戦術眼
梨田 昌孝
私が以前トレーナーとして関わっていたチームが昨シーズン日本一に輝いた。登り詰める階段が目の前にあるのにそこに至る扉を蹴破れず、伸び悩む苦しみにあがいていたあの頃。今では中堅だった選手たちがベテランの域になり、若手だった選手たちが中核選手になっている。代表のチームリーダーともなっているある選手と会う機会があった。再会を喜んでくれた彼は、選手自ら考え、取り組み、覚悟を決めるということが紆余曲折を経てやっとできるようになったと話してくれた。スタッフによる環境づくりがなければできないことだし、数ある要因の1つだが、これが最も重要な部分であることに間違いないだろう。
さて、本書「戦術眼」の著書は言わずと知れた北海道日本ハムファイターズの梨田昌孝監督である。そこにも「究極の育成法は、自分の努力で自身を成長させることなのだ」とある。そして「選手たちに自己成長の大切さを伝え、自ら伸びていこうとする選手にきっかけを与え、成長過程でのサポートをしてやること」が指導者の役割だと明言している。そして同時に選手にも求めている。たとえうまくいっているときでも、「試行錯誤と変化を恐れず」自分を進化させていくことが一流への道であり、それを目指せと。
言葉にすると当たり前のことで、強いチームはこのあたりがよくできている。冒頭にあげたチームもそうだろう。内容では負けていても、勝利をもぎ取るような展開を見せた試合などは、その強みの面目躍如といったところだった。しかし、これを現場で実現させることは生やさしいことではない。本書でも、そのためには指導者と選手との間で「普段からさまざまな方法のコミュニケーションをとり、組織が目指す方向性を理解できる感性が必要」だと述べている。
コミュニケーション。これはただよく話をするということだけがその方法ではない。さまざまなツールを利用し、ありとあらゆる方法を用いて行うべきものである。
シーズン開始時にこのような本が出ることはどういう意図があるのだろう。チームを2年連続リーグ優勝、そして日本一にも導き勇退したトレイ・ヒルマン監督の後を受け、著者はチームをさらに進化させることを約束している。
俺は近鉄バッファローズという他チームで選手として、監督として成長してきたが、このように野球を愛し、取り組み、考え抜いてきた。そして覚悟を決めて北海道にやってきた。さあ一緒に戦おう、とファイターズの選手やスタッフ、ファンに向けたコミュニケーションツールの1つとして、本書は強烈な存在意義を持つように感じる。
(山根 太治)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2008-07-10)
タグ:野球 戦術
カテゴリ 指導
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レアルマドリード モウリーニョの戦術分析 ディフェンス編
アタナシアス テルジス 小澤 一郎
ジョゼ・モウリーニョはサッカーの指導者という枠を越え「哲学者」として注目されることが多い。注目されるがゆえにさまざまな問題を引き起こすこともあるが、彼の人間としての魅力が人々を惹きつけている。
本書はレアル・マドリード時代のジョゼ・モウリーニョの戦術を紐解いた解説書である。筆者のアタナシアス・テルジス自身がサッカーの指導者であることもあり、モウリーニョ率いるレアル・マドリードのスカウティングレポート的な内容となっている。サッカーの4つの局面、すなわちディフェンスの局面、オフェンスからディフェンスへのトランジションの局面、オフェンスの局面、ディフェンスからオフェンスのトランジションの局面のうち、ディフェンスに関わる局面の中でさらに細かく分類したケースについて各選手がどのようなプレイをしているかについて細かく解説されている。
モウリーニョの戦術の土台となる哲学には触れられていないものの、純粋にどのようなプレイが「選択」されているのかを知ることができる。サッカーだけでなく他競技の指導者もスカウティングレポートを作成するためのチェック項目の抽出や、資料作成の際に参考となるだろう。
(打谷 昌紀)
出版元:スタジオタッククリエイティブ
(掲載日:2014-10-27)
タグ:サッカー 戦術 スカウティングレポート
カテゴリ 指導
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モウリーニョの戦術分析 オフェンス編
アタナシアス・テルジス 小澤 一郎
