骨格筋と運動
跡見 順子 大野 秀樹 伏木 亨
これも本誌連載中の一人、跡見氏が編者に加わっている「身体運動・栄養・健康の生命科学Q&A」シリーズの最新刊。既刊では『活性酸素と運動』『栄養と運動』がある。
さて、本書。月刊スポーツメディスンの連載を愛読されている人なら、『骨格筋と運動』がこれまでの力の発揮という視点で書かれてはないことは容易に理解されであろう。
跡見氏は、「骨格筋が発揮する大きな力の向上に目を向けるよりも、動物の本質を発現する意味での運動と骨格筋に、そしてその大きな適応能力の機構に目をむけようではないか」(P.8)と記しているが、「パフォーマンスの向上」を第一とする競技スポーツの世界では、この声はなかなか届きにくい。
だが、身体運動、身体活動について、「世界記録」という高みにではなく、細胞レベルでの生命の営みそのもの、またそれが意味する「生きていること」、ひいては「動いているから生きている私」というほっとするような核心、誰もが必ず持つ「身体」という広がりへの関心のほうが高まってきた。
両者は喧嘩し合うものではないが、とっつきにくい「生命科学」も「生命」を扱っているのであるから、生きとし生きるものすべてに関係することなのだと思えば、親近感がわいてくるのではないか。
跡見氏の連載の「副読本」にもなる1冊。ただし、やや専門的。それゆえか、価格もちょっと高いかも。
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:杏林書院
(掲載日:2001-11-25)
タグ:筋 運動 生命科学
カテゴリ 生命科学
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生命の文法
中村 桂子 養老 孟司
叢書「生命の哲学」の1巻。
『ゲノムを読む』などの著書で知られる中村氏と解剖学者であり、『唯脳論』で知られ多方面で発言している養老氏の対談をまとめたもの。
DNAの二重らせんを発見したワトソンが、「あなたの生涯で最大の業績はなんですか」と聞かれて、『二重らせん』という本を書いたことだと言ったとか(中村)、「私は、生物物理学というのはあったらおもしろいな、と思っているんです。
人間の身体を本当に古典力学的に調べようと思ったら、けっこうたいへんなんです。
関節にどれだけの力がかかっている、とか、あるいは筋肉が分子の関わり合いで発生した力学的力を、どういう形で最終的にマクロな運動までもっていくかとか、実は誰もまじめに調べていないんです」(養老)など、楽しく、重要な話が続く。
副題通り、生命と情報がメインテーマだが、読み進むうちにとんでもなく面白い時代になってきたとワクワクさせられる。
対談なので気軽に読め、編集部による注も随所にあり、2回の対談ではあるが中身は濃い。
中村桂子、養老孟司著 B6判 162 頁 2001年3月1日刊 1900円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:哲学書房
(掲載日:2001-11-25)
タグ:対談 生命科学
カテゴリ 生命科学
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愛づるの話。
中村 桂子
『季刊 生命誌』をカードとWebで発行し、最後にまとめる。これはその2冊目。編集の中村さんは、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館(10年前に創設)の館長である。東京大学理学部化学科の出身で、生命科学が専門だが、生き物の歴史とでもいうかBiohistory(生命誌)という概念を打ち出し、言論活動も盛んに行っておられる。
さて、この号のテーマは2つ。「愛づる」と「時」である。前者は中村さんとの対談が4つ。哲学者の今道友信氏との「讃美と涙が創造の源泉」、生物学者で前JT生命誌研究館館長の岡田節人氏との「生物学のロマンとこころ」、美学・美術史が専門で京都大学大学院教授、同大学附属図書館館長の佐々木丞平氏との「生を写す視点」、生命基礎論(複雑系)の金子邦彦氏との「生命──多様化するという普遍性」である。
「時」のほうは、「時を刻むバクテリア」(岩崎秀雄)を始め9つの論文で構成されている。最後にScientist Libraryというタイトルで、本庶佑氏ほか4人の科学者の生い立ちや研究内容が興味深く紹介されている。
柔らかい知性というべきか、「蟲愛づる姫君」から「愛づる」をキーワードに選んだ中村さんの感性に気分よくひたれる。いつまでも読んでいたくなる。
(清家 輝文)
出版元:JT生命誌研究館 新曜社
(掲載日:2004-07-15)
タグ:対談 生物学 生命 時間
カテゴリ 生命科学
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雌と雄のある世界
三井 恵津子
生物学の本である。著者は、お茶の水女子大理学部科学科から東京大学大学院生物化学専攻の理学博士。ドイツ、アメリカでの研究生活後、サイエンス系出版社で編集記者、編集長を務めた。現在はサイエンスライターである。
ご存じのように、生物学の世界は日進月歩。正確には、分子細胞生物学、分子遺伝学、発生生物学など、どんどん細かくなっていて、一般には新しい発見についていけそうにない。本書は、そういう世界でどこまで研究が進んでいるのか、何がわかってきたのかを、わかりやすく教えてくれる。iPS細胞やクローン技術などトピックも満載。
