オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット
大友 信彦
タックルは怖い。自分一人の戦いだったら、逃げ出したい。しかし、チームのための責任感がタックルを成立してくれる。このことを、ラグビーでは「カラダを張る」と言う。「カラダを張る」とはまさに、チームのために自分を犠牲にするプレイのことである。怖くても痛くても、相手が強くても「カラダを張る」ことはできる。別な言い方をすれば、「自分のため」ではなく、「チームのため」に「カラダを張る」のだ。
そして、おそらくこの「自分のため」だけでなく、「チームのため」、いやもっと言えば「国民のため」に「カラダを張る」のが、愛称「オールブラックス」で有名な、ラグビーのニュージーランド代表である。ラグビーが宗教のニュージーランドでは、誰もがオールブラックスに憧れ、そして選ばれた者は神にも等しい尊敬を人々から受ける。この双方の関係こそが、「自分のため」ではなく、「国民のため」という大きな力をうみだしているのだ。
哲学者の内田樹さんは、人間は自分のためでは力が出ないものだという。自分の成功をともに喜び、自分の失敗でともに苦しむ人達の人数が多ければ多いほど、人間は努力する。背負うものが多ければ、自分の能力の限界を突破することだって可能であると。
大切なもののために生きる人間は、自分の中に眠っているすべての資質を発現しようとする。それが、世界最強のラグビーチーム、「オールブラックス」の秘密だ。
(森下 茂)
出版元:東邦出版
(掲載日:2011-11-25)
タグ:組織 指導 ラグビー
カテゴリ 指導
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勝利のチームメイク
岡田 武史 平尾 誠二 古田 敦也
「勝てるチーム」と「勝てそうだけど勝てないチーム」との差、「それ」ってなんだろう。「それ」を知りたい指導者や選手はたくさんいる。
古田敦也(元ヤクルトスワローズ選手兼監督)は、平尾誠二(元ラグビー日本代表監督)との対談の中で、こんなことを言っている。
「『お前だってやればできるんだ』っていう言葉は、それこそ小さい頃から聞かされるじゃないですか。でも、いまいち信じきれない自分がいるんですよね。高校時代、強豪校と対戦するときに『同じ高校生なんだから勝てるぞ!』と先生に言われても『勝てるわけないじゃん』って思っているクチだった僕が、初めてプロでリーグ優勝して『やればできるんだ』って実感できた。実感すると『できる』ということを信じられるようになれる。大げさに言うと自分を信じられるようになる。『奇跡は、信じていても必ず起こるものではない。でも、信じない者には起こり得ない』というじゃないですか。それと同じで、『できる』と思えるかどうかは、勝負事で勝つか負けるかにとっては、大きな差を生むような気がするんです。」
もちろん、「それ」に答えはないが、この言葉は大いなるヒントを与えてくれる。
また、平尾と岡田武史(元サッカー日本代表監督)との対談で、
平尾:そうなんですよ。最初に、できない原因を「知る」。で、原因を知ったら。それをどう解決したら「できるようになるか」を理解するんです。これが「わかる」。この二段階を経て、初めて実習なんですよ。ここを指導者は十分認識しないと。
岡田:でもな、そういう理屈がどんどんわかってきてさ、教え方もそれなりに巧くなっていくとするじゃない。それだけでも必ず、壁にぶち当たる。スポーツは人間の営みなわけだから当たり前と言えば当たり前だけど、「おい、頑張れよ」の一言だけで、すべて事態が解決できてしまうこともあるじゃない?
岡田の言葉が物語るように、選手へのアプローチや、チームづくりに、「答え」はない。野球・ラグビー・サッカーと競技は違えど、その道で、闘い、結果を出し、また試行錯誤している彼らから学ぶべきことは、たくさんある。
(森下 茂)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2011-11-01)
タグ:組織 チーム 指導 ラグビー サッカー 野球
カテゴリ 指導
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究極の勝利
清宮 克幸
「荒ぶる」魂の復活
早稲田ラクビー部、正式には「早稲田大学ラグビー蹴球部」と言う。本書は、ここの監督を平成13年度から昨年度まで5年連続で引き受け、その間対抗戦5連覇、大学選手権優勝3回、準優勝2回、さらに平成17年度の日本選手権では社会人トップリーグチームと互角に渡り合い、ベスト4まで駒を進めるという日本でもトップクラスのチームに早稲田を育て上げた男、清宮克幸の熱き指導哲学書である。
清宮克幸の指導者としての船出は、しかし決して順風満帆とは行かなかった。「OB会は(監督に)清宮を推薦することでまとまったけど、今度は選手たちが納得しないんだよ」どうやら早稲田では監督は選手が最終的に決めるようで、このとき彼は選手から監督就任拒否の憂き目を見たのである。「自分を否定されたのは、私にとって始めての経験だった。(中略)だが、ショックを受けたわけではなかった。選手たちが考えていることがわかったからだ」。彼は、ここ10年間大学選手権の優勝はおろか対抗戦でさえ優勝できない母校の低迷の原因をこの時点ですでに看破していたのだ。
「私が監督に就任するまで、早稲田のラグビー部は、毎日長時間の練習をしていた。そして、選手たちは早稲田ラグビーのスタイルを必死になっても身につけようとしていた」。彼はこの“悪しき伝統”、つまり形ばかりを重視した中身のない練習をすべてやめることから指導を始める決意をする。「最初に早稲田の選手たちに接するあたり、いくつか考えなければならないことがあった。何しろ、彼らは私の監督就任を希望していなかったわけである」(中略)「そこで、(監督としての)所信表明は非常に大切だった。私は、初日のミーティングで選手の度肝を抜くようなプレゼンテーションをして、私に対する猜疑心を晴らしてやろうと考えた」。そして、彼は効果的なプレゼンテーションを演出するために「それまでの早稲田の戦術を徹底的に否定する手法」を実行する。さらに「早稲田の目的は、大学選手権優勝であることを明言し、一気にトップに登りつめようと提案したのだ。選手に拒否されたことが、私に火をつけた」。こうして早稲田ラグビー部の「荒ぶる」魂は、指導者清宮克幸の熱い呼び掛けによってその重い腰を少しずつ上げ始めるのである。
早稲田式エンパワーメント
清宮は早稲田ラグビーの強みを「個の強さ(パワー)、スピード、精確さ、継続(ボールを持ち続ける)、独自性、こだわり、激しさ」に求めた。そのなかでも、とくに“激しさ”と“こだわり”については主将を中心とした選手側の双肩にかかっていると言う。早稲田ではその年のチームを主将の名をとって「○○組」という伝統があるようだ。つまり、監督は選手に対して独立した人格を認めているわけだが、言い換えれば早稲田は伝統的に監督が選手に対してエンパワーメント(権限委譲)する機能を持っているということである。このエンパワーメントとは組織の潜在能力を引き出し、活性化させるためのアメリカの企業経営の潮流を示す概念のひとつだ。たとえば最近の企業では、上司が部下にどのように権限委譲していくかが企業業績を伸ばすポイントと考えている。結局トップダウン式会社運営や少数の幹部しか会社の正しい情報を知りえない独裁体制は近代的企業経営に向かないのである。エンパワーメントを進めるには組織全員のビジョンの共有化、境界をなくすバウンダリーレス、能力を引き上げるワークアウトシステム等が不可欠だが、早稲田は伝統的にそのエンパワーメントシステムを持っているようだ。詳細は本書に譲るが、現在一流と言われる他のチームもおそらく早稲田と同じようなシステムを持っているのであろう。清宮は「コーチングの哲学」のなかで、選手にはビジョンを共有化させ、現状を分析させてゴールを設定させると、選手は自然と未来予測を始めて自分で動き出すと述べている。清宮克幸のコーチングは正しいと、私は思う。
(久米 秀作)
出版元:講談社
(掲載日:2006-06-10)
タグ:ラグビー 組織
カテゴリ 指導
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スクラム 駆け引きと勝負の謎をとく
松瀬 学
その名の通りラグビーのゲーム中にみられる「スクラム」の本。確かにそれで間違いはないのだが、話の中心には「フロントロー」が据えられている。ただ、「フロントロー」をタイトルにすると、一般の人にはなんのことだか、まずわからない。だから、ラグビーに関係したことだと連想しやすい「スクラム」にしたのかと勘ぐってしまう。それくらいスクラムの主役である「フロントロー」という存在に深い愛情が注がれている、そんなマニアックな臭いがぷんぷんする本である。
その「フロントロー」。ラグビーを知らない周りの人たちに聞いてみると珍解答の数々が。「低い前蹴りのこと?」、あるいは「前から背の低い順に並ぶこと!」。やれやれ。「ロー」は「low(低い)」ではなく「row(列)」、つまり「front row」で「前列」のこと。3列で構成されるスクラムの最前列に位置する、左右のプロップとそれに挟まれるフッカーという3つのポジションを担う男たちのことである。
ラグビーになじみがない人がテレビでスクラムを見ても、ミスなどで途切れたゲームの単なるリスタートの形としてしか映らないかもしれない。しかし、これはラグビーの中でも最もエキサイティングなプレーの1つなのである。ゲームの流れを大きく左右する、非常に高いレベルの力と技のせめぎ合いがそこでは行われているのだ。ラグビートップリーグチームのスクラムを間近で見ていると、ギシギシと骨が軋む、そんな音が聞こえてくる。フロントローの鍛え抜かれた全身の筋肉は、理不尽なストレスに正面から立ち向かうため総動員されている。本文にもあるが、なにしろ片方のチームのフォワード8名の総体重は800kg前後。その塊が2つ勢いよく組みそして押し合うわけで、フロントローにかかる重量の単位は「トン」に跳ね上がるというものだ。寒い季節では、スクラムの周りだけ、湯気がモウモウと立つ光景がみられる。一本、一本が真剣勝負の過酷なプレーは、男の中の男でしか務めることはできない。つぶれた耳と大きな背中、寡黙だが大胆かつ繊細、そして聡明さも併せ持つ、そんな男たちにしか。まあグラウンドを離れれば、剽軽でずいぶんおしゃべりなトップ選手がいるのも事実だが。
本書ではそんな彼らの物語が生々しく語られている。「ビシッ」、「ゴリゴリ」、「ガチッ」。こんな擬音語も随所に登場するが、ラグビーが好きな人には伝わってしまう。というより、身体で覚えているその感覚で、そう表現するしかないと妙に納得してしまうのである。そしてスクラムは、一人ひとりが重ければ強いというわけではなく、フロントローを中心とした絆の深さこそが、本当の強さの秘訣である。そんなことも改めて思い出させてくれる。
この稿が出ている頃には、IRB(国際ラグビー評議会)によりスクラムのルールが安全上の理由から改正されている(日本国内は本年4月1日施行)。ラグビーは今でも頻繁にルールの見直しが行われる異色のスポーツであると言える。事故をなくすための取り組みが行われることは重要なことだ。ラグビーの戦術そのものが機動力をより優先させる傾向にもある。徐々に縛りが強くなるスクラムに、昔からのフロントロー経験者は歯がゆく感じるところがあるかもしれない。スクラムはそんなせせこましいもんじゃないんだ、と。それでもスクラムがラグビーにおいて、単なる「起点」ではなく重要な「基点」であることに変わりはなく、背中で語るその男気というものはこれからも引き継がれるのだろう。
本書でも紹介されている名言がある。「世界のサカタ」曰く「トライは自分ひとりでやったんじゃなく、トライしたボールには15人の手垢がついているんや」。慶応大学のフォワードに受け継がれている言葉に「花となるより根となろう」あり。テレビ中継では華やかなバックスのプレーに目を奪われがちだが、本書を読み、そしてぜひグラウンドに足を運んで、スクラムを直接見てもらいたい。そこでのフロントローの働きに注目してもらいたい。真の男の背中を感じてもらいたい。
(山根 太治)
出版元:光文社
(掲載日:2007-03-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ 人生
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宿澤広朗 運を支配した男
加藤 仁
宿澤広朗 運を支配した男加藤 仁超凡の才の人物像を描き出す
死は何人にも訪れる。有産無産、有名無名にかかわらず。その意味では平等だ。しかし、どう死ぬかということにおいてはこれほど不平等なことはない。だからこそ、己の手の届かぬことを案じるより、生きているうちに己のなすことに心を傾けるほうが自然だと感じる。
