感じる力でからだが変わる 新しい姿勢のルール
メアリー・ボンド 椎名 亜希子
機械と違って人の身体は融通が利きます。配線一本、部品一つの故障や欠落でも動かなくなることもある機械に対し、人の身体はそれなりに動いてくれます。それだけ一つの動きに対しても様々な部位や組織が働くことにより、多重にサポートすることが多々あります。
逆に身体をうまく機能させることができなくてもそこそこ動いてくれるので、問題意識がないまま何年も何十年も好ましくない動きや姿勢を続けてしまうことにより、関節や組織に負担をかけ疼痛を伴う機能障害を起こすことが少なくありません。
「正しい身体の使い方」とか急に言われてもたいていの方は戸惑われることでしょう。人は目的の動きは意識できても、個々の身体の使い方なんて意識したことがありませんので、何が正しくて何が間違っているかを知らなくて自分の身体を使っているのです。
本書は自分で気づかなかった自分の身体を知るための問題提起をしてくれます。人の身体について、解剖生理学では便宜上個々のパーツを学びますが、それぞれの組織のつながりを解き明かすことで身体の機能的な使い方を示しています。
著者の意図するところは、ご自身の知識をそのまま読者に与えるのではなく、様々なエクササイズを通じて読者が自分自身でそれを感じることを促します。なぜならば知識として知っているだけでは意味がなく、あくまでも体験することで実際に正しい身体の使い方に近づくことができるからです。
ここで紹介されるエクササイズは決して目新しいものではありません。ヨガやピラティスなどで行われるものが多くあります。筆者自身もヨガやピラティスを勧めています。
ただ何も考えることなくそういったエクササイズを行うのではなく、そういったものにどういう意味や目的があることを示している点が本書のもっとも優れたところだと思います。何も考えることなく言われた動きをしているだけでは身体を感じるという一番重要なポイントが抜けるからです。意識を身体の内側に向けて普段何気なく動かしている身体がどう動いているかを意識する習慣づけこそが、将来襲ってくるかもしれない身体の機能障害を未然に防ぐ近道だと思うからです。
ヨガなどをなさっている方は大勢いらっしゃるでしょうが、動きの意味や目的まで考えている方はそんなには多くないでしょう。
『感じる力でからだが変わる』というタイトルは、エクササイズをしたから変わるのではなく、「感じる力」を身につけた人こそ身体を変えることができるという筆者のメッセージそのものなんだと確信しました。
今まで感じたことのなかった身体のつながりを体感できたことは、私にとって大きな収穫でした。
(辻田 浩志)
出版元:春秋社
(掲載日:2017-04-22)
タグ:ロルフィング
カテゴリ 身体
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これがボディワークだ 進化するロルフィング
小川 隆之 斎藤 瑞穂
アイダ・ロルフはロックフェラー研究所で生化学者として働いていたひとだ。ヨガ、カイロプラクティック、オステオパシー、アレクサンダーテクニーク、ホメオパシーなどを学び実践しながら、一時はカークスヴィルにあるオステオパシーの学校で講師も務めた。
当初ロルフィングは治療手技として始まったが、この本を読むかぎり、だんだんボディワークとしての色が強まってきているよう。ロルフィングを身体教育(ソマティックエデュケーション)とみた場合、同時に治療モデルは成り立たない。クライアントは受け身ではなく、主体的にセッションに取り組むことを求められる。ロルファーはクライアントの身体感覚の拡張、深化をあくまで補助する、という立場らしい。
ロルフィングという言葉をはじめて知ったのはトーマス・W・マイヤースのアナトミートレインだった。そのときバックミンスターフラーのテンセグリティという概念にもはじめて触れた。その後しばらくしてクリニックの勉強会でArchitecture of Human Living Fasciaをやったときに、映像をみながらファシアやテンセグリティというものがおぼろげながらイメージできた。
アイダ・ロルフは、ずいぶん前からファシアに言及している、先見の明のあるひとのよう。個人的な感想として、ボディワークと呼ばれるものは、書籍を読んだだけでは、よくわからない。そのわからなさについて、本書で書かれていることは、だいたい以下のようなもの。
感覚には上位のものと、下位のものがある。視聴覚は上位で、触味嗅覚は下位。その理由は、対象との距離だという。つまり、より客観化できる感覚が上等だとされてきた。ベースにはプラトン・デカルト以降の心身二元論がある。アリストテレスによれば、より対象の差別性を認識できる優れた感覚は視覚だという。言うまでもなく、ひとの感覚情報の認識は、多くを視覚に頼っている。
しかし、ボディワークというのは身体感覚の探求で、身体図式の再構成を行うもの。視覚も当然含まれるが、おもに内的な運動感覚を養うものが多い。
自転車に乗れるようになったときに、乗れなかったときの感覚には戻れないような変化は、多くのひとが味わっているはずであるし、なんらかのスポーツに取り組んでいたひとならなおさら、技能習熟の過程で身体感覚的なブレークスルーを確かなものとして経験してきたと思う。
けれど、やってみたひとにしかわからない、わかったひともそれを説明するのが難しい。可視化できない感覚的な確実さは、なかなかひとには伝わらない。そのあたりが、ボディワークのわかりにくさの理由かと思われる。
長らくロルフの著作は翻訳許可がおりなかったらしく、あまり日本語ではお目にかかれないので、ちょっとずつ原書ものぞいてみたい。
(塩﨑 由規)
出版元:日本評論社
(掲載日:2022-07-11)
タグ:ロルフィング
カテゴリ ボディワーク
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