発展著しい分野だが、わかってくるほどわからないのが生物とのこと。わかっていないことのほうが多い。著者は、この本を書いたとたんに書き直さなければいけないのではないかと記しているが、それくらい新たな発見が続いている。
書名にある「雌と雄」の話も面白いが、こうした発見の概要を知るだけでも楽しい。しかし、つくづく思うのだが、細胞の話はなんと人間の社会全体にあてはまることが多いのか。細胞について考えると、自然と宇宙や命、つまり人生全体へ思いが及ぶ。
2008年10月22日
(清家 輝文)
出版元:集英社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:生物学 生命科学 細胞
カテゴリ 生命科学
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逆システム学 市場と生命のしくみを解き明かす
金子 勝 児玉 龍彦
“フィットネス”という概念が日本にも紹介されてずいぶん経つと思うのだが、その意味がしっかりと浸透していないなぁと思うことがある。フィットネスとは、何だかわからないけどおしゃれなトレーニングのことなのだろう、という程度にしかとらえられていないと感じるのだ。
僕の職場は公共の体育館である。“フィットネスルーム”もある。やれ空調がどうだとかBGMがどうだとか、色々な要望が寄せられる。どうやら、夏涼しく冬温かい快適な空間で体を動かしたいらしい。
エアロビクスのプロのインストラクターでさえ「暑いから空調をもっと強くしろ」と言ってくる始末である。それは“フィットネス”ではないだろうと個人的には思っている。
“フィットネス”とはすなわち環境に適応する力のことであり、トレーニングはそれを高めるために行うものなのだと思う。では、空調のきいた快適な空間でトレーニングすることが果たして“適応する力”を高めることになるのだろうか。 本書は生命科学や経済学の知識に乏しい僕にとってはかなり難しい本であり、正直、理解できない部分も多かった。だが、キーワードである「多重フィードバック」という考え方は大いに参考になると思った。適応するしくみを多様で複雑なものに進化させることで生存できる可能性を増すのだ。
あるコーチが言っていたトップアスリートの条件を思い出した。「なんでも食えて、いつでもどこでも寝られること」。これも「適応する力」ということなのだろうか。ちょっと違うかな?
(尾原 陽介)
出版元:岩波書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:経済 生命
カテゴリ 生命科学
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人体は進化を語る あなたのからだに刻まれた6億年の歴史
坂井 建雄
「自然に」という形容動詞は「ひとりでにそうなるさま」という意味もあり、「なんとなくそうなってしまった」というニュアンスを感じてしまいますが、本書を読んでいると「自然に」という言葉にまったく逆の印象が刻みこまれてしまいました。
自然に存在するものにはすべて何らかの必要性があり、そして地球上に生物が誕生して以来、常に目まぐるしい環境変化に対応すべく進化する、生物全体の生きようとする力を感じずにはいられません。だから「自然に」という言葉には「運命的に」という意味合いも含めるべきだと思ってしまうのです。
「胃は消化する器官ではなく食料を保存する器官」「頭蓋骨は元々鱗だった」とか、人類の進化のエピソードは下手なフィクションよりも面白く読めます。生物の進化というマクロ的観点からの切り口は、我々が知らなかった人の身体のプロフィールを紹介してくれます。
人体の不思議について書かれた本はたくさんあります。が、それらの多くは「今の人体」についての解説ですが、本書ではなぜそうなったのかという部分に重点が置かれているように感じました。いわば人の身体の歴史とでもいうべきものでもあり、その進化によりどういうメリットがあったのかについての解説には納得。なぜならばそれこそが人類が人類として生き残ってきた証なのですから…。
本書は単なる人間の進化を示したものではなく、哲学すら感じてしまうのです。
(辻田 浩志)
出版元:ニュートンプレス
(掲載日:2014-10-03)
タグ:進化 生命
カテゴリ 身体
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ザ・ミッション 戦場からの問い
山本 美香
生きることは、死ぬことのそばに
のっけから私事で恐縮だけれど、1年前のちょうど今ごろ“一命を取り留める”という経験をした。“左内腸骨動脈瘤破裂除去術”という、漢字練習帳だか早口言葉だかのような手術を緊急で受けることになったのだ。幸い、破裂の方向が隣の静脈だったので助かったが、腹腔内に出血していたら1~2分で意識は喪失し、そのまま(この世に)戻らなかっただろうと後で聞いて震え上がった。
その日は、左脚が倍ほどにも浮腫(むく)んでいて、胸は痞(つか)えるほどに脈打ち、呼吸もいちいち億劫なほどだった。苦しくて死んじゃいそうだなどと思いつつ、しかし授業では学生と一緒に飛び跳ねて騒いだりした。授業が終わって安静にしていても、やはり苦しいので病院に行った。“歩いて? 一人で? 来たんですか?”と診察途中から、妙に慌て顔になったドクターの押す車椅子に乗せられ精密検査をしたところ(すでに心不全をきたしており、身体を起こしているのが不思議なぐらいだったらしい。歩いて行くと言ったら強く制止された)、その日のうちに手術を受ける急展開となった次第。本当に死んじゃう寸前だった!