2006年6月17日、ある超凡の才を持った人物がこの世を去った。三井住友銀行取締役専務執行役員コーポレート・アドバイザリー(CA)本部長、宿澤広朗氏である。55歳という若さだった。元ラグビー日本代表選手であり、日本代表監督としてはスコットランドという世界の強豪国とのテストマッチに、後にも先にも初めて勝利し、ラグビーワールドカップでも唯一の勝ち星をあげた人物である(これは2007年フランスワールドカップで日本がオーストラリアに大敗、フィジーに惜敗した時点での話。願わくは、出版の時点で勝利数が増えていることを)。
この高次元で文武両道を体現した人物の光とわずかに垣間見える陰を、膨大なインタビューと豊富な資料をもとに丁寧に読み解いたノンフィクションが本書である。
不運を不運にせず、幸運を幸運に
旧住友銀行時代から三井住友銀行取締役専務執行役員になるまでのビジネス界でのエピソードだけで読み応えのある一編の立志伝ができあがる。それに加えてラグビー界での輝かしい経歴が、ほかに例を見ない深い彩りをその人生に加えている。本書を通じてその経歴をたどると、ラグビーを通じて培ったものが銀行員としての成功につながったのではなく、人間として培った人生哲学とプロ意識、そしてそれを実践できるバイタリティが礎になり、ラグビー界でもビジネス界でも強烈なインパクトを与えたと言ったほうが正しいだろう。
宿澤氏の座右の銘に「努力は運を支配する」という言葉がある。たとえばある1つの好ましくない事象を目の前にして、自分自身が不運だと思ってしまったときにそれは不運になる。解決すべき問題だと考えて対策を立てて乗り切れば、単なる一要因にすぎなくなる。もしかしたらそれが転じて幸運につながることすら考えられる。また、好ましい事象を目の前にして、十分に活かすことができればそれは幸運となるが、できなければ幸運であったことにすら気づかない。不運を不運にせず、幸運を幸運として活かす。それには「たゆみない努力と、それによって生まれた実力」が必要だ。己の肉体と精神に多大なプレッシャーをかけていたに違いないが、それが「運を支配する」ことなのかもしれない。
三井住友銀行での最後のプロジェクト、CA本部の業務である課題解決型ビジネスこそ宿澤氏の面目躍如となるものであったろう。しかしこの新部門発足からわずか2カ月半後、無情なるノーサイドの笛は吹かれることになる。
いつも全力疾走
本書でも触れられているが、このような非凡な人に孤独はつきものなのかもしれない。敵も多かっただろう。思いを寄せるラグビー界では最後には活躍の場がなかった。ジャッジするばかりで自分が責任を取らない者を長に戴いた組織の中では、現場の人間が大変な思いをするし、大胆な改革など図れない。宿澤氏のような存在がその中枢に居続けてくれれば、さまざまな軋轢を生みつつも、低迷するラグビー界を豪快に洗濯してくれたのではないかと、ひとりのラグビーファンとして詮無く考えてもみる。
司馬遼太郎氏の名著『竜馬がゆく』の中で、主人公坂本竜馬は人生の終盤で、己を取り巻くさまざまな相関組織の誰から命を狙われてもおかしくない状況だった。その竜馬に司馬氏はこう言わしめている。「生死は天命にある。それだけのことだ」。己がどんな状況であろうとも正面から向かい合い、いつも全力疾走で人生を最高峰まで駆け上ってきた宿澤氏は、そのままの勢いで天まで昇ってしまったと、早すぎる死を悼みつつ、そう思う。
(山根 太治)
出版元:講談社
(掲載日:2007-11-10)
タグ:ラグビー ノンフィクション
カテゴリ 人生
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8人のキーマンが語る ジャパンラグビー革命
上田 昭夫 大元 よしき
キーマンへのインタビュー
2009年6月、20歳以下の世界大会「IRBジュニアワールドチャンピオンシップ 2009」が日本で開催される。この大会は、2015年および2019年度ワールドカップ開催国に立候補している日本にとって重要な試金石となる。両ワールドカップとも日本以外に7カ国が立候補しており、その発表が2009年7月28日、同時に行われるのである。次世代を担う若いチームが世界中から集い、熱戦を繰り広げるこのジュニア大会をどう運営するか、その手腕がワールドカップ開催地決定に及ぼす影響は大きい。
本書はそんなラグビー界を改革せんとする8人のキーマンへのインタビューをまとめたものである。インタビューを行った著者の1人、上田昭夫氏は元日本代表選手であり、かつて慶應義塾體育會蹴球部を日本一に導いた名将でもある。上記の「ジュニアワールドチャンピオンシップ 2009」ではトーナメントアンバサダーに就任している。
8人のキーマンとなるのは日本代表ヘッドコーチであるジョンカーワン氏はじめ、日本代表GM、トップリーグ最高執行責任者、大学指導者、高校指導者など、さまざまな立場の方々である。タイトルの「革命」という言葉は誇張があるにしても、ラグビー界は今どこに進もうとしているのか、その現状についてそれぞれの立場で語られる内容は、時折相反する考えも見え隠れし興味深い。
ラグビー界活性化に期待
日本代表の強化、日本ラグビーを牽引するトップリーグの運営、この競技に注目を集め、しかも大規模な収益を見込める国際的イベントの招致、学生ラグビー界の取り組み。これらが競技人口増加や集客率向上、ひいてはラグビーという競技の隆盛につながればと、今は草ラグビーに興じるだけの我が身でもそう思う。ラグビーが盛んなはずの大阪府下の高校生大会でも、合同チームの数が増えているし、トップリーグのメディアへの露出がまだまだ少ないことにも寂しさを感じているのだ。
さて、ラグビー界でそれぞれ重要なポストに就いている8人のキーパーソンの中で、個人的に最も注目したいのは、ATQコーチングディレクターという立場の薫田真広氏だ。ATQ(Advance to the Quarterfinal)とは、ワールドカップ2011年大会でベスト8に入ることを目標に、ユース世代を中心とした選手、コーチ、レフリー、競技スケジュールおよびスタッフを強化・育成するプロジェクトのことである。薫田氏は東芝ブレイブルーパスを常勝軍団につくり上げた後勇退し、現職に就いている。その手腕が若手育成に一石を投じ、高校ラグビー界や大学ラグビー界にもよい波を広げることを期待する。
そして将来の代表の軸となる選手の育成は、トップリーグの新陳代謝活性にもつながるはずだ。ベテランと若手が混在するチーム編成も見応えがあるし、長年トップに君臨し続けるビッグネームプレイヤーも畏敬の念を持って応援したい。しかしそれ以上に、ベテランプレイヤーに引導を渡す若い力が次から次へと顔を出す、そんな活性化されたラグビー界も見てみたい。
(山根 太治)
出版元:アスペクト
(掲載日:2009-01-10)
タグ:ラグビー スタッフ
カテゴリ その他
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8人のキーマンが語る ジャパンラグビー革命
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宿澤広朗 勝つことのみが善である
永田 洋光
早稲田大学ラグビー部のキャプテンを務め、日本代表になり、卒業後は住友銀行に入行、同銀行では最終的に専務執行役員にまでなり、その激務を続けながら日本代表監督としてスコットンランドに勝利した宿澤広朗氏のラグビーを通じた人生を、詳細で時間のかかった取材でまとめたもの。副題は「全戦全勝の哲学」。
東京大学が紛争で入試を中止したときの受験生で、宿澤氏は早稲田大学政経学部に進んだ。一般学生としてラグビー部に入部、「1週間でやめるだろう」と思われていたが、すぐに1軍選手となり、あとの活躍は言うまでもない。なぜ「勝つことのみが善である」というタイトルなのか。
宿澤氏はテレビ東京の『テレビ人間発見』でこう語った。
「競技スポーツも、資本主義経済も、勝つことが正しい目的なんです。ただ、やり方を間違えると、“勝利至上主義”とか、“儲け主義”と言われる。結局、最後は金銭ではなく、名誉ですよね」。言葉の意味するところは大きい。
真剣に考え、やるべきことをやればまず負けないと言う。「真剣」という言葉の意味を痛いほど知ることができる1冊である。文句なし。おすすめする。
2009年6月10日刊
(清家 輝文)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2012-10-13)
タグ:ラグビー
カテゴリ 人生
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宿澤広朗 勝つことのみが善である
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不屈の「心体」 なぜ闘い続けるのか
大畑 大介
過酷な競技、ラグビー
トップアスリートはいつしかその華やかな舞台から降りるときがやってくる。まだ続ける力を十分に残しながら新たな人生を始める人あり、衰える身体に折り合いをつけながら続ける人あり、あるいは満身創痍になっても続ける人あり。続ける機会を奪われる多くの人を除けば、自分で進退を決めるその判断に是非はない。当人の価値観なのだから周囲があれこれ口を挟むことではないだろう。このトップレベルに名を連ねる期間は、競技によって大きく異なる。もちろん、同じ競技でもポジションによっても大きく異なる。そして多くの競技の中でもラグビー選手としてトップであり続けることは、他競技に比べて肉体的にずっと過酷だといっていいだろう。
本書は自他ともに認める現在「日本で最も有名なラグビー選手」大畑大介氏の半生記である。2007フランスワールドカップの8カ月前に右アキレス腱を断裂し、懸命のリハビリにより復帰。本戦を2週間後に控えた調整試合でまさかの左アキレス腱断裂という悲劇に見舞われた選手である。スピードスターとしては致命的とも言える両アキレス腱断裂。しかし物語は終わらない。彼はトップリーグに復帰してきたのである。
フィールドに立ち続ける
本書でも描写されている彼の復帰戦を、私は長居スタジアムで観戦していた。インターセプトからトライを奪った復活を印象づけるシーンでは、持ち前の加速感は本来の姿を失っていた。しかし、「やっぱり何か持っとるな」と多くの人が思ったはずだ。ただそれよりもディフェンスを中心とした、どろくさいチーム貢献プレーが印象に残った人も多かったのではないか。そのあたりは、本書の内容からも間違いなさそうである。スピードスターがその持ち味を失ったとき、舞台に背を向ける人は多いだろう。しかし自分の持ち味が失われていくことに抗い、それと同時に足りないスキルを向上し、総合力でチームからの信頼を失わずフィールドに立ち続ける。個人的にはそのようなアスリートに強く惹かれる。 決して恵まれた体格ではなく、学生時代も決して王道を進んできたわけではない。その彼が度重なる逆境を乗り越えてきたのは、「超」ポジティブな性格ならではだろう。本書全編を通じてそれがビリビリ伝わり、感動的ですらある。もちろん先述のアキレス腱断裂や、あるいは一章を割いている「ノックオン事件」なるモノに関しては本人が描写している以上にたたきのめされたはずだ。ノックオンとはラグビーのプレー中にボールを前方に落とすことで、この「ノックオン事件」は、重要な局面での信じられないノックオンにまつわる話である。
その失敗そのものより、それが起こるに至る自分の取り組み方をひどく責めている。超ポジティブ男をして「消えたい」と言わしめる落ち込みはそんな内省から起こるのだ。詳細は本書を見ていただくとして、そこからの立ち直りは文章で表せるほど生やさしいモノではなかったはずだ。いずれにせよ、スーパースターの名を借りてあれこれ指南するノウハウ本より、俺はこう生きてきたんだとただ語るもののほうが格好よく、胸に響く説得力がある。
アキレス腱断裂によりワールドカップ出場を逃した翌年の2008年度シーズンにトップリーグに復帰した彼は、シーズン中に肩甲骨を骨折し手術を受けている。しかし2009年度には公式戦13試合中8試合に出場し、今年も現役を続行している。満身創痍の彼が活躍する姿も見たい反面、若手選手がすっぱり引導を渡してもらいたいとも思う。今シーズンはそこにも注目してトップリーグを楽しみたい。
(山根 太治)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2010-07-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ 人生
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不屈の「心体」 なぜ闘い続けるのか
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スクラム 駆け引きと勝負の謎をとく
松瀬 学
「花となるより根となろう」
慶応フォワードの伝統の言葉である。ラグビーではトライをした選手がガッツポーズをしない。それはトライ(花)はスクラム(根)をフォワードが頑張ったゆえのことと知っているからである。
