三澤式プロレスストレッチ THE BODY HEAT
三澤 威士
世の中にはプロレスに熱狂する人たちが数多く存在する。この本はそのような人たちに最適な一冊であろう。通常、プロレスはリング上でみられるものだが、プロレスラーがリング外でどのようなトレーニングを行っているかは案外知られていないはずである。さらにプロレス団体にトレーナーという職業が存在するとは意外である。
本書では図解や写真を数多く使用してプロレスラーが行っているストレッチを解説している。また、解剖学の専門用語をあまり使用していないために専門的な知識がない人たちでも容易に読めるように工夫されているのが本書の特徴である。プロレスラーのトレーニングに興味を持っている人たちは本書を読んでぜひ実践していただきたい。
そして、本書では著者である三澤氏のプロレスラー現役時代の話も盛り込まれている。試合中に頸椎損傷をしたときから、トレーナーという仕事に就くまでの経緯が書かれており、テレビなどではわからないプロレスラーの人生を知ることができる。このような部分もプロレス好きにはたまらないであろう。
(吉田 康行)
出版元:イーハトーヴフロンティア
(掲載日:2012-10-13)
タグ:ストレッチング プロレス
カテゴリ 運動実践
CiNii Booksで検索:三澤式プロレスストレッチ THE BODY HEAT
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
三澤式プロレスストレッチ THE BODY HEAT
e-hon
死の臨床格闘学
香山 リカ
この本を読むにあたり、著者について初めて知り得たことがある。それは香山リカという名前がペンネームであるということ。そして大のプロレスファンであるということだ。とりわけ全日本プロレス、ジャイアント馬場氏に思い入れが深いようだ。
それにしてもこの本をどう解釈すればいいのだろう。ジャンルとしてはおそらく現代思想か哲学の部類に入るのか。少なくとも我々が現場指導に生かせるような専門書ではない。自己流に解釈すれば、エンターテイメントでありながら激しく身体がぶつかり合う、危険と隣り合わせであるプロレスに焦点を当て、精神医学や現代思想の見地から死について多角的に考察したものと言えよう。ジャイアント馬場氏の死後、三沢光晴ら大多数の選手が全日本プロレスを離脱、新たにプロレスリング・ノアを設立した。著者はこの頃のキーパーソンであるプロレスラーたちを取り上げている。
正直に言えば、私はこれまで哲学書とは無縁であったので、おそらくこの種の読解力に乏しいことは前置きしておく。が、それにしてもこの本は難解だ。文献や著者自身のエピソードなどからの引用が非常に多く、何度も本筋から脱線してしまう。映画で言うなら途中で何度も回想シーンが入ってくるようなもので、これでは読者はストーリーにのめり込むことができない。それに彼女の文章スタイルなのだろうか、妙に着飾っていて難解な言葉を多用していることがより一層読みにくくしている。
結局何を言いたいのかわからないので、皆様にこの本の要旨をお伝えすることができないことをはなはだ申し訳なく思う。繰り返しになるが、この本を評価するにあたり、このジャンルに対する私自身の読解力不足を差し引いて欲しい。辛口批評となったが、逆にこの本がどんなものか興味を持っていただければ幸いである。
(水浜 雅浩)
出版元:青土社
(掲載日:2015-03-07)
タグ:プロレス
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:死の臨床格闘学
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
死の臨床格闘学
e-hon
強くて淋しい男たち
永沢 光雄
本著は当時活躍していたアスリート達への取材記録ともいうべきものであろうか。当然インタビューも含まれている。といっても、出版されてすでに16年経っているので、現在彼らの多くは引退しているものと思われる。
この中で取り上げられているのは格闘技選手が多いのだが、その中で特に私が興味を持った取材対象を紹介しておきたい。
プロレス団体「ドッグレッグス」。コアなプロレスファンであっても知らない人のほうが多いのではないだろうか。身体障害者(以下、障害者)のプロレス団体である。で、この団体ができた経緯が興味深い。ドッグレッグスは元々はごく普通のボランティア団体だった。
そこに所属する障害者2人がひとりの女性をめぐって対立。女性は2人から熱烈なラブコールを受けるも、どちらにも興味がなく去っていった。2人の間には遺恨だけが残り、それからというもの酒が入る度に女性が去ったのを相手のせいにして殴り合いの喧嘩をしたそうだ。これを見かねたボランティア団体の代表が「プロレスで決着をつけろ!」ということで結成された。
