまわぬように、倫理観のトレーニングも必要である。
近年は個人輸入をしたサプリメントや市販薬、漢方薬でドーピング違反に問われることも多くなってきている。競技者だけではなく、われわれコーチも気をつけなければならない。
(澤野 博)
出版元:体育とスポーツ出版社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:ドーピング 生理学 倫理
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ哲学の入門 スポーツの本質と倫理的諸問題
シェリル・ベルクマン・ドゥルー 川谷 茂樹
タイトルに入門とある通り、スポーツ哲学のトピックが網羅された労作だ。とくに現代社会におけるスポーツの価値や、ドーピングなどの倫理的問題について多くのページを割いている。すぐに目を通せる分量でも、結論を得られる分野でもないが、スポーツに関わるなら知っておくべき内容ではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ナカニシヤ出版
(掲載日:2012-08-03)
タグ:スポーツ哲学 倫理 ドーピング
カテゴリ スポーツ社会学
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うっかりドーピング防止マニュアル
遠藤 敦
本書は日本アンチドーピング機構(JADA)に認定されたスポーツファーマシストが、ドーピングの基礎知識、検査制度、禁止成分、ドー
ピング防止に関わる組織などについて丁寧に説明したものである。
世界でのドーピング検出数は1~2%なのに対し、日本では0.1~0.2%と格段に低い。しかも、日本ではほとんどが競技力向上のために故
意に禁止物質を使用したためではなく、「うっかりドーピング」によるものだという。「うっかりドーピング」はサプリメントに含まれる
成分、風邪薬など他の疾病治療のための薬、そして、時には食肉用家畜の肥育に用いられ残留した薬物など、気づきにくく、身近なところ
に原因がある。
本人が意図しない「うっかりドーピング」であっても、お目こぼしはなく、競技力向上目的のためのドーピングと同様に処罰の対象とな
る。ドーピングを意図しないから「関係ない」と軽視するのではなく、意図しないからこそ「うっかりドーピング」をしてしまわないこと
の重要性を説いている。
ドーピングに関して知っておきたい内容がわかりやすくまとまっているので、選手、コーチ、トレーナーなど、競技に関わるならば読ん
でおくことを強く推奨したい。
(西澤 隆)
出版元:
(掲載日:2015-06-12)
タグ:アンチドーピング
カテゴリ 指導
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うっかりドーピング防止マニュアル
遠藤 敦
著者は公認スポーツファーマシスト。競技力を上げるために故意に薬物を摂取したのではないのに陽性となって失格となってしまう「うっかりドーピング」を防ぐべく、選手やスタッフが知っておくべき知識をマニュアル化した。
風邪や花粉症のときの服薬には気をつけている選手は多いだろうが、ライバルを陥れる「パラ・ドーピング」なるものも存在するという。自分の身体に入るものには自分で責任を持たなければと改めて思わされる。そうは言ってもドーピング防止規定は細かく、用語も難しいと弱気になってしまいそうだが、本書ではスポーツファーマシストへの具体的な相談方法にも触れている。まずは手に取ってみてほしい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:リバネス出版
(掲載日:2014-08-10)
タグ:ドーピング
カテゴリ スポーツ医科学
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Q&Aでわかるアンチ・ドーピングの基本
第一東京弁護士会 総合法律研究所 スポーツ法研究部会
オリンピックなどの国際的なスポーツの大会を見ていると、ドーピングという言葉を聞くことがあるでしょう。「自分が有利になるために薬を飲んだり注射したりする」という認識の方が大半だと思いますが、ドーピングの定義や規制は思っている以上に複雑なものです。日本においては、カヌー競技の選手が日本代表を争うライバルのドリンクに禁止されている物質を混入させたという事件が記憶に新しいと思います。この一件では、混入された側の選手は資格停止の処分が下らずに済みましたが、知らずのうちに摂取してしまった形であっても、場合によっては資格停止などの処分が下されることがあります。知っているようで知らないドーピングのこと。その世界はいったいどれほど細かいのか。どのような対策がなされているのか。
本書ではドーピングとは何かについてや検査の方法、疑われないためにアスリートが気をつけるべきこと、また日本や世界ではドーピングという行為に対する対策がどのように進められているのか、選手はどうすべきなのかというアンチ・ドーピングについて、実際に起きた事例も交えて述べています。