しかし、昨今ではトライの後に派手なパフォーマンスをする選手が増えた。パフォーマンス自体が悪いとは思わない。しかしラグビーが市民権を得ていたのは、そうした精神が日本人にマッチしていたからなのではないかと思う。 「男は背中でものを言う」
これもまたしかり。新日鉄釜石のプロップ石山さんはその典型であろう。朴とつな風貌、寡黙な男。まさに高倉健である。プロップの仕事は「スクラムを押されないこと」、押されることが許されないゆえ、鎧のごとき筋肉をつけ、「必死の覚悟」で練習する。しかし、スクラムに固執はしない。「最高のトライと思うのは、スクラムから顔を上げたら、バックスが展開してトライになっていたというもので…。そうなるとフォワードは何か得をしたような気がしていたものです」勝利のためにきわめて現実的で、自分の役どころを知っているのである。
2019年、ラグビーのワールドカップが日本で初めて開かれる。オリンピック、そしてサッカーのワールドカップに次ぐ世界的なイベントである。この本が「スクラム」の復権、いや「古きよき日本人」の復権につながることを願う。
(森下 茂)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:スクラム ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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監督に期待するな
中竹 竜二
カリスマ指導者であった清宮監督の後は、自称「日本一オーラのない監督」が就任した。
しかも、早稲田大学ラグビー部という「日本一」を求められる組織にだ。
著者の組織作りは、リーダーについていくフォロワーたちが自主性を持って組織を支えていくという考え方だ。決断を下すのはリーダーであるが、フォロワ−もリーダーのつもりで考える。与えられたことを待っていてはいけないという。したがって、選手にも自分で考えることをとことん要求する。
管理と自主性のバランス、これは組織作りの永遠のテーマである。もちろん、これに関する完璧な答えはない。ただ、成功している組織には共通点があるように思う。それはリーダーの「情」、すなわち「愛情」と「情熱」だ。
著者は「情」の大切さを、「熱」としてこう表現している。
「何か分厚い壁を突き破ろうとするとき、理屈や情報よりも情熱が重要になる場面がしばしばある。行動の原点、すべての始まりは熱にあると言えるかもしれない」と。
(森下 茂)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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強いだけじゃ勝てない
松瀬 学
1974年に関東学院大学ラグビー部監督に就任した当時は、関東リーグ戦グループ3部のチームであった。部員は8人、ボールやグラウンド、ゴールポストもない。以来30年余り、どん底のスタートから大学日本一の座に至る道のりが書かれている。「強いだけじゃ勝てない」とあるように、春口監督のラグビーにかける情熱と人間力が、選手や周囲のスタッフ、学校関係者に伝わり、チームがつくられていくヒューマンドラマが読み取れる。
指導者であれば、毎年よいチームづくりや強いチームづくりを実現していくうえで、何をすべきなのかを考えるだろう。本書からは、チームづくりに必要なこと、選手の素質を見抜く力、チームが発展していく中での春口監督自身の指導者としての成長も感じられる。また、さまざまな苦難・困難な出来事を乗り越えていく過程で、真の強いチームとは何かを考えている様子がわかる。
関東学院大学ラグビー部の逸話の中に「涙の雪かき」がある。試合では、グラウンドに立っているレギュラーメンバーだけで戦うのではなく、そこに立てなかったチームメイトの存在や思いがあってこそ生まれるチームの結束力の大切さを学ぶことができるだろう。また、ラグビー指導者のバイブル的名著、大西鐡之祐監督の「ラグビー」にある一節に春口監督は感動したことが書かれてある。それは、「ラグビーとは、人間と人間とが全人格の優劣を競うスポーツである。しかも15人の人格が形成するひとつの新しい超人格的チームが15人の結集される力にある何者かが加わって闘うとき、はじめてそこに相手にまさる力が生まれるのである」という1文であった。そこには、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」の精神の大切さが目には見えない力となることを理解できるだろう。
春口監督は、ある年の慶応との決勝戦に敗れたとき、「強いだけでは駄目だ。いいチームじゃないと。周りから応援され、愛されるチームじゃないといけない」と思ったという。
ラグビーのみならず、さまざまなスポーツ種目の指導者、関係者に読まれることで、日々の私達の環境に感謝する気持ちや周りの人達の支えなくして、スポーツは成り立たないことを再認識することができるだろう。誰かが何とかしてくれるのではなく、自らの現場や足元からスタートしていこうという勇気がもらえる1冊である。
(辻本 和広)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ラグビー 組織論
カテゴリ スポーツライティング
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強いだけじゃ勝てない
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勝利を支配するもの
佐藤 純朗
日本代表ヘッドコーチであった平尾氏のドキュメンタリータッチな内容になっている。現在の日本のメジャーではない競技に関わる指導者にとっては一見の価値がある本だと感じた。
世界との差、協会との連携、日本の特性、ルール変更への対応、あらゆる場面で潤滑油的な存在であるスタッフの存在、個々のプレイヤーに対する長所を活かした起用、どれをとっても当時は画期的でなおかつ日本が世界に対等に戦うための手段だったと思われる。
また本文にある「楽しむ」ことと「楽をする」ことの違いは私が以前から現場で使っていた表現でもあり、改めてこのことをわかって指導ができるかという戒めとなった。
まだ目を通していない指導者は一度読んでみてほしい。
(河田 大輔)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-29)
タグ:ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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勝利を支配するもの
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スーパーラガーメンはこうしてつくられた
小野寺 孝
スーパーラガーメンはこうしてつくられた小野寺 孝 部の歴史上最高といわれる猛練習をし、見事日本一に輝いた慶応義塾大学蹴球部(慶応ラグビー部)のフィットネス・コーチが著した書。副題に「慶応ラグビーの強さと栄光の秘密」とある。この種の本はやたら感情移入が強かったり、「見てきたようなニュー・ジャーナリズム」風であったりするのだが、この本は抑制がきき、冷静に、それでいて情熱が伝わる筆致で書かれている。それは、著者が慶応高校から慶応大学を通じてウィングの選手としてプレーしただけでなく、8年間フィットネス・コーチとして、科学性、客観性を持って取り組んできたからであろう。書名通り、慶応ラグビー部がどのような過程で強くなっていったか、フィットネス・コーチの視点で語られている。したがって、ラグビーの指導者にはすぐに役立つ内容が多いのは当然だが、何もラグビーだけにいえることではない、スポーツ・トレーニング全般におけるポイントが浮き彫りにされているため、どのスポーツの人が読んでも参考になる。
というのは、昭和59年度のシーズン、昭和26年以来34年ぶりに関東大学対抗戦グループで全勝優勝したときのフィフティーン中、高校時代に全国大会(花園)を経験した選手は1人もいず、主将松永(天王寺高)、右ウィング若林(小石川高)以外は全員付属校出身。伝統ある名門チームとはいえ、戦力的にはどちらかというと「ごくふつうの選手の集団」だった。大学選手権の歴史をみても、優勝は昭和44年(早稲田と引き分け両者優勝)以降なし(昭和53年は準優勝)で、名門といわれる割には、さほど“栄光”に輝いてはいなかったのだ。しかし、練習の長さ、すごさは名物だった。「弱いところをとにかくたたいてたたいて強くすることしか考えなかった当時の慶応ラグビーのあり方が、見直しを迫られる時期にあったことは確かだろう。当時はまさに、慶応ラグビーという意地だけで支えられていた時代だったのだ」(第2章より)
当時(昭和52年)、「黒黄会報」(OB組織黒黄会機関誌)に上田昭夫前監督が手記を書いた。そこで当時の慶応ラグビーについて5つの欠点を指摘している。
①基礎体力不足
②基礎プレーの甘さ
③気分的にムラが多過ぎる
④体を張った泥臭いプレーが見られない
⑤集中的に行う練習についていけない
思えば、5点とも克服されてしまっているわけだが、「練習によって勝つ」「あれだけの猛練習に比べたら、試合時間の80分は短いものだ」という“美風”に対し、首脳陣がこのままではだめだ、練習方法を改革し、意識を改革し、無敵の戦士をつくらねばという考えを抱き始めたのが昭和52年だったのだ。実際ウェイト・トレーニングがこの年から始められ(著者がコーチ就任)、是永選手という足は速いがひ弱い欠点のあったウィングが、別人のようにたくましくなった。この成果が15シーズンぶりに早稲田に勝ち、大学選手権準優勝につながった。この年度の卒業生は、記念に1組のウェイト・トレーニング用品を残していっている。
著者が「フィットネス・コーチ」になったのは翌年度からである。さらに、その年、ゲスト・コーチとしてオーストラリア協会公認コーチ、クリス・ウォーカーを迎えた。そうしたトレーニングによって、「慶応の全部員に、この『体力的必勝の信念』を芽生えさせていく」ことができたのである。
そこには、ラグビーという競技の特性の科学的分析、体力の具体的目標値(3.2kmを12分台、50m走を6.5秒以内、ベンチ・プレスを100kg3回×3セット。これができないと一軍に入れない)、トレーニング計画、プログラムの緻密さ、そして伝統の意地があった。
フィットネス・コーチである著者は、体育の専門家ではない。しかし、広告代理店の営業部長という職業柄、本場のアメリカン・フットボールの試合をよくみ、ノートルダム大学の練習も目の当たりにしている。さらに、前出クリス・ウォーカーの強い勧めもあって、オーストラリアでのコーチ・セミナーにも参加。こうした経験が、“科学的ラグビー”の大きな力になっていることだろう。誰しも最初は素人である。熱意があれば、現在のスポーツ医科学を現場に活かすことは、誰にでもできるのである(もちろん努力は必要だが)。スポーツ医科学は本来現場で役立つためにある。活用する気になれば、誰にでもできるのだ。
和崎元監督作成のスローガン3本のうちの最後は、「知性ある猛練習で、敵を凌駕せよ」だった。知性ある猛練習、これなくして日本一という高みには達し得ない。このインテリジェンスは、しかし、いうほど高みにはないのだ。そういっては失礼になるかもしれないが、特殊な人しか持ち得ないものではないということなのだ。
筆者は親切にも、“フィットネス・トレーニング”の実際を第13章で詳しく紹介している。また「付章」では「クラブチームのためのフィットネス講座」「高校生のためのフィットネス講座」と題し、具体的プログラムも挙げている。
「日本中のあまり強くないチームの指導者や選手の人たちに『おれたちもやってやろうじゃないか』と思ってもらいたくて、私はこの本を書いた」(あとがきより)
もとより、1つのチームが優勝するのは1人の存在のみによるものではない。監督、コーチ、マネージャー、OB、スポーツドクター、そして選手、全員の力によるものであるのは当然である。しかし、いかにもその全員が気だけ逸(はや)らせても実りはない。どうすればよいか、それが本書にある。
・主な目次
第1部 15人のスーパーラガーメンが新しい慶応ラグビー部を完成させた
第1章 「魂のラグビー」が蘇った
第2章 昭和52年当時の慶応ラグビー
第3章 慶応ラグビーに必要なもの
第4章 相手に勝つラグビーとは
第5章 フィットネストレーニングの登場
第6章 きびしいラグビーをめざす
第7章 上田−松永コンビの誕生
第8章 オーストラリア・ラグビーに学ぶ
第9章 コーチと選手はひとつの輪でつながっている
第10章 59年度のシーズンが始まった
第11章 大学日本一の座を目指して
第2部 ラグビープレーヤーはスーパーマンでなければならない
第12章 なぜ今、スーパーマンが必要か?