本書は、名門レアルマドリードの監督を2010〜2013年の3年間務めた、モウリーニョ氏の戦術を分析したものである。ヨーロッパのサッカークラブの監督は、成績不振だと頻繁に交代させられることが有名で、レアルマドリードの場合、1982年以降はほぼ毎年のように監督が変わっている。その中でもモウリーニョ氏は3年間も同チームの監督を務めており、いかに優れたサッカー指導者であったかを示している。
内容は数ページで選手の長所と短所を解説し、残りの9割以上のページを戦術の分析に使っている。紹介されている戦術の数は膨大な量で、偶然生じたであろう戦術をピックアップしているのではなく、少なくとも試合の中で10回以上確認できたものをピックアップしている。したがって、掲載されている戦術は全て意図されたものであり、日々の練習の中でトレーニングされたものであると考えられる。
読み終えた印象は、やはり意図をもって相手の体勢を崩して、ゴールを奪うための戦術であること。選手がボールを保持している、保持していないにかかわらず、複数のプランを打ち出すことができる攻撃態勢を崩さないように設計されている。具体的には、試合を観ていると、ある選手の運動量は多いが、ある選手はサボっていて運動量が多くないということがあるが、モウリーニョ氏の戦術では、サボれないように設計されているのである。
1つ1つ確認しながらトレーニングをしていった選手やスタッフの労力、モウリーニョ氏がいかにうまく選手対監督間のコミュニケーションをしていったのかという点がイメージとして浮かび上がる。
(平松 勇輝)
出版元:スタジオタッククリエイティブ
(掲載日:2014-12-01)
タグ:サッカー 戦術
カテゴリ 指導
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レアルマドリード モウリーニョの戦術分析
アタナシアス テルジス 小澤 一郎
グアルディオラ率いるFCバルセロナの戦術分析を行った前著に続く、トップチームの戦術の解剖本だ。オフェンス編とディフェンス編に分かれ、どちらも大ボリュームとなっている。
1シーズン分をビデオ分析することによって、実際に相手選手のいる状態で行ったプレーを、流れとして解説しているだけでも貴重なものだ。ビルドアップ、サイドチェンジ、トランジション、セットプレーと内容も多岐にわたる。
それを取り入れるにはどうすべきかを意識した視点で書かれているのが、指導者でもある著者ならではだろう。辞書的な活用ができそうだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:スタジオタッククリエイティブ
(掲載日:2013-12-10)
タグ:サッカー 戦術
カテゴリ 指導
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ボールマンがすべてではない バスケの複雑な戦術が明らかになる本
大野 篤史 小谷 究
戦術がわかりにくいスポーツ
「バスケットボールはほかのスポーツと比較して、戦術が見えにくく、わかりにくいといわれる」。本書の著者らはまず前書きでこう述べ、その理由を以下のように挙げている。得点が入ってもゲームが途切れず、次から次に攻防が展開されるため、直前に行われた攻防やその戦術を振り返っている時間がほとんどないこと。コート上の5人のプレーヤーがオフェンスにもディフェンスにも参加し、全員にシュート機会があるという役割分担の曖昧さ。そして何よりも、頭上にあるゴールにボールを入れることで得点を競うというルールが、戦術以前に高身長のプレーヤーが有利になるという特殊な状況を作り出していることである。
これだけ条件が揃えば、実際にプレーや指導をした経験でもない限り、あるいはよほどベテランの観戦者でもない限り、大型選手の豪快なダンクシュートや、ブザービーターのスリーポイントシュートのような派手なプレーにのみ目を奪われることになってしまうのは、仕方のないことではないだろうか。
評者自身のことを述べて恐縮だが、20年近くにわたってスポーツ情報分析ソフトウェアの販売に従事した。その経験の中で、国内外で数多くのすばらしいバスケットボール指導者に巡り合い、話をする機会を得たにもかかわらず、バスケットボールの戦術への理解はほぼ皆無であったことを告白しておく(以下の評は、その前提でお読みくださると幸いである)。
「得点を狙わない戦術」もある
本書はそうしたバスケットボールの戦術をわかりやすく紐解くために、プロバスケットボールチーム千葉ジェッツ(執筆当時。現・千葉ジェッツふなばし)のヘッドコーチと、バスケットボールの戦術研究を専門とする研究者の2人が筆を執ったものである。
