レジスタンストレーニングのプログラムデザイン
S.T.Fleck W.J.Kraemer 長谷川 裕
レジスタンストレーニングのプログラムデザインとは、表現を換えると、筋力トレーニングの処方・立案ということになる。
この本の最大の特徴は、「科学的エビデンス」を追及したという点である。
本書は原著第3版の翻訳だが、序文で編著者は、第2版の出版以降、1万件を超える広範なレジスタンストレーニングの科学的研究文献が発表され、その最新データを反映させたと記している。第3版では、これまで「標準的な男子大学生」に関するデータが長く中心だったのに対し、女性、高齢者、子どもについても続々と公表されるデータを整理、第3部としてこれら3つの集団に対して約70頁を割いて解説している。また、近年分子生物学の発展が著しいが、この本ではその成果も活かされている。
レジスタンストレーニングをクライアントや患者さんに処方するとき、その根拠が求められる時代。トレーニングに正しさを求めるのは難しいところが多いが、膨大な文献を駆使して、一定の基準を設けようとする編著者の姿勢は評価される。「どこまでわかっているか」、そのエビデンス確保とまさに処方のために活用していただきたい。
S.T.Fleck/W.J.Kraemer編著、長谷川裕監訳
2007年1月31日刊
(清家 輝文)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2012-10-11)
タグ:トレーニング プログラムデザイン
カテゴリ トレーニング
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中高年の運動実践ハンドブック
大久保 衞 土井 龍雄 池端 裕子 尾陰 由美子 竹尾 吉枝 高橋 正行
超高齢社会はいつ来るか。そんな疑問を持つ前にまず本書を読んで欲しい。副題は運動・スポーツに遅すぎる歳はない。
本書は運動プログラムを組み立てる指導者たちに向けられたもので、筋力トレーニングや、エアロビックダンス、ウォーキング、アクアエクササイズ、チェアエクササイズなど、多くのエクササイズが網羅されている。また「指導者のための内科学」として、中高年の特徴や、救急対策、生活指導のコツ・注意点にも触れ、「指導者のための整形外科学」では運動器の問題点や、各関節へのアプローチ方法など、どれも運動プログラムに欠かせない内容となっている。
とくにエクササイズに関しては、写真を用いているのでわかりやすく、解剖学的な観点でも絵を使って解説している。実際に高齢者に向けての運動指導の方法がわからないという人はもちろん、再確認のため、知見を広げたいという人にも目を通していだきたい内容である。
来年の2008年4月からいよいよ特定健診と特定保健指導が始まる。本書を現場でのバイブルとして座右に置いておくのもよいだろう。(M)
大久保衞・編著、土井龍雄・池端裕子・尾陰由美子・竹尾吉枝・高橋正行著
2007年7月20日刊
(三橋 智広)
出版元:昭和堂
(掲載日:2012-10-12)
タグ:中高年 運動 プログラム作成
カテゴリ 運動実践
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アマチュアスポーツも金次第
生島 淳
お金をめぐって
「人生に必要なものは、勇気と想像力、それとほんの少しのお金だ」とはチャールズ・チャップリンの「ライムライト」の中での言葉。「金は必要だが重要ではない」という人もいれば、「金で買えないものはない」という人もいる。金にはそれを扱う人間を映し出す力がある。
本書のタイトルは「アマチュアスポーツも金次第」である。アマチュアスポーツと金の関係にネガティブな印象を与える言い回しだ。西武の裏金問題そして高校特待生問題で、アマチュア野球界が揺れている時期に合わせてキャッチーなコピーになるような意図があったのだろう。ただ、これは短編集の中から一編の題名をそのまま本のタイトルにしたような格好で疑問が残る。その実、松坂のポスティングシステムやサッカークラブ経営についての話が後半部分を占めている。しかもアマチュアスポーツにおける金の話も、断罪されるべき不透明な金と、強化費としての金、あるいはビジネスとしての金の動きが同列で扱われている印象がある。