第13章 スーパーマンをつくる体力とは
第14章 スーパーマンをつくる体力トレーニング
第15章 スーパーマンにより近づくために
第16章 これであなたもスーパーマンになれる
(清家 輝文)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:1986-05-10)
タグ:ラグビー 慶応義塾大学 トレーニング
カテゴリ 指導
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スーパーラガーメンはこうしてつくられた
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「宿澤広朗」運を支配した男
加藤 仁
ラグビーワールドカップで、日本は一つだけ白星をあげている。そのときの監督である宿澤広朗の話である。
宿澤が早稲田大学3年生のときの日本選手権は、伝説となるほどの大接戦であった。1972年1月15日、その日は雪の決戦だった。相手は三菱自工京都。前半、早稲田がリードするものの、後半29分に逆転された。しかし、終了3分前に早稲田の佐藤のキックしたボールが弾まないはずの雪のグラウンドで跳ね上がり、ウイング堀口の胸におさまり、そのまま走り切り、逆転のトライとなってノーサイド。翌日の新聞は、この勝利を「奇跡」「勝利の女神が舞い降りた」と報じた。
しかし、宿澤はこう言った。「あれは偶然じゃない。何万回も練習しているんだから当たり前なんだ」と。ここに、宿澤の生き様の全てが垣間見られるように思う。
「勝つことのみが善である」が口癖の宿澤は、選手として、監督として、そして、銀行マンとして常に勝つことにこだわった。得てして人は、結果の出ないことを周りのせいにしてしまう。あるいは、勝負から逃げてしまう。しかし、もしかしたら宿澤のように勝ちにこだわるからこそ努力できるのかもしれない。
「努力は運を支配する」。宿澤は確かにそれを信じていた。
(森下 茂)
出版元:講談社
(掲載日:2014-10-01)
タグ:ラグビー
カテゴリ 人生
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エディー・ジョーンズの監督学 日本ラグビー再建を託される理由
大友信彦
新しい日本ラグビーの入門書として
2019年にラグビーワールドカップが日本で開催される。過去7回行われた同大会において予選プール1勝21敗2分けという成績の日本で。2011年フランス大会でも、外国人選手で主力を固め、捨て試合をつくるなど手を尽くしたにもかかわらず、3敗1分けで予選プール最下位に終わっている。
長く続く暗い闇を抜けられないラグビー日本代表。本書は、2012年4月から「日本ラグビー再建を託された」エディー・ジョーンズ新ヘッドコーチの来歴およびそのコンセプトを紹介する本になっている。すでに出された結果をもとに訳知り顔で書かれたものではない。未だ霧がかかったこれからの日本ラグビーの歩みに悲願とも言える期待を寄せながら、それを分かち合うための入門書としての役割を担おうとしたものである。
壁を乗り越えるためのJapan Way
ラグビーのグローバル化のため、アジア代表としてこの地域のラグビー競技の普及を目指すことがワールドカップ日本招致目的の1つとされる。ワールドカップでは勝てない日本代表も、アジア五カ国対抗では2008年のスタート以来5連覇を成し遂げているのである。ただアジアを一歩踏み出すと、たとえば環太平洋の強豪国によるIRBパシフィック・ネイションズ・カップでも2011年を除き苦汁をなめ続けているのが実情である。
その壁を乗り越えるべく、外国人選手を安易に多用した前任者とは異なる方向性を持つ新ヘッドコーチ、エディ・ジョーンズ氏がその重責に就いた。彼が掲げたスローガンは「Japan Way」である。日本人の血統を持つ彼は「失われた日本の良さ」を取り戻すこと、「日本ラグビーが本来持っている可能性」を引き出すことを目指している。古くからのラグビーファンには膝を打った人も多いだろう。それは日本代表の菅平合宿の復活にも象徴されている。
実は彼の日本でのコーチング歴は1995年の初来日時に東海大学や日本代表のコーチに就いたところまで遡る。ACTブランビーズを率いて2001年にオーストラリアのチームとして始めてスーパー12(当時)を制したのはその後のことなのである。同チームの黄金時代にそのシークエンス戦法は世界を席巻した。そのアタッキングラグビーに、ラグビーが変わったと実感した関係者も少なくなかったはずだ。しかしその源流は実は日本ラグビーにあったとも言われる。日本のチームに所属していたある世界屈指のプレイヤーはこう評したそうである。「ブランビーズのプレーはエディーが日本から持ち込んだ」と。もちろん「ルールやレフェリングの変更された現在」そこに回帰することに意味はない。
ただそんな実績を背景にし、サッカーを初めとする他競技からも貪欲に「自分のクラブで応用できる要素を探す」ことを常とする彼が標榜する「Japan Way」ラグビーには、やはり期待を抱かずにはいられない。少なくとも代表を目指すプレイヤーがその原理を理解し実践することができれば、日本ラグビーは変われるのではないかという気持ちにさせられる。アタックシェイプと呼ばれるような実戦的戦術以外の要素に触れた彼の言葉も本書では多く紹介されている。
悲願達成を願う
彼は言う。「子供たちにこういうプレーをしたいと思わせるようなプレー」を見せたいと。フィールドに立つメンバー中で、決まりごととしてではなく、しかし共通認識のような「ディシジョンメーク」ができる必要があると。「ミスをすること、失敗することは決してネガティブなファクターではなく、ミスは起きるものという認識があれば、ミスへのリカバリー、反応の速さ、ミスで発生した新たな状況のクリエイティブな活用」につながり、それはまさに日本伝統の「武術における『無心』の境地」であると。
代表予備軍である「ジュニアジャパン」を立ち上げ、「試合に向けて若手のチームを強化するのではなく、日本代表に入ってこられる選手個人を育成する」ことも始まった。ユースレベルの強化・育成、また、高校日本代表セレクションを兼ねた「トライリージョンズ(三地区対抗)」と呼ばれる合宿も行われている。ラグビーのフィールドでは「ストラクチャーを作るのではなくオーガナイズされたラグビー」を目指すにしても、代表選手育成というストラクチャーは確立される必要がある。
彼は問う。「目標として世界を見据えて、そのために毎日努力しているのかどうか」を。「セレクトされるべき人間は「信用できる人間」なのだから。これらは当たり前のことに思えるかもしれないが近年日本代表チームから抜け落ちていたように思える事柄が多いのは錯覚ではないだろう。2012年9月に世界ランキング16位の日本代表が、「サイズを言い訳にしないでスキルを磨き」、「ストレングス&コンディショニングをインターナショナルレベルに引き上げ」、「ハイスピード、ハイフィジカル、ハイフィットネス」を「ロングジャーニー」の到達点で手に入れたとしたなら、日本開催大会のひとつ前、2015年の第8回ラグビーワールドカップで我々は何を目にすることができるだろう。ラグビーファンとしては楽しみだ。
余談ながらイングランドをホスト国として行われるラグビーワールドカップは1991年に続いて2回目である。この第2回RWCで、今は亡き宿澤広朗監督率いる日本代表が唯一の白星を挙げている。その勝利を知る男、薫田真広氏が今の日本代表アシスタントコーチである。気が早すぎる、本当に早すぎるが、すでに知将として知られる氏がエディー・ジョーンズジャパンでさらなる昇華を遂げ、2019年度の日本代表を率いて開催国として悲願のベスト8達成のようなことになれば熱いと、日本ラグビー界にとって本当に熱いと、そう思う。
(山根 太治)
出版元:東邦出版
(掲載日:2012-11-10)
タグ:ラグビー 監督
カテゴリ 指導
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なんのために勝つのか。 ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論
廣瀬 俊朗
驚かされたキャンテンシー
2016年1月11日に行われた第95回全国高校ラグビー大会決勝、東海大学付属仰星高等学校対桐蔭学園高等学校の一戦は、頂点を争うにふさわしい見ごたえのあるものだった。桐蔭学園のアタッキングシステムは完成度が極めて高く、準決勝まで対戦相手を圧倒してきた。一方の東海大仰星は準々決勝、準決勝と僅差の試合を競り勝ってきていた。
決勝の試合で私が気になったのは、まず東海大仰星のディフェンスラインだった。準決勝の東福岡戦とは味付けを変えていたからだ。そしてチームシステムの動きの中に垣間見える選手の自由な判断力。これは東海大仰星のほうがうまく機能していたように思う。私は東海大仰星キャプテン、真野の野生的な顔を思い浮かべていた。状況を見極めて反応する仰星ラグビーのキーパーソンの顔を。
彼をはじめとする東海大仰星の中心選手は2015年の和歌山国体のオール大阪少年ラグビーチームに召集され、真野はそこでもキャプテンを務めた。私がトレーナーとしてお手伝いさせてもらった関係で、ほんの短期間だが彼らを間近で見ることができた。そこで驚かされたのは真野のキャンテンシーだ。彼はさほど大きくはない身体を、よほどストイックでなければ辿り着けない鋼に仕上げていた。彼が発する言葉は、ミーティングや試合の度に選手だけではなくスタッフをも奮い立たせた。そして言葉の強さだけでなく、自分たちのすべきことやできることを理解した上で相手を分析し、最善の戦い方を対戦相手ごとに具体的に示していた。そしてグラウンドでは身体を張って自らの使命を遂行していた。そこには確固たる決意と覚悟が感じられた。他の東海大仰星の選手をはじめ、他校の選手でも自律している選手は多かったが、年若い彼を私はほとんど尊敬の念で見ていた。
試合に出なくても
さて、本書『なんのために勝つのか』は、昨年日本を湧かせたラグビー日本代表、エディージャパンの初代キャプテンである廣瀬俊朗氏によるリーダーシップ論である。彼はエディージャパン発足のときにキャプテンに選ばれたが途中交代となり、W杯ではとうとうピッチに立つことはなかった。そんな立場での彼のチームへの献身的なサポートは美談として取り上げられたりもしたが、軽々しく称えられるような単純なものではないだろう。身を切るような懊おうのう悩を経てのその献身の一端を、本書から垣間見ることができる。
彼が試合に出なくてもチームに不可欠な存在であり続けたのは、類稀なるリーダーシップによるものだろう。「ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論」とサブタイトルにある本書では、実はリーダーシップとは何かということについてはあまり語られていない。廣瀬氏がラグビーを通じて、物事をどのように捉え、考え、そして仲間と共にどのように行動してきたのかについて多く語られている。わかったようにリーダーシップとはこうあるべきだと理屈で書かれるよりも、個人的には好ましい。なぜなら自らを練り上げることが根幹になければ、本質的なリーダーシップについて語れないからだ。花園に出られなかったチームに所属していたにもかかわらず高校日本代表のキャプテンを務めたことからも想像できるように、早くから彼のその素質は磨かれていたのだろう。
社会人チーム12年目、34歳である彼のトッププレイヤーとしてのキャリアに残された時間は多くない。しかしこのような人材は、今後ラグビー界で、いやその領域を超えた世界でも活躍を続けていくはずだ。
仲間とともに
話は戻るが、今年度の東海大仰星の3年生はサイズも小さく、早くから谷間の世代だと言われていたらしい。しかしそのような状態だからこそ彼らは勝ちたいと思っただろう。そして考えただろう、どうすれば勝てるのかを。掲げただろう、自分たちの「大義」を。考えて、考えて、いつもどうすべきなのかを考え抜いて、「覚悟」を決めてやるべきことをやり、やるべきでないことを排除してきたのだろう。
キャプテン真野は優れた人材だ。決勝戦でも2本のトライを自らあげた。文字通りもぎ取るようなトライだった。しかし、どれだけ流れを生み出せる優れたリーダーがいても、ひとりでできることなど限られる。素晴らしい仲間と巡り合って初めてリーダーは活かされる。仲間に恵まれることもリーダーの条件なのだ。彼らはともに「ハードワーク」してきたのだろう。国体というごく限られた時間の中でも「One Team」をつくり上げた彼らの若い力は、3年近く苦楽を共にした自分たちのチームではもっと濃密に熟成され昇華してきたのだろう。彼らの人生にとって計り知れない価値があったことは間違いない。尊敬に値する。
「なんのために勝つのか」
