1人前100円 なんで美味いの?
魚柄 仁之助
スポーツ栄養学の本ではない。よく知られた魚柄氏の本の文庫化されたもので、「安い、うまい、簡単(手抜き)」メニューがイラストと独特の文章で紹介されている。
どれも、「うまそう~」と思うし、「今度やってみよう」と思う。もちろん、栄養も考えている。おまけにだいたい1人前100円だから、散財には至らない。著者は農学部中退で、栄養学も自分で勉強した。実家は日本料理屋。古道具屋さんで、元自転車屋さんで、元経営コンサルタントで、剣道や居合をやり、ギターを弾き、手旗信号の名人でマラソンと駅伝と落語が好きで、酒飲みなどなど。いろいろなことができる人である。
この人の古道具屋にいろいろな人が訪れ、その人に食べるものをつくってやる。そういうストーリーが多い。
例えば、カルシウムが足りない女性にこういうものをつくる。
「タダ同然の大根葉を小さなみじん切りにしておいて中華鍋に入れるですよ、その上にザク切りキャベツをバサッ。お玉1杯の水か酒かワインをかけ回し、ふたをして中火にかける。5分そこそこでふたをとり、フライ返しでかき混ぜる。さて、そこで決め手のコウナゴやちりめんじゃこ、こいつをドバッと入れる。小さな桜エビや姫エビなんぞもカルシウムがぎょうさん入っとりますけん、あったら入れちゃり。あとは強火でひたすらかき混ぜ、水気が抜けてきたら塩コショウやしょうゆ、ソース等でお好きな味に仕上げてくださいまし。仕上げにゴマ油をちょっこと入れたり、すりゴマを振りかけるとますますうもうなりますわい。アツアツのヒジキ飯とこのカルシウム妙めをバホバホ食べとりゃ元気にもなりますわい」(「ダイエット失敗女」より)
これなら誰でもできる。もっと豪華なメニューもある。自分で材料を買ってきて、目分でつくれば安くてうまい。ちょっと皮肉にも各メニューには料理店で食べたらいくらという価格もついている。からだに気をつけるのがスポーツ選手なら、自分が食べるものくらい自分でつくってもよいだろう。全部、レシピはイラストにもなっている。これを読むと、多分、少し人生が変わる(かも)。
魚柄仁之助著 文庫判 270頁 2001年5月15日刊 514円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:徳間書店
(掲載日:2001-11-29)
タグ:料理 栄養学
カテゴリ 食
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うおつか流 台所リハビリ術
魚柄 仁之助
うおつかファンのひとりである。『台所リストラ術』から、今度は『台所リハビリ術』である。副題は「脳をみるみる活性化させる生活改善講座」。ふと、これは言いすぎかと思うが、改めて考えるとこれでよいことがわかる。
この本にも書かれているが、まだ何とか自分で食べることができる人にチューブをつけると、とたんに目から生気が失われるとか。自分で食べる、はたまた自分が食べるものは自分でつくることの大切さを忘れていることが多いのではないか。いつも誰かがつくってくれるものを食べるのは「恵まれている」ことかもしれないが、生きるという意味でははなはだ頼りない。
魚柄さんは、料理をつくっている人、たとえば飲み屋のおやじさんやおかみさんは、歳をとっても元気なことを発見し、料理がリハビリになることに思い至る。軽い筋力トレーニングでもあるし、ストレッチでもあるし、何より段取りが料理のできを決めるので、頭(脳)を働かせることになる。
魚柄さんは『ひと月9000円の快適食生活』という本で有名になったが、今は7000円でできるそうだ。でもカツオ節はちゃんと自分で削って使う。新しくて、うまくて、安くて、からだにもよい。そういう料理である。また、包丁を自分で研ぐことも挙げ「こういった手の感触や勘ってボケないためのリハビリなんスね」と言う。健康も長生きもみんな基本はここにあるだろう。
2005年5月9日
(清家 輝文)
出版元:飛鳥新社
(掲載日:2012-10-09)
タグ:リハビリテーション 食 料理
カテゴリ 食
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うおつか流 台所リハビリ術
魚柄 仁之助
毎日の台所仕事を脳の活性化および老化予防という視点から改めて見直し、長い人生を無理なくボケずに楽しみながら食生活習慣の知恵を、笑いという味付けとともに紹介したのが、この“うおつか流台所リハビリ術”。
料理をする上で必要とされる能力は脳を活性化させる。台所リハビリ術で紹介するその能力とは、思い出し力、想像力、準備力、段取り力、決断力、調理力、もてなし力。日常ごく当たり前にする炊事は、お年寄りが今の機能を失わないようにしながら、この先何があってもひとりでまかなえる力をつける。私たちにとってもメンタルトレーニングとして、料理は手軽な手段だと思った。