西武の裏金問題と野球特待生問題にしても、本来、両者は別問題として議論されるべきものだろう。それが、金儲けのためにあざとく両者をつなげていた連中が存在するおかげで、同列に扱わざるを得ない事態になってしまった。それにしても朝日新聞や毎日新聞のトップの方々を最高顧問に戴く日本高等学校野球連盟が、特待生制度について当初ヒステリックとも言える対応に終始したのは、正直驚きを禁じ得なかった。いや、もちろん憲章に背くルール違反をしていたことは確かではあるのだが。現在は、10月初旬までに提言をまとめるべく、第三者委員による議論が行われている。この態度を軟化させた高野連の譲歩により、他の競技にも好影響を与えるだけのクリーンな基準づくりができれば素晴らしいことだ。
健全な流れを
とにかくアマチュアスポーツといえどもお金はかかるのだ。競技レベルが上がれば上がるだけその金額は跳ね上がる。本書でも再三述べられているとおり、これは事実だ。しかし、すべてをひとまとめにして「金次第」と切って捨てることに今さら意味はない。スポーツビジネスとはスポーツという舞台でどのようにお金が流れているのかを分析し、またどのようにお金を生み出すことができるのかを論じるだけのものではないはずだ。する側よし、観る側よし、支える側よし、スポーツ界ひいては世の中よしという健全なお金の流れをつくる学問でもあるはずなのだ。優秀な指導者にはブローカーのような真似をしなくても正当な報酬が渡り、自らの才能によってお金を生み出すことのできるスポーツ選手には優良で健全なビジネス感覚を身につけさせることも、その分野の果たすべき役割ではないだろうか。
プロとアマチュアのつながりも、プロ選手が将来を夢見る子どもたちに指導するイベントなど、素晴らしい試みも数多く行われている。金の流れの整備が終われば、光が当たるべき側のプロとアマチュアの関係がよりよく発展することを願う。5月末に、「侍ハードラー」為末大選手が丸の内のオフィス街で行った陸上イベントは、素晴らしいお金の使い方ではないか。あの種のイベントにより、興行側が投資以上の儲けを得て、さらに面白いイベントや新しい試みにつなげられるのであれば素晴らしいことだと思う。そのような金は、やはり違って見える気がする。
(山根 太治)
出版元:朝日新聞社
(掲載日:2007-09-10)
タグ:プロ アマチュア お金
カテゴリ その他
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三澤式プロレスストレッチ THE BODY HEAT
三澤 威士
世の中にはプロレスに熱狂する人たちが数多く存在する。この本はそのような人たちに最適な一冊であろう。通常、プロレスはリング上でみられるものだが、プロレスラーがリング外でどのようなトレーニングを行っているかは案外知られていないはずである。さらにプロレス団体にトレーナーという職業が存在するとは意外である。
本書では図解や写真を数多く使用してプロレスラーが行っているストレッチを解説している。また、解剖学の専門用語をあまり使用していないために専門的な知識がない人たちでも容易に読めるように工夫されているのが本書の特徴である。プロレスラーのトレーニングに興味を持っている人たちは本書を読んでぜひ実践していただきたい。
そして、本書では著者である三澤氏のプロレスラー現役時代の話も盛り込まれている。試合中に頸椎損傷をしたときから、トレーナーという仕事に就くまでの経緯が書かれており、テレビなどではわからないプロレスラーの人生を知ることができる。このような部分もプロレス好きにはたまらないであろう。
(吉田 康行)
出版元:イーハトーヴフロンティア
(掲載日:2012-10-13)
タグ:ストレッチング プロレス
カテゴリ 運動実践
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現役力
工藤 公康
引退に至るまで何を考えたか
引き際をどう飾るか。生きていく上で誰もが直面することだ。幸運にも自分の意志で進退を決められることもあれば、否応なくたたきつけられる残酷な現実を受け止めなくてはならないこともある。スポーツの世界でも、まわりの誰もが惜しむタイミングで華やかな引退劇を演出する選手もいれば、最盛期から見れば隠せない衰えに正面から向き合い、現役にこだわり、燃え尽きてひっそりと引退する選手もいる。最も多いのは、無残に切り捨てられていく選手だろう。何がいいとか、悪いとか、誰がどう思うのかということは関係がない。自分がその結果をどう考え、受け止めるのか、いや、これも最も重要な問題とはいえない。やはりそこに至るまでに自分が何を考え、どう取り組んできたのか、それが問題だ。
何をまだ求めての現役か