この二人のリーダーは、素晴らしいリーダーシップを発揮し、素晴らしい仲間に恵まれ、ジャパンはW杯で歴史的勝利をあげ、東海大仰星は全国大会を制した。しかし多くの人にとって「勝つ」とは対戦相手に勝利することだけではない。掲げた目標を達成すること、昨日の自分より少しでも成長すること、困難な状況に負けないこと、間違ったことをしないこと、人を思いやる力を持つこと、仲間を大切にすること、たとえ望むような結果が得られないとしても、これらを体現しようとする覚悟と姿勢を持ち続けるだけでも、小さな勝利は日々積み上げられていくはずだ。そしてその取り組みは人生を豊かにしてくれるだろう。「なんのために勝つのか」とは、つまり「なんのために生きるのか」という問いでもあるのだから。
(山根 太治)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2016-03-10)
タグ:リーダーシップ ラグビー
カテゴリ 指導
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ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」
荒木 香織
変化に不可欠なもの
触媒とは、それ自身は変化をしないが、他の物質の化学反応のなかだちとなって、反応の速度を速めたり遅らせたりする物質と定義される。つまり必要な変化を必要なタイミングで起こすための引き金になる存在だ。今のトップチームを組織するスタッフは多種多様になり、その組閣はチーム運営に多大な影響をもたらす。選手とスタッフの正しい巡り合わせは、強いチームづくりに不可欠な条件だ。
2015ラグビーワールドカップで強烈なインパクトを残した日本代表チームはまぎれもなくエディ・ジョーンズHCのチームだった。そして猛将の描く「ジグゾーパズル」を完成するための「ピース」となり得る人々が集まり、身を削りながら働いて、主人公である選手たちを支えたのだ。本書の著者である荒木香織氏も、メンタルコーチという立場で極めて有益な触媒作用をチームにもたらし、選手たちの中に望ましい変化をもたらした。五郎丸選手のプレ・パフォーマンス・ルーティーンとの絡みが注目されがちだが、その作用は実に多岐にわたることが伺われる。
本書で荒木氏はまずこう宣言している。「私は、スポーツ心理学をきちんと学問的に学び、研究し、そこから導き出され、確立された理論を体系立てて理解して」おり、世に蔓延する科学的理論に基づかない自己啓発やハウツーとは一線を画しているのだと。根拠のない経験や感覚でメンタルコーチングは行えないと言い切っているのだ。そもそも「心理学」という言葉が独り歩きして、人を安易にカテゴライズしてわかったような気にさせたり、簡単に人を変えられるといったハウツー本が目に余るのも事実だ。人の心、脳の働きはまだまだ未知の部分が多く、現状わかっていることだけが全てではないが、「人々のスポーツや運動の場面における行動を心理学的側面から研究」し、「様々な実験を行い、統計をとり、ときにはコーチやアスリートにインタビューをして、パフォーマンスと心理的傾向の関係などについて検証する」ことを今なお続け、常に世界の最新の情報を得ることにより、新しい手法を創造していく作業も怠っていない」と声を大にして言い切れる人がどれだけ存在するかは疑問である。
実は10年ほど前、社会人ラグビーのトレーナーを務めていた私はチームへの心理学の専門家導入に失敗した経験がある。セミナーや心理テストをし、カウンセリングを行うなど、心理学の専門家に定期的に介入してもらったが、選手自身の関心も低く、私自身も無理だと早々に諦めてしまった。トレーナーの立場からアプローチすればいいとタカをくくっていたのかもしれない。選手が自分のことを見つめるための個人日誌も、結局はうまくいかなかった。そのときのチームにおいて選手の自立や自律を高める必要があるとわかっていたにもかかわらずだ。その難しさに毅然と立ち向かえなかった愚かな自分を棚上げして言えることは、もっと若い世代の育成中に様々なベースを作っていく重要性を痛感したことだ。
大きなチャンス
今回のラグビーW杯で彼女の存在が注目されたことは大きなチャンスだ。ラグビーの世界では、トップチームを中心ではあるがS&Cの存在が当たり前となり、アスレティックトレーナーが普及し、栄養士が関わり、分析担当が配備されるようになるなど、スポーツ科学のそれぞれのスペシャリストがチームをサポートする形が整備されてきた。今回のインパクトにより、スポーツ心理学の専門家が関わる場面も増えてほしいものだ。同時にこれらのサポートが、どのような形であれユース世代に普及することを強く願う。
たとえば高校世代で各種トレーニングの意義や望ましい身体の使い方を意識する。戦術についての理解を深め、創造することができる。日々食べるものを自己管理する。傷害について理解して予防対策を取り、受傷した場合もそれを克服した上で復帰する。物事の捉え方や考え方のスキルを身につける。そしてこれらを言われたことを鵜呑みにして行うのではなく、自らの考えと判断のもとに望ましい行動に移すことができれば、ラグビー選手としてのみならず、人としての成長に非常に効果的な触媒になることが期待できるのではないだろうか。これは結果的にトップの代表チームの底上げにつながるはずだ。
それぞれのスペシャリストを各チームに配備するのはまだまだ現実的でないが、高校レベルでも優秀な指導者の方々はこういったことを意識して選手の自主性を高めることに成功しているのではないかと思う。そうして成長してきた選手が、若いときの成功に驕ることなく、レベルが上がるに伴いその知見にさらに磨きをかけるべく自らを鍛錬することができれば、素晴らしい人材育成になるように思う。そのためには「心を鍛える」ことが不可欠だ。世界と戦える競技として発展することと同時に、どんなレベルであれ人を心身ともに逞しく成長させる素晴らしいスポーツとして、ラグビーが日本文化にさらに広く普及することを願う。
(山根 太治)
出版元:講談社
(掲載日:2016-05-10)
タグ:ラグビー メンタル
カテゴリ メンタル
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ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」
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近くて遠いこの身体
平尾 剛
どのように共有するか
著者は元ラグビー日本代表で、現在は大学の講師。スポーツ教育学と身体論が専門で、「動きを習得するために不可欠なコツやカンはどのように発生するのか、そしてそれを教え、伝える(伝承する)にはどうすればよいかについて思索しています。」とのこと。タイトルにも惹かれて本書を買ったのだが、残念なことに、これについて全くと言っていいほど触れられておらず、著者自身の回顧録のような内容である。オビの推薦文にあるように、本書の内容(=著者の経験知)が「パブリックドメイン」として共有できるとも思えない。感覚も身体の動きも人によって千差万別。たとえトップ選手の感覚であっても、それを共有し、他人が自分の経験知とすることができるものなのだろうか。
「身体能力を高めたい僕たちが本当に知りたいことは、そこに至るにはどうすればよいかという方法論である。でも残念ながらそんな方法論は存在しない。自らが試行錯誤しながら身体を使い続けるなかでの体感を、ひとつ一つかき集める以外に、そこに至る方法はないだろう。」と本文にある。ということは、結局、自分であれこれ試してみるしかないということなのだ。そこに先人の経験知を共有していれば、その試行錯誤の方向性が定まりやすいということはあるかもしれない。だが問題は、それをどうやって共有するか、ということだ。
伝えるために必要なもの
本書で、漫画「バガボンド」について触れられている。吉川英治著『宮本武蔵』を原作とする人気長編漫画である。著者曰く「身体論の研究にはもってこいの書」だそうだ。そこで私は、司馬遼太郎著『北斗の人』を連想した。
幕末に隆盛を誇った「北辰一刀流」の開祖・千葉周作が主人公の歴史小説である。司馬曰く「北辰一刀流がなければ、幕末の様相も多少変わっていただろう」というほどの革命的な流派だそうだ。「『他道場で三年かかる業(わざ)は、千葉で仕込まれれば一年で功が成る。五年の術は三年にして達する』という評判が高く、このため履物はつねに玄関から庭にまであふれ、撃剣の音は数町さきまできこえわたって空前の盛況をきわめた」というほどであり、その特徴は「凡才でも一流たりうる」という独特の剣術教授法であった。そして千葉は、剣法から摩訶不思議の言葉をとりのぞき、いわば近代的な体育力学の場で新しい体系をひらいた人物なのだそうだ。
一方、武蔵が開いた「二天一流」は幕末期には衰退していた。武蔵が記した「五輪書」にも刀の持ち方とか足さばきとか、具体的なことが書いてあり、摩訶不思議な言葉を並べているわけではない。たとえば「太刀の取様は、大指人さし指を浮けて、たけたか中くすしゆびと小指をしめて持候也」という具合である。しかし、この違いはなんだろう。時代背景も違うし、流行が流行を呼んだということもあるかもしれない。そもそも2人の剣豪を比較するつもりもないのだが、ここで私が考えたいのは「凡人でも一流たりうる」ためのコツやカンを、他人に伝えることは可能なのかということである。
本書にあるとおり「言葉を手放し、『感覚を深める』という構えこそが、運動能力を高めるためには必要」であり「『感覚』を拠り所にすれば、そこには努力や工夫の余地が生まれる」のだとしても、その感覚や経験知を伝えるためには結局言葉や方法論が必要なのではないか。
ブルース・リーは映画『燃えよドラゴン』(1973)で「Don’t think! Feel!」と有名なセリフを言ったが、実際には「感じろ!」だけではコツやカンを伝えることはできない。もっとコツやカンとは何ぞやということを掘り下げないと、それをどう伝えるかも考えられない。
本書に紹介されているエピソードに興味深いものがある。ラグビーの強豪ニュージーランドの20歳以下の代表チームと対戦した際に著者が経験した「狩るディフェンス」だ。わざと走り頃のスペースを空けて走りこませ、挟み撃ちにするのだ。ニュージーランドのラグビーの中でその技が伝統として継承されているという。メンバーの入れ替わる代表というチームで、阿吽の呼吸が必要なこういうプレーがどのように伝承されているのか。イメージなのか感覚や経験知なのか。ここにコツやカンとは何か、どう伝えるかというヒントがあるように思う。とても興味深いテーマに挑んでいる平尾氏の続編を期待したい。
(尾原 陽介)
出版元:ミシマ社
(掲載日:2015-04-10)
タグ:身体感覚 ラグビー 教育 コツ カン
カテゴリ 身体
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近くて遠いこの身体
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ラグビーは頭脳が9割
斉藤 健仁
イベント目白押し
今年9月から10月にかけてイングランドで第8回ラグビーW杯が行われる。来年からラグビーユニオン(15人制)世界最高峰リーグであるスーパーリーグに日本チームが参戦する。そして2019年にはいよいよこの日本でラグビーW杯が開催される。それで終わりではない。翌2020年の東京オリンピックは7人制ラグビーが正式種目となって2回目の大会となるのだ。世界的イベント目白押しで、日本ラグビー躍進の大チャンスである!…と手放しで喜びたいところだが、もちろん不安もある。国を代表するチームは当然ながら結果が求められる。果たして期待に見合う成績が伴うのかという根本問題に対する不安である。
いや、2015年5月時点で我らが日本代表チーム(ジャパン)は世界ランキング11位であり、アジアチャンピオンなのだ。不安要素をそれを乗り越える前向きの力に変えよう。無理だと思った時点で人は自身にブレーキをかけ、可能性を自ら潰してしまう。期待しても無駄だと割り切らず、期待を膨らませて応援しようではないか。ジャパンの選手やスタッフは勝利を固く信じ、勝つための戦略を組んでいる。強豪との真っ向勝負を避け、勝てそうな相手を選んで勝利を挙げようというのではない。格上チームを打ち負かすためにどう戦うのか、同格チームに確実に勝利するためにどう戦うのか、具体的戦略を組みそれを体現するためのトレーニングを積んでいるのだ。またユース代表に至るまでその考えを共有し、次の代表選手を育てるためのシステムも構築されてきている。期待は膨らむではないか。
自由度の高い競技
前に投げられないということがずいぶん大きな縛りに感じるかもしれないが、ラグビーは自由度の高い競技である。だからさまざまな攻撃戦術が生まれ、それに対抗する防御戦術が考案される。そして流行りのようにある戦略が広く普及した頃に、それを凌駕すべく新たな戦略が練り出される。単純な肉弾戦はレベルが上がれば上がるほど通用しない。そんなスポーツなのだ。