これらの力の中で、私が魅力に感じたのが「もてなし力」。人に見られる仕事、人をもてなす仕事をしている人は、心に張りがある。その張りがその人を前向きにさせる。そして、人をもてなすことで自分も癒されると作者は考える。そう思うと、料理は本当に幸せなリハビリだ。 リハビリというと、病院でセラピストやトレーナーの下、目的とする機能回復のために機器を使い、個別で特別なプログラムを行うことと、多くの人は認識しているだろう。落語調で軽く書かれたこの本を読むと、そんなに難しいものではないなと再認できた。病気で倒れてからリハビリではなく、倒れる前の日常でリハビリすることで倒れずに済む。この本で提案されている台所リハビリは、まさにそれである。
(服部 紗都子)
出版元:飛鳥新社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:リハビリテーション 料理
カテゴリ 食
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おいしいもののまわり
土井 善晴
土井善晴といえば料理番組をはじめ、TVでも人気の料理研究家だ。その土井先生、本もたくさん出しておられる。日常的な料理のレシピ本もさることながら、こうした料理にまつわるエッセイも多い。その数あるエッセイの中から『おいしいもののまわり』を紹介したい。
私は食い意地が張っているのでおいしいものを食べたい、と常々思っている。美食家ではないが、ご飯は必須だ。楽しみでもある。その食事に関して「食べるのがめんどくさい」「噛むのがだるい」という人に遭遇したときは衝撃だった。お腹が空く、ご飯を食べる、というのは私にとって当たり前過ぎて「面倒」とか「だるい」とかいう概念の付け入る隙が全くない完全にナチュラルな流れだ。それを面倒とは! だるいとは!
話が逸れた。本書ではおひつや布巾、玉じゃくしといった調理器具のことや大根、海苔、胡麻といった食材、混ぜ合わせる、ということや火加減についてなど、文字通り「おいしいもの」の周辺にあるものについて取り上げているのだが、序文にのっけから「『おいしいものが食べたい』と食べる人は求める。」とある。私のことか、と読み始める。すると「世の中はオイシイッブームである」ときて、「いつの間にか家庭では食べる人が主役になってきた。」と続く。どういうことか。「食べる人というのは自分勝手で感情的なものなのだ。」と言われるに至ってはぐぬぬ、となってしまう。そして待てよ、この話、何かに似ていないか、と頭の中で何かが点滅し始める。
それが「ああ、これか」と思ったのは「計量とレシピと感性」だ。最初は食材や調味料を「正確に計る」ということがいかに大切かということが具体的に語られる。同じ道具を使い、同じ測り方をする。わずかな誤差も重なれば大きな差となる。きっちり計ってこそ、味の再現性が出る。ああ、音楽を練習するときの姿勢、方法に似ているなと思った。難しい曲はとくにカチカチとメトロノームをかけ、楽譜にある音価を正確に再現する。これはトレーニングにも言えるのではないだろうか。どのような姿勢でどの方向に力をかけ、何度やるか。「正確」であることは大切で、同じスクワット10回でも正確にやるのとそうでないのとでは、成果も違ってくることだろう。
しかし、これには続きがある。「正確に計量すれば100点満点のおいしい料理が作れるかといえば、そうではない。」のだ。それはそうだ。どんなに正確に指が動いても、ただ音を羅列しているだけでは音楽ではない。スクワットやプッシュアップがどんなに正確にできても、それ自体が競技ではないのと同じではないだろうか。ただレシピ通り流れ作業でやっつけるのではなく、鍋の火加減はどうか、野菜の煮え具合はどうか、そうした絶えず変化していく状況について、「感性」を働かせることの大切さ。この練習を何のためにしているのか、目指す完成像はどこにあるのか。そうしたことに心を配ることに似ている。トレーニングなら今日の体調はどうか、負荷に対する感じ方、天気やスケジュール、そうしたものを鑑みながら自分のコンディションと対話することに似ているのかもしれない。
こんなふうにしてひとつひとつの文章は料理に関すること、料理にまつわること、調理器具や調理方法などのことで、それだけでも食いしん坊の私は読んで面白いのだが、それ以上に根底に流れる土井先生の料理へ向かう姿、向き合い方、姿勢というものが我が事に置き換えられ、普遍の精神を感じるのだ。ああ、そうですよね、土井先生! と思う。
さて序文である。「おいしいものが食べたい」を「上手くなりたい」「人に勝ちたい」に置き換えるとどうか。それは確かに感情的で身勝手だ。欲と言ってもいい。だが食事を作る側として季節や食材、道具などを通して料理と真摯に向き合うということは、「おれスゲー!」ではなく、丁寧に譜を読み、自分の技術をしっかり磨いてその曲を最大限に表現しようとすることに似ている。それはもしかしたら真摯に競技に向かう姿にも通づるものがあるのかもしれない。こうした「置き換え読み」もまた楽しい一冊である。ぜひ手に取ってみていただきたい。
(柴原 容)
出版元:グラフィック社
(掲載日:2024-02-24)
タグ:料理
カテゴリ 食
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おいしいもののまわり
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