念のために言うが選手たちは皆、障害者である。ロープのない、厚めのビニールシートが敷かれているだけのリングの上で選手たちが熱戦を繰り広げている。マイクパフォーマンスといったプロレスならではのショー的な要素あり、加えてそれ以上に真剣勝負、本気で戦っている。出血することも珍しくないし、見ようによってはマジ喧嘩かと誤解されてしまう(実際はちゃんとプロレスの訓練を受けている)。それゆえ、この団体は常に障害者やボランティア団体から「障害者を見せ物にしている」との批判に晒されてきた。しかし、この団体に所属するある選手が団体のパンフレットにこう書いている。一人の大人としてやりたかったことがプロレスだった。そして、健常者と障害者との間に流れる‘社会の川’に橋を架けるのが障害者プロレスであると(本文より省略して抜粋)。
普段、障害者と過ごす環境にない者が障害者と相対するとき、どういう風に接すればいいのか、どんな会話をすればいいのか、妙な緊張感に包まれてしまうことはないだろうか。普通の会話であっても彼らを笑ったり批判してはいけないのではないかと。しかし選手からしてみれば、リングの上で滑稽なことをすれば笑ってくれればいいし、反則技で相手に執拗な攻撃をしようものなら野次を飛ばしてくれて構わない。あえて健常者という言葉を使うならば、健常者と同じように接してくれたらいいと言う。つまり、彼らにとっては健常者も障害者もないのだ。そういう意味で、「障害者だから」という冠をつけているのは、むしろ我々のほうかもしれない。
かつては入場料がたったの300円、観衆が30人足らずだった興行も、噂が噂を呼んで以降、大きな会場で3,500円取れるまでに大きな興行を打てるようになったそうだ。やがてマスコミにも大きく取り上げられ映画や本になった。
社会通念からいって、こういうイレギュラーな事柄に関しては、とかく批判的に捉えられがちである。そこらのテレビコメンテーターであれば、大上段に構えて批判的なコメントをすることが容易に想像できる。しかしどうだろう。大事なのは当事者がどう捉えているかではないだろうか。プロレス団体ドッグレッグスの選手たちは自らの意思で参加している。志を持っている。充実した人生を過ごしているのだ。もはや外野がとやかくいうことではあるまい。
彼らは立派なアスリートである。
(水浜 雅浩)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2015-08-31)
タグ:プロレス 障害者
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:強くて淋しい男たち
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
強くて淋しい男たち
e-hon
プロレスという生き方 平成のリングの主役たち
三田 佐代子
私たちの世代にとって、ヒーローといえばプロ野球の長嶋茂雄であり、王貞治でした。そして野球と人気を二分する形でプロレスのジャイアント馬場とアントニオ猪木も子供の憧れでした。娯楽が少なかった分だけ人気が集中しました。今では考えられませんが、ゴールデンタイムには野球かプロレスのどちらにチャンネルを合わせるかで悩んだものです。
平成という時代は「多様化」という言葉がキーワードになるかもしれません。数多くのスポーツが注目されるようになり、野球もプロレスもゴールデンタイムの地上波で見ることはかなわなくなりました。それでも昭和とは違う形でプロレスも生き残っています。本書は平成のプロレス事情を紹介したものです。
平成のプロレスのキーワードもやはり「多様化」だったようです。馬場・猪木のストロングタイプのレスリングだけではなく、様々な要素で客を惹きつけることで生き延びる数多くの団体とレスラー。元々いたファンにプロレスを見せるということが難しくなった時代に奇想天外なアイデアで新たなファンを獲得する姿は進化といっていいかもしれません。路上でプロレスをしたり、人形相手の試合をしたり、透明人間と闘うという設定の独り相撲ならぬ独りプロレスもあるそうです。そのアイデアだけでも興味をそそります。
本書は選手に対する賛美だけではなく、リアルなプロレスの苦労であったり失敗なども赤裸々につづられています。かつて子供のころに憧れた完全無欠のヒーローではなく、生身の人間の生き様そのもの。登場する人たちの息遣いが聞こえてきそうなエピソードは人間臭さを感じさせます。
レフリーが登場したり裏方の人が登場したり、いろんな人がいてプロレスの興業が成り立つのが理解できました。かつてワイドショーをにぎわした女優沢田亜矢子さんの元夫であるゴージャス松野さんのエピソードは印象的。福島県で大震災にあい、プロレスラーとして東北の人たちを勇気づける話は心が温まります。
平成から令和に時代が変わり、プロレスはこの後どんな進化を遂げるんでしょうね。プロレスファンはもちろんのこと、プロレスに興味のない方でも楽しく読むことができます。
(辻田 浩志)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2019-08-07)
タグ:プロレス
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:プロレスという生き方 平成のリングの主役たち
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
プロレスという生き方 平成のリングの主役たち
e-hon