アンチ・ドーピングについて知ることでスポーツに対する理解も深まるかと思いますが、実はアンチ・ドーピングは世界や国内トップレベル選手だけの話というわけでもありません。本書の中にも事例がありますが、一般レベルの競技力であっても、競技会によってはドーピング検査の対象となることがあります。選手としてそれなりの大会に出る機会がある人は、ぜひ本書でアンチ・ドーピングについての知識を手にしていただきたいです。
(濱野 光太)
出版元:同文舘出版
(掲載日:2019-08-24)
タグ:ドーピング
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ現場で知っておきたい薬の話
原田 知子
薬の話と聞くと、私自身も苦手意識が強まり、避けたい話題と感じてしまう。アスレティックトレーナーとして、スポーツ現場で活動しているときに非常に苦手な分野だった。今思うと、薬のメカニズムを本当には理解しようとせず、薬がもたらす身体への作用を自分の知識で説明することが難しいと感じていた、単純な苦手意識だったと稚拙に感じる。
本書、第1章にある「身体に対して何らかの効果をうたっているものはすべて医薬品とみなされ、薬事法の規制を受けることになる。」ということがさらにその気持ちを助長させていたのではないかとも感じたが、読み進めるとそうではなかったことに気づかされる。身体に何らかの作用を謳うことはスポーツの業界でも散見するが、必ずしも法の規制を受けているわけではない。医薬品も同様であることを丁寧に説明してくれている。
本書は薬の効果効能だけでなく、その薬を使用したときの身体反応や細胞レベルでの反応、いろいろな形で起こる相互作用まで解説してくれている。直接、薬とは関係のなさそうないわゆるトクホ(特定保健用食品)の話やジェネリック医薬品、食品の話など、アスリートに関係すると思われる様々な視点で解説してくれている。
また、コロナで話題になった、薬やワクチンができるまでの話など、通常聞けない専門書に書かれているような話を分かりやすく解説してくれている。さらに、薬の管理やドーピング、海外への持ち出し、特に他国への持ち込みなど、スポーツに携わるスタッフの非常に大きな問題を大変分かりやすく解説してくれている。
スポーツ現場で運動指導に当たる関係者の中でも、アスレティックトレーナーは医療関係者とアスリートの間でコンディショニング調整を行う必要がり、薬の話は知るべき内容であることは疑う余地はない。周知の事実として、ドーピングコントロールという概念が求められるため、アスリートが薬を服用する場合は、アスリートやアスリートを支えるスタッフは、一般的な効果効能以上に気を付けて服用しなくてはいけないということをさらに強く感じることができた。
それ以外にも最後に書いてくださった選手教育に関しての話は、指導者やアスリートに一番近い在存の親子さんたちにとっても大切なことであり、一番基本的なコンディショニング把握の一歩目になることが、本書を通して実感することができる。本書は薬のことについて質問を受ける可能性のある人にとっては、必携の一冊といっても過言ではないと痛感する。
(河田 絹一郎)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2021-07-26)
タグ:薬学 ドーピング
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ現場で知っておきたい薬の話
原田 知子
アスレティックトレーナーに向けて薬について知っておきたい知識が満遍なく書かれている一冊です。
・薬の基礎知識
・症状別に薬剤について作用やメカニズム、注意事項について
・サプリメントやドーピングについてなど
のように、薬をテーマに様々な角度から解説してあります。
とくに症状別のところでは、それぞれの疾患について身体の構造から疾患発症の仕組みなどから詳しく書かれているため、薬がどのように作用しているのかが分かりやすい内容になっています。
内科疾患についてあまり学んでいない方々にとっては、テーマは薬ですが、この一冊で様々な疾患について発症から治療までの流れをつかむことができるので、その都度調べてみるのも面白いと思います。
薬を服用している人はどこにでもいるので、スポーツに関わる方だけでなく、一般の方やスポーツ以外の医療に関わっている方も読みやすく書かれており、いつでも手に取れるようにそばに置いておくと便利です。
個人的には、薬の詳しい知識を得るためと疾患についての復習に使える一冊です。
(山口 玲奈)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2022-02-10)
タグ:薬学 ドーピング
カテゴリ スポーツ医科学
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