決断力
羽生 善治
将棋界にも情報化の波が押し寄せたことで棋譜や戦術の研究が進み、情報力で差をつけることは困難になった現代は、数ある情報の中から最適な情報を取捨選択し、何が必要かを決断する力が求められる時代である。本書では棋士・羽生善治氏が将棋で培った「決断力」について語っている。
中でもどのように深い集中に達するのか、その比喩が非常に興味深かった。著者は集中する過程を潜水にたとえ、水圧に徐々に身体を慣らすように、少しずつ深い集中へと自らを導いていくのだという。あまりに深く潜り過ぎると元に戻れないような恐怖感に襲われ、潜ることを焦ってしまうと集中の浅瀬でジタバタしてしまうのだそうだ。
本書では幼少期から名人戦に至るまでの試行錯誤も語られているが、将棋への尽きない愛が著者を盤面に向かわせ、根拠を重ね続けたことが直感的な決断を支えたのだろう。天才棋士は将棋への愛に満ちた探求者であった。
(酒井 崇宏)
出版元:角川書店
(掲載日:2012-10-09)
タグ:将棋 決断
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:決断力
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
決断力
e-hon
集中力
谷川 浩司
日本人は「考える力」がないと言ったのはサッカー前日本代表監督のオシムである。確かに、大学生にトレーニングを指導していても、言われたことはできるが、それ以上やる選手は少ない。ではその「考える力」を植えつけるにはどうしたらよいのだろうか?
トップ棋士である著者の谷川さんはこう語る。
「物事を推し進めていくうえで、その土台となるのは創造力でも企画力でもない。いくら創造力や企画力を働かせようとしても、道具となる知識や材料となる情報がなければ何も始まらないのだ。知識は、頭の中に貯えられた記憶の体験が土台になるのだ。つまり、創造力やアイデアの源は、頭の中の記憶の組み合わせから生まれるもので、その土台がしっかりしていなければ、良いアイデアが閃めくわけがないのだ」。
つまり、天才と呼ばれる閃きの一手は、それまでの努力や経験があるから生まれるのであって、それはゼロから生まれるものでは決してないと。谷川さんは5歳で将棋を始めて中学2年でプロになるまでに、一万時間は将棋の勉強に費やしたそうである。毎日必ず3時間、それを10年間も続けたのである。
そう言えば、オシムさんも暇さえあったらサッカーの試合を部屋で見て勉強していると聞く。どうやら「考える力」をつける特効薬などない、あるとしたら「継続すること」かもしれない。
(森下 茂)
出版元:角川書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:将棋
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:集中力
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
集中力
e-hon
先を読む頭脳
羽生 善治 松原 仁 伊藤 毅志
天才棋士羽生善治氏をモデルにして氏の将棋における思考を解き明かした内容。羽生氏本人の解説と伊藤毅志氏・松原仁氏による専門的な分析が並行して1つのテーマについてそれぞれの立場からの見方を示しています。なんとなく「Q&A方式」のような印象があり、まるで羽生氏の頭脳の秘密に対する謎解きというスタイルに引き込まれました。
まず羽生氏の印象は悟りを開いた高僧のように実に穏やかに淡々とご自身の将棋観を解説なさいます。泰然自若というか自然体というか、勝負師というようなギラギラした情熱というものも感じず、極めて冷静な自己分析を披露されます。そこには伝説の棋士坂田三吉のようなドラマ性はまったくありません。逆に人間羽生善治の「静なる凄み」さえ感じてしまうのです。
ここで述べられた羽生氏の解説をさらに専門的な知識をもとに分析し羽生氏の思考のエッセンスを見出します。羽生氏の真似はできないまでも我々にも参考になるような情報がいくつか提供されます。
これら異質な切り口から見た「将棋の思考」がパラレルワールドのように最後まで続くのですから読んでいても息が抜けません。なぜならば羽生氏の思考のなぞ解きを早く見たいからです。
「頭のいい人になりたい」子どもの頃からそんな願望は誰しもあると思います。「先を読む力」はまさにもっとも得たい能力の1つ。本書にはそのヒントや秘密がたくさん記されています。私に実行できるかどうかは別としても…。
(辻田 浩志)
出版元:新潮社
(掲載日:2013-03-13)
タグ:将棋
カテゴリ その他
CiNii Booksで検索:先を読む頭脳
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:
先を読む頭脳
e-hon