著者らは本編に入る前に、プレーヤー個々の力が勝敗に及ぼす影響が大きいバスケットボールというスポーツにおいて、戦術がどういう意味を持つのかを定義している。それは、ひとたびゲームが始まると、コーチにとって戦術が最もコントロールしやすいものであり、勝利に近づくための方策として大きな影響を与えるものだということである。
さて、戦術を解説する本編の構成は「オフェンス」「ディフェンス」「ディフェンス戦術 vs オフェンス戦術」の順になっている。そこで意表を突かれた。オフェンス編で最初に紹介されているのは、「ファストブレイク」や「アーリーオフェンス」といったポピュラーな戦術ではなく、得点を試みないオフェンス戦術「ストーリング」なのである。これは積極的に得点しようとせずに時間の消費を図る戦術で、残り時間が少なく一定の点数をリードしている場面で有効となる。一見消極的に見えるが、対戦している両チームともに非常に細かい戦術的対応を要求されるシチュエーションである。
このストーリングをいの一番に取り上げるという構成に、読者にバスケットボールの戦術の多様さや深さを伝えたいという著者らの意欲を感じたというのは言い過ぎであろうか。
丁寧な解説とプロチームの実例
それぞれの戦術についてもわかりすく、丁寧に解説されている。たとえばオフェンスの戦術は、コート上の5人のプレーヤーの配置「アライメント」に始まり、「プレーの自由度」「強みを活かす」「スピード」「シチュエーション」などのテーマに分けてまとめられている。バスケットボールの未経験者にとっても、熟練のガイドに案内されながら山を一歩一歩登っていくかのように、迷子になることなく読み進められるだろう。
また本書における戦術解説が、読んでいて非常にイメージしやすい理由がもう一つある。それが、プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」が実際に採っている戦術、ポイントガードの富樫勇樹選手をはじめとする実際のプレーヤーの動きを、例として惜しみなく紹介していることである。競技スポーツにおいて、ヘッドコーチ自身が自分のチームの戦術をこうして明るみに出すこと、しかも出版という形で残すことはある意味、諸刃の剣とも言えよう。しかしそれは同時に、千葉ジェッツの戦術が、その年その年で常に進化を目指していることの裏返しなのではないだろうか。バスケットボールの日本一を決める全日本総合選手権大会を本書出版の年(2017年)から3連覇しているという結果を見ても、千葉ジェッツの戦術はその後もっとブラッシュアップされ、進化しているに違いない。
戦術理解がゲームの魅力を高める
現在、日本のバスケットボール界が活気に満ちていることは間違いない。日本代表チームは男女揃って来年の東京オリンピックへの出場が決定し、4シーズン目を迎えるBリーグも毎年観客動員数を増やしている。渡邊雄太選手や八村塁選手のNBAでの活躍も楽しみである。
本書は、そうした中でバスケットボールに興味を持った人にとっても、著者らが述べているように「戦術に気づき、理解することでゲームは飛躍的に面白くなる」一助となるであろう。コーチやプレーヤーのための実践指導書としてだけでなく、幅広い人にお勧めしたい書である。
(橘 肇)
出版元:東邦出版
(掲載日:2019-09-04)
タグ:バスケットボール 戦術
カテゴリ 指導
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スポーツ技術・戦術史
新井 博 小谷 究 鵤木 千加子 榎本 雅之 後藤 光将 谷釜 尋徳 福井 元 山脇 あゆみ 秋元 忍 田村 大
スポーツの技術についてまとめられた日本で最初の研究書は、1972年刊「スポーツの技術史」だという。その後2000年頃までスポーツ技術史研究はあまり進まなかったとのことだが、現在はさまざまな種目で取り組まれており、専門家たちが執筆を担当している。本書ではサッカー、水泳、スキー、テニス、バスケットボール、バドミントン、ホッケー、野球を取り上げる。
技術は用具の進化やルール変更、科学的なトレーニング、戦術のトレンド、さらには社会におけるスポーツの在り方によって変わっていく。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:流通経済大学出版会
(掲載日:2021-06-10)
タグ:技術史 戦術史
カテゴリ その他
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