本書は、2009年で実働28年目というプロ野球記録を更新している横浜ベイスターズ投手、工藤公康氏によるものである。考えてみれば、現時点で人生の6割以上の年月にわたってプロ野球選手を続けている。身体は決して大きくはないが、プロ野球界の怪物のひとりだ。これほど長い期間にわたってプロとしてのモチベーションを維持していることは驚きだ。現在まで在籍した4球団中、3球団でリーグ優勝と日本一を経験しているのだから、球界頂点の極みも十分に味わっているはずだ。何をまだ求めているのだろう。
金でも名声でもなく、己の矜持を持ち得る世界で勝負を続けることが、ただ楽しいのかとテレビのインタビューなどを見ていると、そう思える。偉大な選手に失礼ながら、その童顔と遊び心に、野球少年というか野球大好きな悪ガキがそのまま大きくなったような印象を受ける。ただうまくなりたいという純真な子どもの心が、クリクリした瞳にまだ光っている。もちろんそれだけではここまで一線級でできるはずもない。それを現実のものにするための努力と才能という裏づけがあってのことだ。本当に信頼できる人々(だけ?)の話に耳を傾け、何を学び、いかに考え、どう取り組んできたのか、周りへの感謝の気持ちとともに本書に表さ記されている。
強烈なメッセージ
なかでも若手選手への強烈なメッセージが印象に残る。若いウチには想像もできないことが、年齢を重ねて気づいたときには取り返しがつかなくなって後悔することになる、その怖さをよく知っているのだろう。成功体験を潔く過去のものとして次のステップに進む勇気を持ち続けてきたベテランならではの叱咤激励だ。
「自分を変えるために気づくこと」、そして「自分で考え」「答えを自分で見つけ出すこと」の重要性を説き、そんなことすらわからずに志半ばで去っていく後輩たちに沈痛な思いを持っている。同時にそれを誰かのせいにして自分に同情するようであれば「自分でつぶれただけ」だとプロらしく切り捨てている。
己の哲学を持ち、またそれに必要以上にとらわれず、自らを変化させていく。それが厳しくも楽しく取り組める状況に身を置いている人は幸せなのだろう。そして「自惚れず、でも、へこたれず」本当に充実して生きていれば、その先にある結末だけにとらわれる必要はない、とそう思う。
(山根 太治)
出版元:PHP研究所
(掲載日:2009-07-10)
タグ:野球 プロ野球
カテゴリ 身体
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基礎から学ぶ! 筋力トレーニング
有賀 誠司
パーソナルトレーナー資格取得のために、理解を深める参考書としてもってこいではないだろうか。
まず、冒頭では筋力トレーニングの効果が述べられ、筋肉の基礎知識へと入っていく。現代はこんなところまで一般の人が知り得るのか…、と指導する側の質(知識)の向上の必要性を感じさせられる。
次のプログラム作成方法は、基礎事項、一般向け、選手向けと、対象や目的に応じた例が多種紹介されている。
そして、実技編では基本事項と実技に分かれ、豊富な写真はスタート、フィニッシュ、NG、そしてバリエーションや補助の仕方も載っている。一部位のトレーニングでも、マシーンやダンベル、チューブ、自体重など、ツールもさまざまに紹介されていて、多様なシーンでの指導にすぐ役立ちそうだ。もちろん自分のトレーニングのバイブルとしてもグッドだ。これで1600円は安い。
(平山 美由紀)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:トレーニング プログラム作成
カテゴリ トレーニング
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覚悟のすすめ
金本 知憲
今年、阪神タイガースを引退した金本知憲選手が、阪神タイガース現役時代に連続フルイニング出場記録を更新中の2008年に出版された書籍である。
人生の転機にはいつも覚悟があったという金本選手の、覚悟というものの大切さ、覚悟があれば何でもできるということを教えてくれる内容である。本書の中で金本選手は自分自身を弱い、ぐうたら、いい加減、ビビリ…など卑下した表現をすることが多々あるが、常に考えて覚悟をもって行動することですべて克服している。また弱さを克服することで責任感やリーダーシップが生まれ、大きな成果につなげている。努力の人と思っていたが、努力も考え方だと感じさせられた。
最初から最後まで一貫して覚悟についての内容だが、コーチやトレーナーなどの話も出てきて、いろんな人とのつながりも面白く、また球団の裏事情などもストレートに伝えているところがアニキらしい感じがする。野球に生きた金本選手の覚悟についての書籍だが、野球以外での仕事や人生においてもとても共感できる内容で、改めて覚悟について考えさせられる一冊である。
(安本 啓剛)