本書は日本代表から高校に至るまで国内様々なレベルのラグビーチームにスポットを当て、どのような戦略で戦っているのか紹介する取材記事である。安直な題名は果たして著者の望むものだったのか疑問ではある。戦略抜きに現代ラグビーは戦えないとは言え、それを具現化しようと思えば強靭なフィジカル能力の占める割合が大きいからだ。しかし各チームが主流の戦略を取り入れながらも、自分たちの強みをうまく活かし、弱点を補う独自のスパイスを融合させ、さまざまな工夫を凝らすその姿は、ラグビーが以前よりずっと複雑な頭脳戦になっている証だろう。
昔ながらの言葉もあるにせよ、攻撃用語としてシェイプやポッド、リンケージ、守備用語としてピラー、ポスト、ドリフトにTシステム、次々にカタカナ用語が並ぶと、よほどのラグビー通でなければなかなか説明が追いつかない。シェイプという言葉も9シェイプ、10シェイプや12シェイプと活用法があるし、ポッドもバイポッドにトライポッド、はたまたテトラポッドと言われてはすっかり混乱してしまう。
私はコーチではないし理解も浅いので聞いたふうなことを言うのは控えるが、今のラグビーは代表から高校生に至るまで少なからずこれらのシステムを取り入れている。観戦前に予習しておくとラグビーがより楽しめること請け合いである。本書も参考にそれぞれのチームの特色を把握しておいて、それが実際の試合でどのくらい機能しているのか、相手チームはそれにどう対処しているのかがわかれば、立派なラグビーフリークである。
システムの果たす役割
ただ、どれだけ素晴らしい戦術を練りフィジカルを強化しても、それで十分とは言えない。めまぐるしく変わる状況を広い視野で捉え、最適の選択肢を瞬時に選ぶ決断力なしにはそれらの機能は著しく低下するのだ。
限られた戦術に固執し、ただそれだけを繰り返したところで最上の結果は得られない。シェイプやポッドはあくまでも目指すべき方向にチーム全員が向かうための共通認識促進ツールだろう。これはラグビーのゲーム戦術においてのみならずフィジカル強化の方向性を示すものでもあり得る。戦術を効果的に行うためのフィジカル特性が明確になるからだ。
しかしこれらがラグビーの全てではない。抜けそうにないところを抜いてくるプレイヤーもいるし、モールにとことんこだわるなど相手の戦略理論を力づくで粉砕するチームもある。だからこそ、力が均衡した状態で常に予期せぬことが起こり得るゲームを支配するのは、その状況を的確に評価した上で効果的な決断を下し、実行に移せる力となるそこにシェイプやポッドというシステムがあれば、その選択肢に皆の意識を集めやすいということだ。
密集が多くゴリゴリ泥臭いプレーも悪くはないが、そもそもアタック戦術の基本はスペースをつくり出し、そのスペースを活かすことである。スクラムやラインアウトなどのセットプレーで相手を支配し、身体を張るところは惜しげもなく張り、隙があれば見逃さず突き、キックも有効活用して、将棋で相手をじわりと詰めていくように戦略的かつ臨機応変の攻撃フェイズを重ね、相手ディフェンスを崩し、集め、誘導して、空いたスペースにフリーの選手とボールを運ぶことができれば、ため息が出るような素晴らしいトライシーンが生まれる。まさに醍醐味だ。そのようなシーンからはチームの確固たる意志の力が感じとられる。世界の舞台で強豪相手にジャパンがそんなシーンを生み出すことができれば、心が震えてきっと涙がこぼれてしまうことだろう。
( 山根 太治)
出版元:東邦出版
(掲載日:2015-07-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記
大友 信彦
1991年大会での初勝利以来、ワールドカップでの勝利から遠ざかっているラグビー日本代表。2015年大会を間近に控えたタイミングで、エディー氏をヘッドコーチに迎えてからの取り組みがまとめられた。
エディー氏は90年代より日本ラグビーに関わっており、日本の選手たちの特徴もよく知る。課題を克服し、長所を伸ばすべく、薫田真広氏や岩渕健輔GMらとの協力体制のもと、チャレンジングな合宿・試合を組んできた。
エディー氏が日本のラグビーの可能性を信じているからこそ、選手もついていくし、変化も見えてくる。何かを変えようとするときに大事なことを再確認するとともに、ラグビー日本代表の活躍が楽しみになる一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東邦出版
(掲載日:2015-10-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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人類のためだ。 ラグビーエッセー選集
藤島 大
歴史的な勝利
日本ラグビー界にとって歴史的な日に、実際は深夜に、この原稿を書いている。
ワールドカップで過去1勝しか挙げていない今大会開始時世界ランキング13位の我らがジャパンが、同3位の南アフリカを真っ向勝負で下したのである。この原稿が出る頃にはさらに大きな伝説が生まれているかもしれないが、今この瞬間も涙なしにはいられない。日本中のラガーマン、ラグビーファンが泣いただろう。
試合を通じて取りつ取られつのシーソーゲームを堂々と競り合うジャパン。ディフェンスシーンもトライシーンも痺れるものばかり。3点ビハインドの試合終了直前、ゴール前に迫っていたジャパンは、ドロップゴールやペナルティゴールでまず同点を狙うこともできた。しかしそれはジャパンにとってフェアではなかった。スクラムを選択してから攻めきってのサヨナラ逆転トライ! ラグビーというフィジカル要素の強い過酷な競技の世界大会で、はるかに格上のトップチームにこの渡り合いを見せられたことは、それだけで日本という国が賞賛されるほどの結果なのだと言ってしまおう。
ラグビーへの思いの結晶
さて書評だ。タイトルからはその内容が想像しにくいが、本書はラグビーに関するエッセイ集だ。大学ラグビーのコーチを務めたこともあるスポーツジャーナリスト藤島大氏があちこちに書き落としたラグビーへの思いの結晶である。
カバー絵はラグビーのセットプレイのひとつラインアウト。空高く飛び上がらんばかりのジャンパーが掴もうとしているのはラグビーボールではない。平和の象徴白い鳩である。帯に書かれている言葉は「この星にはラグビーという希望がある」。ラグビーが人類のための存在? ラグビーが世界の希望? そんな大袈裟な。いや、ラグビーの虜になった人は思うだろう。南アフリカ戦に魅了された人は思うだろう。さもあらん、と。
本書では、古くは1995年に書かれたものから最近のものに至るまで、少々芝居がかった独特の言い回しで、歴史的な話もまるでそこに居たように描写し、先人たちの金言を散りばめながら、そう思わせるようなラグビーの真の価値に触れている。
元日本代表監督でスポーツ社会学者の故・大西鐡之祐氏の「闘争の論理」が所々で紹介される。曰く、「戦争をしないためにラグビーをするんだよ」。曰く、「合法(ジャスト)より上位のきれい(フェア)を優先する。生きるか死ぬかの気持ちで長期にわたって努力し、いざ臨んだ闘争の場にあって、なお、この境地を知るものを育てる。それがラグビーだ」。曰く、「ジャスティスよりもフェアネスを知る若者を社会へ送り出す。『闘争を忘れぬ反戦思想』の中核を育てることが使命なのだ」。闘争することを知らない若者が、自らを取り巻く過酷な現実から目を背けイベントのようにデモに集まる姿を最近目にして、なんだか心が冷えるような思いをした。これらの言葉はそこに火を入れてくれるように感じる。積極的に闘争せよと言っているわけではない。「世の中は平和で自由だが、物事に対して畏れ慎む気持ちを忘れてはならない」。オソロしいから「悲観的に準備し、それを土台に大胆に勝負する」ことが求められるのだ。
まるでこのワールドカップに向けてエディージャパンが体現してきたことのようだが、これは戦後の秋田工業を率いた名指導者佐藤忠男氏の言葉である。ラグビーの世界に止まらない響きがある。
なぜ希望となり得るか
ラグビーは闘争である。だからこそ可能な限りの準備を整える。しかし闘争だからといってフェアネスを欠いたプレーを重ねると、結果自らを、そして自らの仲間を貶めることになる。仮にルールをギリギリのところでラフな側に解釈し、フェアネスよりもジャスティスを都合よく利用するようなチームがあったとしても、腰を引くことなくかつ自らのフェアネスを曲げることなく正面から戦い抜くこと、それがラグビーにおける真の正義なのだ。
歯車という言葉はネガティブに使われることが多いが、ラグビーは実にさまざまな形や大きさの歯車がそれぞれ自分の役割を果たしてひとつの大きな力を発揮するスポーツである。そこでは互いに噛み合う多様な人たちを認め合うことを知り、ひとりでは何もできないことを身をもって知ることになる。同時に誰かのために心身を賭すことを覚えるのだ。
そして「競技規則とは別に『してはならないこと』と『しなくてはならないこと』は存在する」ことを確信する。想像してほしい。たとえば自分より20cm背が高く、体重では30kg重い巨体が勢いをつけて自分に向かって突進してくる姿を。勇敢なラガーマンであればそこから逃げ出したり、小細工をしようとすることはありえない。怖くないわけではない。その原動力は戦うための過酷な準備を通じて築き上げたプレーヤーとしての誇り、だけではない。共に汗を流し同じ目標を掲げ互いに認め合った仲間との絆、だけでもない。相手選手への敬意や、支えてくれた人たちへの感謝などさまざまな事柄をも受け止めて、やるべきことを正々堂々実行するのである。結果的に仰向けにひっくり返されたとしても決して退きはしないのだ。
このような状況に置かれることは人生の中でそう多くない。だからこそ、それが当たり前のラグビーをとことん経験することは、人のあるべき姿を追求することになり、人類のためのかけがえのない希望になり得る、ような気がするではないか。
酷な準備を経て南アフリカ戦を戦い抜いたジャパンのメンバーは、まさにそれを見せつけてくれたではないか。だから、強豪に勝ったという事実以上にあの試合はラグビーを知る者たちの心を揺さぶったのである。「人類のため」という言葉が大きすぎるとしても、「少年をいち早く男に育て、男にいつまでも少年の魂を抱かせる」この競技に正しくのめり込んだ人は人生にとってかけがえのないものを得られる、ということに異論はないだろう。
(山根 太治)
出版元:鉄筆
(掲載日:2015-11-10)
タグ:エッセー ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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勝つためのドリルマニュアル② ラグビー
高校選手のフィジカル
今年度のラグビーシーズンも数々の名勝負が放った輝きを残し、終わりを告げた。個人的には学生ラグビーのレベルの高さをありがたく楽しませてもらった。大学選手権決勝も「痺れた」が、花園ラグビー場で熱戦が繰り広げられた高校ラグビーの準決勝、決勝には、いつも以上に感動させてもらった。
それにしても最近の高校ラグビー選手はフィジカル能力が高い。サイズがあるということだけでなく、活動量の多い今のラグビーで全ポジションの選手がよく動く。押し、走り、あたり、また押し合い、走ってあたる、全国大会ではそれを一日おきに60分間やり続ける。このスケジュールの是非に関しては脇に置くが、彼らは単純にはとても言い表せないラグビーフィットネスを練り上げてきている。パスやキックなどの基本スキルもフォワード、バックスにかかわらず高いレベルだ。
いや、待て。最近はと書いてはみたものの、こういったことは10年以上前からずっと感心しているところだ。では、改めて何に心打たれたのか。アタックにおいてもディフェンスにおいても徹底された戦術だ。そしてそれを実行するための細かなスキルを身につけていることだ。しかもその戦術を高校生ラガーマンたちが自らの判断で、いつ、どこで、どのように使うかを理解していて、しかもそういった型にハマるだけでなく、アンストラクチャーの状態からも意思を持って自在に攻撃できるという、そういったレベルの高さに感動してしまう のだ。3年間という限られた時間の中でメンバーが代謝し続ける高校ラグビーで、名門校であり続ける条件とは何だろう。
ノウハウの公開
本書では、その高校ラグビー名門校を中心に、いくつかの練習方法やそのコンセプトが紹介されている。最近出版された本書以外でも、一昨年には東海大仰星高校の土井崇司氏(元監督)による『もっとも新しいラグビーの教科書』、東福岡高校の藤田雄一郎監督による『ラグビーヒガシ式決断力が身につくドリル』が出版されている。高校ラグビーの世界から全てのレベルに通ずる現代ラグビーの原理・原則や思考基準、それを身につけるための方法論が発信されているのである。