出版元:角川書店
(掲載日:2013-05-02)
タグ:プロ野球
カテゴリ 人生
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死の臨床格闘学
香山 リカ
この本を読むにあたり、著者について初めて知り得たことがある。それは香山リカという名前がペンネームであるということ。そして大のプロレスファンであるということだ。とりわけ全日本プロレス、ジャイアント馬場氏に思い入れが深いようだ。
それにしてもこの本をどう解釈すればいいのだろう。ジャンルとしてはおそらく現代思想か哲学の部類に入るのか。少なくとも我々が現場指導に生かせるような専門書ではない。自己流に解釈すれば、エンターテイメントでありながら激しく身体がぶつかり合う、危険と隣り合わせであるプロレスに焦点を当て、精神医学や現代思想の見地から死について多角的に考察したものと言えよう。ジャイアント馬場氏の死後、三沢光晴ら大多数の選手が全日本プロレスを離脱、新たにプロレスリング・ノアを設立した。著者はこの頃のキーパーソンであるプロレスラーたちを取り上げている。
正直に言えば、私はこれまで哲学書とは無縁であったので、おそらくこの種の読解力に乏しいことは前置きしておく。が、それにしてもこの本は難解だ。文献や著者自身のエピソードなどからの引用が非常に多く、何度も本筋から脱線してしまう。映画で言うなら途中で何度も回想シーンが入ってくるようなもので、これでは読者はストーリーにのめり込むことができない。それに彼女の文章スタイルなのだろうか、妙に着飾っていて難解な言葉を多用していることがより一層読みにくくしている。
結局何を言いたいのかわからないので、皆様にこの本の要旨をお伝えすることができないことをはなはだ申し訳なく思う。繰り返しになるが、この本を評価するにあたり、このジャンルに対する私自身の読解力不足を差し引いて欲しい。辛口批評となったが、逆にこの本がどんなものか興味を持っていただければ幸いである。
(水浜 雅浩)
出版元:青土社
(掲載日:2015-03-07)
タグ:プロレス
カテゴリ 人生
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強くて淋しい男たち
永沢 光雄
本著は当時活躍していたアスリート達への取材記録ともいうべきものであろうか。当然インタビューも含まれている。といっても、出版されてすでに16年経っているので、現在彼らの多くは引退しているものと思われる。
この中で取り上げられているのは格闘技選手が多いのだが、その中で特に私が興味を持った取材対象を紹介しておきたい。
プロレス団体「ドッグレッグス」。コアなプロレスファンであっても知らない人のほうが多いのではないだろうか。身体障害者(以下、障害者)のプロレス団体である。で、この団体ができた経緯が興味深い。ドッグレッグスは元々はごく普通のボランティア団体だった。
そこに所属する障害者2人がひとりの女性をめぐって対立。女性は2人から熱烈なラブコールを受けるも、どちらにも興味がなく去っていった。2人の間には遺恨だけが残り、それからというもの酒が入る度に女性が去ったのを相手のせいにして殴り合いの喧嘩をしたそうだ。これを見かねたボランティア団体の代表が「プロレスで決着をつけろ!」ということで結成された。
念のために言うが選手たちは皆、障害者である。ロープのない、厚めのビニールシートが敷かれているだけのリングの上で選手たちが熱戦を繰り広げている。マイクパフォーマンスといったプロレスならではのショー的な要素あり、加えてそれ以上に真剣勝負、本気で戦っている。出血することも珍しくないし、見ようによってはマジ喧嘩かと誤解されてしまう(実際はちゃんとプロレスの訓練を受けている)。それゆえ、この団体は常に障害者やボランティア団体から「障害者を見せ物にしている」との批判に晒されてきた。しかし、この団体に所属するある選手が団体のパンフレットにこう書いている。一人の大人としてやりたかったことがプロレスだった。そして、健常者と障害者との間に流れる‘社会の川’に橋を架けるのが障害者プロレスであると(本文より省略して抜粋)。
普段、障害者と過ごす環境にない者が障害者と相対するとき、どういう風に接すればいいのか、どんな会話をすればいいのか、妙な緊張感に包まれてしまうことはないだろうか。普通の会話であっても彼らを笑ったり批判してはいけないのではないかと。しかし選手からしてみれば、リングの上で滑稽なことをすれば笑ってくれればいいし、反則技で相手に執拗な攻撃をしようものなら野次を飛ばしてくれて構わない。あえて健常者という言葉を使うならば、健常者と同じように接してくれたらいいと言う。つまり、彼らにとっては健常者も障害者もないのだ。そういう意味で、「障害者だから」という冠をつけているのは、むしろ我々のほうかもしれない。
かつては入場料がたったの300円、観衆が30人足らずだった興行も、噂が噂を呼んで以降、大きな会場で3,500円取れるまでに大きな興行を打てるようになったそうだ。やがてマスコミにも大きく取り上げられ映画や本になった。
社会通念からいって、こういうイレギュラーな事柄に関しては、とかく批判的に捉えられがちである。そこらのテレビコメンテーターであれば、大上段に構えて批判的なコメントをすることが容易に想像できる。しかしどうだろう。大事なのは当事者がどう捉えているかではないだろうか。プロレス団体ドッグレッグスの選手たちは自らの意思で参加している。志を持っている。充実した人生を過ごしているのだ。もはや外野がとやかくいうことではあるまい。
彼らは立派なアスリートである。
(水浜 雅浩)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2015-08-31)
タグ:プロレス 障害者
カテゴリ 人生
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ドライチ ドラフト1位の肖像
田崎 健太
日本プロ野球新人選択会議、通称ドラフト会議。毎年ドラフト会議で指名された若者たちだけがプロ野球の門をくぐることができます。選手たちにとって野球をやる上で憧れのプロの世界に入るために指名を待つ儀式でもあり、球団にとっては有望な新人を獲得し、より強いチーム編成をするうえでもっとも重要な行事でもあります。
毎年数十人の選手が指名される中、ドラフト1位は12人だけ。当然それぞれの球団においてもっとも期待がかかり、注目を受けます。
ドライチ(ドラフト1位)で指名された選手の中で期待通りの活躍をする選手もいれば、期待外れに終わり寂しく球界を去る選手もいます。その中の8人の選手にスポットを当て、決して報道されることのなかった真実を取材したノンフィクション。
実力不足・不運・タイミングの悪さ・人との出会い・転機。ここの登場する選手の運命みたいな要素は意外なほど一般社会のそれと変わりありません。プロ野球に入る人なんて特別な人であるという認識は読んだ後も変わりませんが。
ただ私たちと大きく違うのは、眩いほどの輝きを放っていることで、これがドライチの背負うものだと確信しました。多くの人が集まってきて、いろんなことを言われ、特別な経験をしています。それなのにテングになるでもなく、冷めた目で周りを見ていたり、狼狽したり、振り回されたり。あまり楽しそうな印象はなさそうです。引退してから取材されたから冷静に振り返っているというのもあるでしょうが、人間、急に持ち上げられるとかえって警戒心を抱いてしまうのかもしれません。
好きな球団を言ったら逆指名と書かれ、ありもしないトレード話をさも真実のように書かれたり、本人にしたら人間不信になってしまうのも無理のないところ。ケガで思うように練習ができずあったはずの伸びしろも削られてしまうのは残酷としかいいようがありません。それでも生きていかないといけないわけですからいつまでも下を向いているわけにはいきません。当時誰にも言えなかった本音もあらためて聞くと身につまされ、印象が少し変わりました。
長距離打者として期待された元木選手(元巨人)も生き延びるために「くせ者」の道を選んだり、登場する8人が王道をまっすぐ歩んでいったわけではないところに、この本の見どころがあるように感じました。
エールとも感じられる筆者の文章は、同時につまづきながらも頑張って生きている私たち読者へのエールだと受け止めました。
(辻田 浩志)
出版元:カンゼン
(掲載日:2018-06-16)
タグ:プロ野球 ドラフト
カテゴリ スポーツライティング
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プロレスという生き方 平成のリングの主役たち
三田 佐代子
私たちの世代にとって、ヒーローといえばプロ野球の長嶋茂雄であり、王貞治でした。そして野球と人気を二分する形でプロレスのジャイアント馬場とアントニオ猪木も子供の憧れでした。娯楽が少なかった分だけ人気が集中しました。今では考えられませんが、ゴールデンタイムには野球かプロレスのどちらにチャンネルを合わせるかで悩んだものです。