ラグビー先進国からの情報が入りやすくなっている環境もあるだろうが、名門校はそれに自分たちのオリジナルもふんだんに加えてチーム力を上げるさまざまな工夫を凝らしている。その仕組みを持っていることが、まずは名門校の条件となる。では、門外不出としておきたいようなこれらのノウハウを惜しげもなく公開してしまう理由は何だろう。より強い相手の出現を求める王者の風格か、はたまた日本ラグビー全体の底上げを願う賢者の篤志か。
30年ほど前の話になるが、専属の監督もいない素人集団大学ラグビー部のキャプテンとなった私は情報に飢えていた。ラグビーって一体どうすればいいのか本気で悩んでいた。自ら築き上げる創造力も乏しかったし、選べるほど選手もいなかった。ラグビーの練習内容やトレーニング方法について、目についた本を取り寄せ読み解き、ない知恵を搾り出しては練習方法や戦術(と言えるほどのものではなかったが)を考えていた。しかし当時はラグビーの体系的な戦術書と言えるものはほとんどなかった。
では、あの頃これらの良書が入手できればどうだったか。それはありがたかったと思うし、これらのドリルを模倣するだけでもチーム力は上がったはずだ。しかし、間違いなく次の壁にぶつかっていただろう。実際の試合中に、何をどう使うのか、状況を理解し、自ら思考して判断し、瞬時に行動に移すということを選手全員が主体的にできるようになるにはどうすればいいのかという壁に。名門校はそこをブレイクスルーできる何かをも持っているはずだ。
主体的な判断をもたらすもの
ボールに直接絡む「on the ball」プレーと、その他の「off the ball」のプレー、圧倒的に多くなる後者の中にも、常に的確に状況を把握し、果断に決断し、勇敢に実行する意思が必要となる。高校全国大会の上位チームは、戦術に振り回されるのではなく意思をもってそれらを活用していた。スクラムやラインアウトなどのセットプレーしかり、スタンドオフの前方にシェイプをつくって的を絞らせないなど工夫を凝らしたアタックシステムと整ったディフェンスシステムとのブレイクダウンの攻防しかり。ボールを持ってトライゾーンに飛び込む華やかな瞬間に至るまでには、チームのために身体を張って自らの役割をまっとうする「off the ball」のプレーが積み重ねられている。ラグビーという激しいスポーツにおけるこれら全ての「on the field」の行動は、ただノウハウを知っているだけではやはり体現不可能なのだ。
もちろんこれらは「on the field」の練習で磨き上げられるのであるが、加えて「off the field」の立ち居振る舞いによって培われる部分も大きいはずだ。練習準備や後片づけなどのみならず、授業中の態度や通学中の電車の中でのバッグの置き方から周囲への配慮、親をはじめ周りの人たちへ感謝する気持ちなど、人としての生き方が「on the field」に現れるのだ。
優秀な指導者の導きの中、自らの生き方を問い、考え、それを主体的な行動に移すという人間としての成長を促す環境、それがなくてはたとえば決勝の東福岡高校のゴール前のディフェンスのようなプレーはできないし、名門校としての存在など維持できないはずだ。だから観ていて奮えるのだ。
(山根 太治)
出版元:ベースボールマガジン社
(掲載日:2017-03-10)
タグ:ラグビー 練習 ドリル
カテゴリ 運動実践
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強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ
Eddie Jones
ラグビーのコーチを20年以上続けているとよく、「どうしたら勝てるんですか?」ときかれます。必ずわたしはこう答えます。
「あなたは、どうやったら勝てると思いますか?本気で考えていますか?」
わたしが日本代表ヘッドコーチになって最初に取り組んだこと。ーそれは、いわれたことをやっているだけの選手たちに、自分自身で「どうやったら勝てるか」を考えて判断できるように、変わってもらうことでした。(本文より引用)
この本は、記憶に新しい2015年ラグビーW杯で、世界的な強豪チームである南アフリカ代表相手に歴史的勝利をおさめた、当時の日本代表チームのヘッドコーチであったエディー・ジョーンズ氏によって書かれている。4年間でいかにして強いチームを作ったか、その軌跡を振り返りながら強くなるための心構えや、彼のひたむきに強さを追求してきた人生観についてご自身の過去にも触れつつ、非常に丁寧に語られており、子ども向けの本だと思って気軽に読むと予想以上に胸を打たれてしまう、ある意味危険な一冊だ。
世界の舞台での「負けぐせ」がつき、エディー氏のヘッドコーチ就任時はほとんど全員が下を向いて、目を合わせようともしないくらいおとなしかった日本代表選手たち。そんな彼らがW杯でベスト8入りを目指して世界一ハードな練習を乗り越え、なぜこんなに厳しい練習をやる必要があるのかを自分の頭で考え、勝つためにできることをすべてやり尽くし、心も身体も強い集団に生まれ変わるまで、コーチの目線からどんな関わり方をしていったのかが非常に具体的に語られている。
五郎丸歩選手がスランプに陥ったときに、寿司屋でかけた言葉。
リーチ・マイケル選手を新キャプテンに選んだ理由。
前キャプテン、廣瀬俊朗選手の苦悩と貢献、人間的魅力。
一つひとつのエピソードが「人を強くする」プロであるエディー氏の考えや人柄をよく表現しており、たとえラグビーのような競技スポーツをやっていなくても、子どもから大人まで夢や目標がある人にとっては、心に響く貴重な学びが大いにあるだろう。
特に、身体が小さくても、大きい相手に勝つ方法はいくらでもある。欠点があっても、あまりそこにはこだわらないで、強みを伸ばすことを考える。そして長所は誰よりもうまくなるように練習し、努力を続ける。このメッセージを伝えるのに、彼ほど適任な人はいないのではないだろうか。エディー氏が指揮をとった、あの南アフリカ戦での日本代表選手たちの戦いぶりこそが、言葉以上にそれを体現している。
エディー氏自身も173cmと小柄で、ラグビーが大好きだった少年時代から母国オーストラリアの代表選手に選ばれるという夢を追い、選手としてそれが叶わなかった過去を持つ。しかし32歳で選手を引退後、自分はトップ選手になる方法やトップチームをつくる方法を考えて人に伝えるのが大好きで、そこにコーチとしての自身の才能を見出したという。
「きみも、たとえ夢がかなわなくても、あまり落ち込まなくていいんですよ。なにかうまくいかないときこそ、新しいステージに進んでいると思ってください。」「大事なことは、自分の才能は必ずなにかに活かせると信じることです。そして一生懸命、なにかに取り組むからこそ、自分を信じる力がわいてくるのです。」
あなたには、必死になって何かに取り組んだ経験がありますか? もしあれば、きっとこの本に書かれたメッセージは、今でもあなたの背中を力強く押してくれるだろう。
(今中 祐子)
出版元:講談社
(掲載日:2019-08-13)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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問いかけ続ける 世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範
ジェイムズ・カー 恒川 正志
「カ・マテ! カ・マテ!」(死ぬ!・死ぬ!)
「カ・オラ! カ・オラ!」(生きる!・生きる!)
これは、ラグビー世界最強のオールブラックスこと、ニュージーランド代表チームが試合開始前に行う先住民マオリ族の儀式の言葉の一つです。ハカによって、先住民の魂を呼び戻すと言われています。
その「ハカ」が、オールブラックスの強さの秘訣と言えばそれまでですが、この書籍では一つのラグビーチーム・フィフティーンになぞらえて15の章でオールブラックスに伝わる行動規範を強さの秘訣として伝えています。
この書籍のタイトルにもある「問いかけ続ける」伝統こそが、勝ち続けるチームの秘訣であると説いています。この書籍では、ラグビーというスポーツですが、会社で働くビジネスマンにも通じます。スポーツとビジネスの違いがあっても組織で動くことには変わりないからです。
勝率8割以上という驚異的な数字を残すオールブラックスは、試合で勝つという結果を残しています。各章で紹介されている項目が正しいマインドセットを整え、この勝利という裏づけとなりました。
個人が組織で働く際、個人のパフォーマンスを最大にする必要があります。しかし、ただパフォーマンスを上げれば良いわけではなく一個人として秩序とマナーを守ってこそよい組織になります。とりわけ、オールブラックスには15個のマインドセットが浸透し、同じ方向を向いて勝利へと進んでいます。
本書では、2004年の主要メンバーの話が出てきます。この当時に起きた問題からオールブラックスが復活を遂げた「問いかけ続ける」本質を分かりやすく紹介されています。もうすぐ日本初開催のラグビーW杯が開幕します。どのチームが栄冠を勝ち取るのか、この書籍を読みながら観戦するのも面白いと思います。
(中地 圭太)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2019-09-19)
タグ:ラグビー オールブラックス
カテゴリ 指導
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ラグビーは頭脳が9割
斉藤 健仁
2019年ラグビーワールドカップが始まりました。初戦で日本代表はロシアに勝利しましたが、前回のワールドカップで勝利するまでは24年間白星から遠ざかっていました。体格的に劣るといわれた日本が変わったのは「スマートなラグビー」を目指したからでしょう。コンタクトスポーツである以上、体格は重要な要素であることは間違いありませんが、日本人の持つスピードを活かすことで、日本人らしい戦い方を模索し始めたことが契機になりました。
スマートなラグビーを支えるのは戦術。本書は日本代表、トップリーグ、大学、高校と強豪と呼ばれるチームがどのような戦術を立て強くなっていったかを解説したものです。チャートを使った戦術の説明は、ラグビー経験のない人でも容易に理解できます。選手たちの動きが頭の中で映像となって甦ってきそうです。
単なる作戦の説明にとどまらず指導者の考え、悩みなどもドキュメンタリーな進行で描かれていますので戦術面のドライさと精神面のウェットな部分が本書を立体的なものにしていると感じました。
「頭脳が9割」とタイトルにはありますが、あくまでもプレーするのは人です。個人の考え方や特性と戦術が適合してこそ勝利に結びつくというもの。頭脳を使うというのは単に作戦を考えるだけではなく、チームとしての方向性を考え、プレーする選手の判断力を高めたものがチーム全体で機能するところまで考え抜かないといけないようです。「人があって方法があり、方法があって人がある」パナソニック監督のロビー・ディーンズの言葉通り、人と戦術が合致するところまで高められたチームのすごみが文章の中から伝わってきます。こういったラグビーの楽しさは実際にゲームを見るときに大いに役立つでしょう。
スポーツは生き物です。今、高校生から代表チームまで日本中のラグビーが変わろうとしています。期待したいですね。
(辻田 浩志)
出版元:東邦出版
(掲載日:2019-09-24)
タグ:ラグビー
カテゴリ その他
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勝利を支配するもの
佐藤 純朗 平尾 誠二
非凡な才能とカリスマ性で、史上最年少監督に就任した平尾誠二氏とジャパン(ラグビー日本代表)の2年半を追った本である。W杯では、予選リーグ全敗で決勝リーグには進出できなかったものの、その足跡は日本のスポーツ界に大きな財産を残した。続投の“Mr.ジャパン”にさらなる強化を期待したい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2000-01-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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勝つためのチームメイク
堀越 正巳
選手としての華々しい15年、そして監督しての2年、この間に培われた氏による「実践的ラグビー組織論」「勝つためのチームメイク」の集大成。組織と個人をいかにうまく噛み合わせ、戦う集団にするか。フォワードとバックスを機能的に動かし、両者の力を最大限に発揮させる堀越氏の理論とは?