平成という時代は「多様化」という言葉がキーワードになるかもしれません。数多くのスポーツが注目されるようになり、野球もプロレスもゴールデンタイムの地上波で見ることはかなわなくなりました。それでも昭和とは違う形でプロレスも生き残っています。本書は平成のプロレス事情を紹介したものです。
平成のプロレスのキーワードもやはり「多様化」だったようです。馬場・猪木のストロングタイプのレスリングだけではなく、様々な要素で客を惹きつけることで生き延びる数多くの団体とレスラー。元々いたファンにプロレスを見せるということが難しくなった時代に奇想天外なアイデアで新たなファンを獲得する姿は進化といっていいかもしれません。路上でプロレスをしたり、人形相手の試合をしたり、透明人間と闘うという設定の独り相撲ならぬ独りプロレスもあるそうです。そのアイデアだけでも興味をそそります。
本書は選手に対する賛美だけではなく、リアルなプロレスの苦労であったり失敗なども赤裸々につづられています。かつて子供のころに憧れた完全無欠のヒーローではなく、生身の人間の生き様そのもの。登場する人たちの息遣いが聞こえてきそうなエピソードは人間臭さを感じさせます。
レフリーが登場したり裏方の人が登場したり、いろんな人がいてプロレスの興業が成り立つのが理解できました。かつてワイドショーをにぎわした女優沢田亜矢子さんの元夫であるゴージャス松野さんのエピソードは印象的。福島県で大震災にあい、プロレスラーとして東北の人たちを勇気づける話は心が温まります。
平成から令和に時代が変わり、プロレスはこの後どんな進化を遂げるんでしょうね。プロレスファンはもちろんのこと、プロレスに興味のない方でも楽しく読むことができます。
(辻田 浩志)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2019-08-07)
タグ:プロレス
カテゴリ 人生
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プロレスという生き方 平成のリングの主役たち
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できることから始める運動プログラム ウイダーフィットネスバイブル
森谷 敏夫 有賀 雅史
「正しいトレーニングでシェイプアップされた身体」「バランスのとれた賢い食生活」「ストレスのないリラックスした心」をテーマにトータルフィットネスを掲げるウイダーが、フィットネス指導のプログラムデザインを行うときに役立てられるようにと整理した。綴じ方に工夫が施されており、扱いが便利。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:森永製菓株式会社健康事業部
(掲載日:2000-09-10)
タグ:トレーニングプログラム
カテゴリ トレーニング
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死の臨床格闘学
香山 リカ
Dead Man Wrestling
─そして、静かにレクイエムが始まった
1999年4月17日。日本プロレス界の巨星ジャイアント馬場のお別れ会に献花を添えるため、東京九段の北の丸公園を訪れた著者香山リカ。ここから物語は始まる。そして、彼女は静かにこの忘れられぬ巨人(ひと)に向かってレクイエムを口ずさみ始めたのだ。
テレビ放送が始まったのは昭和28年。この年の8月28日に日本テレビが民間第1号として本放送を開始している。ちなみにテレビコマーシャル第1号は「精工舎(現セイコー)の時計が正午をお知らせします」という30秒ものであった。そして、奇しくもその約1カ月前に力道山が日本プロレスリング協会を結成している。この両者の奇妙な符合が、その後テレビの普及とともにプロレスの隆盛を約束していく。まさにメディアの力によってプロレスは日本社会に大きな影響力を持ち始めたのである。しかしこのときからすでに彼女には、約半世紀後に日本のプロレスリングに向かってレクイエムを口ずさむ運命が背負わされていたのかもしれない。
プロレスという名の「身体論」
─たとえば、身体と精神の乖離について
プロレスにはもちろん観客が欠かせない。ではなぜ観客はリングに足を運ぶのか。筆者はこれについて次のように語る。
「レスラーに感情移入するだけでは、自分の身体の実感を強め、“自分が存在している”という感覚を確実に手に入れることができないのだ。そうするために、全試合終わったあとに、今度は自分が手が痛くなるほどエプロンを叩き顔に水滴を浴びて、“これが私だ!”という実感を自らの感覚として確認する必要がある」