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2001-02-10)
タグ:ラグビー 組織
カテゴリ 指導
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ラグビーのフィジカルトレーニング 競技力が上がる体づくり
太田 千尋 臼井 智洋
どんな活躍をしたいのか? という「パフォーマンスゴール」を軸に、自分に必要な要素を積み上げていくのが成長の一番の近道だという。本書の構成としては、正しい姿勢や動きを身につけるメディカルプレップ、ラグビーに必要なパワー・スピードを伸ばすフィジカルプレップ、体力をラグビーのプレーにつなげるスキルプレップと段階を踏んで解説しているが、スキルプレップから戻る形で自分が取り組むべきメニューを辿っていくこともできる。1試合通じて力を発揮し続けるコンディショニングにも触れる。すべてのメニューがフルカラーの写真付きで紹介されており、わかりやすい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2021-10-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ トレーニング
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オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット
大友 信彦
ニュージーランドラグビー
2011年9月16日、ラグビーワールドカップ2011ニュージーランド大会1次予選、日本対ニュージーランドの試合は、両国が被った震災への黙祷で幕を開けた。国歌斉唱で横一列に並ぶ日本代表チームの中に外国人選手の姿が目立つ。本大会に戦いを挑んだ日本代表選手30名中、国外出身選手が10名を占めた。その多くがニュージーランド出身者である。中には高校生の頃から日本で生活をしている選手や日本国籍を取得している選手もいる。IRB(国際ラグビーボード)のルールに則って選ばれた彼らは、まぎれもない日本代表選手である。君が代を高らかに歌い上げる姿や日本代表としての誇りを胸に懸命にプレーする姿は見ていて胸が熱くなる。しかし、である。心のどこかにわき出す違和感は否定できない。これについてはさまざまな意見があるだろうし、賛否の分かれるところだ。
さて、ラグビーを追い続けるスポーツライター大友信彦氏による本書は、オールブラックスを頂点とするニュージーランドラグビーに縁のある人へのインタビューで構成されている。そこからうかがい知れる彼の地のラグビー文化を考察する内容は、ラグビーファンには興味深いものだ。現役オールブラックスの声は残念ながら聞けないが、登場する元オールブラックス、またその好敵手だった選手や監督も日本に居住する人ばかりで、だからこそ聞かれる日本ラグビーへの提言も面白い。
遠い憧れ
第1章を飾るのは、1987年に行われた第1回W杯でニュージーランド優勝に大きく貢献したジョン・カーワン氏である。彼のライン際80m独走トライは、24年を経た今でも鮮明に思い起こされる。オールブラックスに選ばれる選手の強さを象徴するシーンだった。当時ラグビーを見る目が肥えていたなら、フォワードの動きを中心に、気づくことはもっと多かっただろうが、あの頃はただその鮮烈なフィニッシャーに心を奪われた。同時に、日本のラグビーと世界トップクラスとの格差に愕然としたものだった。彼がオールブラックスに選ばれたとき、こう聞かれたそうである。「ただのオールブラックスで終わるのか、グッドオールブラックスになるのか、グレートオールブラックスを目指すのか」。上のレベルを目指すには謙虚さを持ち続け、他の人にない努力をすることだと教わったとある。その彼がヘッドコーチとして今回のW杯に向けてジャパン(ラグビー日本代表)を鍛え上げてきた。
映画「インビクタス」の舞台となったW杯1995南アフリカ大会で、ジャパンはオールブラックスを相手に17-145という歴史的惨敗を喫した。まるでディフェンスのいないキャプテンズランのように次々にトライを重ねられるその惨状に、ラグビーファンとして胸がきりきり痛んだことを覚えている。それ以降、代表チームのみならず国内の多くのチームが主にニュージーランドからプレイヤーや指導者を招聘し、日本ラグビーの向上を図ってきた。16年ぶりの対戦で、多くのラグビーファンは、ジャパンが成長してきた部分、ジャパンが世界トップを相手に戦える要素を何か見つけたいと思っていたはずだ。確かにボールをキープして攻撃のフェイズを重ねるシーンもあった。しかし、漆黒の壁にスローダウンされてほとんどの局面でコントロールされていた。ディフェンスにおいても、懸命な姿勢は足が止まってきた終盤も貫かれたが、失点は83を数えた。
主力を温存したとのことだったが、ジャパンのメンバーは精一杯プレーしていたし、以前より外国人慣れしている印象は確かにあった。しかし、ジャパンの持ち味とされるスピードある展開を含め、全ての要素で格が違った。ニュージーランドラグビーは未だに畏怖すべき遠い憧れの存在のままだったのだ。
もっとこだわりを
外国人選手がジャパンに多く選ばれている理由として、まだ彼らから学ぶ時期だというものがある。ただこれは随分前から繰り返されている決まり文句である。代表選手が時とともに入れ替わる中で、外国人代表選手の数は帰化選手を含めて確実に増えているのだ。国内頂点のリーグであるトップリーグに力のある外国人選手がたくさん加わることで見どころは増えるし、日本ラグビーのレベルは確実に上がってきている。しかし、ジャパンには、日本代表としての特別なこだわりがもっと必要ではないか。今回のW杯でも、負傷者によるポジション調整以外に、この世界レベルを経験する日本人スタンドオフがいなかったことも、大きな問題ではないのだろうか。
出発前の東京都知事による叱咤激励にも象徴されるように、代表チームの戦場は結果が求められる厳しい世界である。しかし、彼らは子どもたちの夢でもある。もちろん勝つことが彼らに夢を与える最善の策だろうが、力足らずとも懸命に工夫し身体を張り、誇りを見せる日本人の姿は、いつか自分が強くしてみせるという若者も生み出すのではないか。その子どもたちに、外国人が中核となる今のジャパンはどう映っているのだろうか。
本書にはニュージーランドラグビーを肌で感じてきた日本人も登場している。最終章の坂田好弘氏の話は痛快である。ジョン・カーワンHCは、今回のニュージーランド戦後、強国との試合経験を積ませるため、日本人選手やチームを、協会が尽力して海外の試合に派遣する構想を発表した。現状の日本代表を憂慮するラグビーファンを少し前向きな気持ちにしてくれたのではないだろうか。2019年のW杯は日本で開催される。
(山根 太治)
出版元:東邦出版
(掲載日:2011-11-10)
タグ:組織 指導 ラグビー
カテゴリ 指導
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強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ
Eddie Jones エディー・ジョーンズ
覚悟と背中
我が子に強くなってもらいたいと、親は願う。強さにも様々な形があるので、それぞれの種類の強さでいい。自分色で強くなってもらいたいと、そう願う。しかし、ただ願うだけでは足りない。「強くあれ」と言葉にするだけでも足りない。我が子とどんな関係を築いていくのか、親としてどう行動するのか、実働を伴わなければならないと個人的には考えている。スポーツの指導者も同じだろう。己の立場をいいことに自らの立ち居振る舞いを棚に上げ、アスリートを支配するようではとても指導者とは呼べない。親や指導者は、子どもやアスリートに対する言動に責任を持つのが当然であり、そこに自らを律する覚悟がなければ、誰かを教育したり指導すべきではない。人は不完全なものだから、「できるか、できないか」ということであれば、この極めてシンプルな真実を隙間なく遂行することは、相当に困難である。しかし「やるか、やらないか」であれば、そうありたいと自らの行動の端々に結びつけることは誰にでもできるはずだ。まさしくその覚悟が「強くある」ことの基盤になり、若い世代に「強くなりたい」と考えさせるために見せたい背中であるのだから。
さて本書は、昨年のラグビー W杯で旋風を巻き起こした日本代表チームの指揮官、エディ・ジョーンズ氏による強くなりたい子どもたちへのメッセージである。氏は代表選手にどんな取り組みを行い、その結果彼らに何が起こったのだろうか。最も重要なポイントは、メンバーの心身のバリアを取り去り、その基準値を大胆にリセットすることにあったと思う。我々は無意識に自分の言動にバリアを張り巡らせている。「どうせ...」「めんどくさい...」「仕方がない...」「誰に何言われるかわからない...」と、言い訳を探せばいくらでも出てくるものだから、結局楽なほうに流れがちだ。「身の程を知る」といった言葉に代表される強固なバリアで自分を守っているのだ。氏は、日本代表が掲げる目標を、単なるお題目ではなく実現可能なものにするために、世界一厳しいトレーニングを選手に課した。そして、それが単なるしごきではなく、目標を達成するために必要な行動だと考えさせることに成功したのだ。自分が今まで考えていたバリアを超えたところにある「あるべき自分」が「ありたい自分」となったとき、以前の自分が決めてしまっていた限界を自らの意思で書き換えることができる。
説得力はどこからくるか
そのためには、エディ・ジョーンズ氏をはじめとしたスタッフの覚悟がまず問われただろう。生き様と言っていいのかもしれない。ラグビー選手たちと同じ種類のハードワークはできなくとも、自身のプロフェッショナル領域における揺るぎないハードワークがなければ、世界一のハードトレーニングは成立しない。氏の妥協なき態度は相当に熱く、周りへの要求は半端なく高いと伝え聞くが、それに応えきったスタッフの方々の力たるや凄まじいものだったろう。
そんなスタッフも選手もその気にさせ続けた氏の魅力がどのように築き上げられたのかについても、本書から伺い知ることができる。圧倒的な力を持たない者が、挫折を知り苦しみを知った者が、強くなりたいと様々な工夫を重ね己を磨き続けてきたその生き様が根底にあるのだ。自分に言い訳をせず、妥協せず、ただ強くありたいと考え、考えうる行動を実践してきた者が、自分を好きになり自信を持つことができるのだろう。そしてそんな風に生きてきた者が説得力を持つのだろう。
子どもたちに、「きみの未来は、希望と無限の可能性に満ちあふれています」と言える大人でありたいと思う。エディ・ジャパンは、金星を挙げた南アフリカ戦の最終局面で、同点にすることを指示したこの指揮官を乗り越え、逆転勝利を挙げた。親父に鍛え上げられた子どもたちが、その親父を爽やかに超えていったのだ。親としては最高の結末ではないか。
ところで、常に「もっと強くなりたい」と考えている主人公が活躍するアニメ主題歌で、「身ノ程知ラズには、後悔とか限界とか無ーいもん!」とあるが、これはいい歌詞だと思う。小学校 3 年生の長男坊が、先日初めて黒帯への昇段審査に挑戦し、残念ながら失敗に終わった。こんなときはチャンスである。存分に悔しがればいいが、恥ずかしいと思う必要はない。黒帯を締めるに足る存在になるように心身を鍛え続け、強くなればいい話だ。まだそんな風になかなか思えない幼なさが残る我が子に、「強くなりたい」と思う気持ちを膨らませ、それを様々な形で行動に移すための気づきを促すところに、親父たる者の果たす役割がある。それができる親父であるために、己もまだまだ「強くありたい」と思い続け、行動し続けたい。
(山根 太治)
出版元:講談社
(掲載日:2017-01-10)
タグ:ラグビー
カテゴリ 指導
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新・スクラム 進化する「1cm」をめぐる攻防
松瀬 学
2015年のW杯にて日本中を勇気づけたラグビー日本代表。ラグビーに関する著書が多数ある松瀬氏はその原動力を「スクラム」に見た。フォワードの8人が組んで押し合うスクラムは重量とパワーのある海外勢が有利に感じる。それに技術で対抗する、といっても1mm単位での攻防だから驚きだ。スクラムの1mmはバックスの1m、1cmなら10mに相当するという。日本代表のスクラムコーチを務めたダルマゾ氏のインタビュー、2015年のW杯各戦と2011年W杯、以降のエディー・ジャパンの試合のスクラム解析。そして日本ラグビーのスクラムの進化に取り組んできた長谷川慎FWコーチのインタビューからなる。真摯に取り組み続ければ、いつの日か成果は出るのだとさらに勇気づけられる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東邦出版
(掲載日:2017-02-10)
タグ:スクラム ラグビー
カテゴリ スポーツライティング
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ONE TEAMのスクラム
松瀬 学
私自身ラグビーのプレー経験といえば高校生のころ体育の授業でかじった程度で、ラグビーが体格・体力に恵まれた力と力のスポーツという印象を植え付けられた程度で、それ以上興味がわかなかったというのが正直なところです。ところが2019年のワールドカップで日本代表が活躍し、改めて興味を持ったにわかファンになってしまったようです。
私がラグビーに対し新たな認識を持ったのは単なる力と力のぶつかり合いで日本代表が活躍したのではなく、力プラス頭脳で勝ち進んだことで、今までラグビーに対して持っていたイメージが一新されたからにほかなりません。
「ONE TEAM」というワードが単なる精神論ではなく、戦術・戦略も含む一体感のあるチームという具体的な機能面まで含んだものだったことに興味を持ちました。
本書は「ONE TEAM」が具体的にスクラムにどう機能したかに焦点を当てた内容です。ただ技術論だけではなく選手個々の解釈やイメージまで掘り下げられていますので、そのときのチームの様子がリアルにイメージできました。選手やコーチのそれぞれの捉え方が集結して実際のプレーに結びつく展開はチームの一員になったかのような感覚に陥りました。
まったくのラグビーのド素人がなんとなくわかったような顔をして頷ける戦い方の解説は必読。実は何一つわかっていないのでしょうけど、読み終えた満足感や興奮は「あのとき」を思い出させます。
私のように読了して満足を得る人もいるでしょうが、「ONE TEAM」の発想・着眼をそれぞれのフィールドに持ち込んで展開するつわものもいるかもしれません。読み手の考え一つで「ONE TEAM」を構築できるかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:光文社
(掲載日:2022-08-25)
タグ:ラグビー チームビルディング
カテゴリ スポーツライティング
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