現代社会では日常が極めて希薄な感覚認識の領域になり下がり、その結果、人々は自分の立っている場所の脆弱さに恐怖し始める。そして、自らの身体感覚さえも失い、幽体離脱的感覚に悩まされる。つまり、身体と精神の乖離が始まり、その溝は日増しに深くなっていくのである。その身体と精神の溝を埋めるために、ある者はリストカットや自傷行為によって辛うじて身体に精神が宿る感覚を維持し、ある者はレスラーと同じ痛みを得ることによって維持しようとしているのではないか。これはまさに、筆者の言うところの「自分と世界との境界を実感するために、あたかも身体の輪郭をなぞるがごとく」の行為そのものなのである。
二項対立的プロレス考
─もしくは、生と死の境目の問題
現在日本のプロレス界には40もの団体が存在する。その中でもっともメジャーな団体は、いわずもがな新日本プロレスと全日本プロレスである。この両者とも源流は前述した日本プロレスであるが、1972年2月にアントニオ猪木が新日本を旗揚げし、ついで10月ジャイアント馬場が全日本プロレスを旗揚げすることによって完全に両者は袂を分かつことになる。筆者によれば、その後馬場率いる全日本プロレスは王道中の王道的プロレスを頑なに守ろうとするが、時代の潮流はそれを許しはしなかった。時代は元全日本プロレス所属で後にFMWという新団体(後に倒産)を設立した大仁田厚のような涙あり怒りありマイクパフォーマンスありのタレントレスラーの出現を望んだのだ。この怒涛のような群雄割拠の時代を迎えて、馬場のレスリングが急速に色褪せ始める。と同時に、これは馬場プロレスの“死”が近いことを意味していた。プロレス本来の二項対立の構造、つまり敵と味方、善玉と悪玉、生と死の屹立といった構造から馬場は剥離していく。今後も、似たような剥離は延々と続いていくことだろう。そして、また新たな皮膚を持つ時代の寵児が次から次へとリングに上がってくるに違いない。プロレスラーの生死の境目はリングにあるのか。だとすれば多分、リングを降りる度にプロレスラーは死を予感するのではないだろうか。そんな感慨が読後に残った。
(久米 秀作)
出版元:青土社
(掲載日:2002-08-10)
タグ:プロレス
カテゴリ その他
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ゼロからはじめる! 筋トレプログラムの作り方 フィットネス版
有賀 誠司
筋トレ初心者の人でも、自分自身のプログラムをつくれるようになる1冊。プログラムづくりの基本原則から手順、さらに年齢・体力・目的別プログラムのつくり方まで、図・イラストの具体例とともに紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル)
出版元:山海堂
(掲載日:2005-11-10)
タグ:トレーニングプログラム
カテゴリ トレーニング
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三澤式プロレスストレッチ THE BODY HEAT
三澤 威士
インナーからヒートアップさせているプロレスラーの実践ストレッチを紹介。短い時間で一人で行うストレッチや、特別編にはカップルストレッチとして、プロレス技を応用させたものも写真を用いて解説している。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:イーハトーヴフロンティア
(掲載日:2006-09-10)
タグ:ストレッチング プロレス
カテゴリ 運動実践
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プロレスという生き方 平成のリングの主役たち
三田 佐代子
プロレスの歴史は長い。その中でも本書は平成のレスラーおよび関係者にスポットを当てる。著者が平成8年よりプロレスキャスターを務めることもあるが、間近で見てきた「今」のプロレスを伝えたいという想いが伝わってくる。メジャー団体にも触れつつインディー団体を取り上げ、女子プロレスや経営者、レフェリー、メディアにもスポットを当てる。スターレスラーもただ持て囃すのではなくいかにしてその立ち位置に上り詰めたか、といった切り口だ。それが「生き方」となるくらい情熱を注ぐ人が多く、その人たちがさまざまな形で支えることで「プロレス」が成り立っていると改めてわかる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2016-11-10)
タグ:プロレス
カテゴリ 人生
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