儚く不確かな中で、何を残せるか
この経験から学んだことは、“生”とは、“死”とすれすれのところにあるものだったということだ。“生きている”と疑問もなく思っていたこの状態は、実は一瞬一瞬の奇蹟が連なった、とても儚く不確かなものだったのだ。
もし死んでいたら……“俺はいったい何を残したのだろう?”“俺はいったい何が残せたのだろう?”。
さて今回は、「山本美香最終講義 ザ・ミッション 戦場からの問い」。ジャーナリストの山本美香が、2012年の春に担当した、早稲田大学での講義を採録したものだ。気合いは入っているが、肩ひじは張っていない。後進への真摯な思いが込められた、丁寧に準備された講義であることが紙面からよく伝わってくる。
山本は、ある報道社に入社して1年目(1991年)に命ぜられた「長崎の雲仙普賢岳の災害報道」が「一つの原点のようなものに」なって、「災害報道」や「戦争報道」を主な仕事としたジャーナリストである。
いかに戦地が危険であろうと、現場での取材を大切にしていた。たとえば、さまざまなジャーナリストからの報道をもとに「外堀を固めていって全体像を分析するという方法もある」が、あえて足を運び、あえて居残って取材を続けるのには「そこ=現場にいれば、耳にも聞こえるし肌でも感じるし、必ず見えてくる」ことがあるからだ。
そこに行かなければわからない“事実の核”となるものがあり、「こぼれ落ちてしまうところ、誰の手もとどかず、誰の目も入らない部分」に「置き去りにされた人がいないかを探していくのもジャーナリストの仕事の一つ」だと思っているからだ。
命は絶たれ、使命は語り継がれた
でもなぜ、そうまでして危険な場所からの取材を続けるのか。学生からの質問、「報道で戦争は止められるのか?」に対する答えが興味深い。「そういう願いがあるからこそ続けられる」というのだ。
戦争を取材するうえで山本が自らに課したこのミッション(使命)は、ことさらに語られることはないが、学生たちへのメッセージとして、また、自身の想いを確認するように、幾度となく講義の中で繰り返される。しかしながら、この年8月、内戦が続く中東シリア北部の街アレッポでの撮影取材中に、政府軍からの凶弾で斃(たお)れた。志半ばで夢絶たれた無念を察するに余りある。
この講義は、ジャーナリストコースを対象に行われたものではあるが、それに限らず生身の学生を相手にする我々にとって非常に示唆に富んだ必読の書ともいえると思う。“俺はいったい何を残すのか?”、“俺はいったい何が残せるの?”、自問する日々は続く。
(板井 美浩)
出版元:早稲田大学出版部
(掲載日:2013-06-10)
タグ:ジャーナリズム 生命
カテゴリ 人生
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操作・再生される人体!
生命倫理の論議が科学の発展に追いついていけない状況にある現在、我々はクローン技術などの生命工学とどのように接していくべきなのだろうか。この本では、生命工学を、人工臓器、死体ビジネスといったおどろおどろしいものとして描き出すことで、「神の領域」に入ろうとする時代に警鐘を鳴らしている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:宝島社
(掲載日:2001-12-10)
タグ:生命工学
カテゴリ 身体
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生き物の死にざま
稲垣 栄洋
すべての人にドラマがあります。同じようにすべての生き物にも等しくドラマがあります。ドラマの見どころといえばやはりクライマックスシーン。本書は様々な生き物のクライマックス、つまりは「死」に焦点を絞り、知られざる生き物の死から彼らの生きざまを描いた作品です。
様々な種類の動物を見ることができる動物園の動物たちにはなんとなく生活感というか営みみたいなものを感じないのは、彼らの生活のごく限られた部分しか見ることができないからでしょうか。本書を読んで初めて知る、壮絶で生々しい死にざまは私たちの安っぽい感動さえも許されないような過酷でもあり神聖ともいえる領域なのかもしれません。
死にゆく生き物たちが守ろうとするのは彼らの遺伝子。つまり子孫を残すために命を差し出す潔さを感じるのですが、そういったものを「愛」と呼ぶのは人間だけで、すべての生命体は遺伝子に組み込まれたシステムの中での行動と言ってしまえば味気なく感じてしまいます。
生物の死には自然の法則に縛られるものもあれば、人という存在が関わることで死を前提として育てられる生き物もいます。食肉のみならず穀物や野菜も人に食べられる目的で誕生するわけではないのですが、私たちの胃袋に入ることが運命とされた生き物の存在は忘れてはいけません。我々人類も食物連鎖の中に組み込まれた存在ではありますが、それを経済活動としてほかの動物とは異なる営みをすることに消化しきれないモヤモヤ感が残りました。これも人間が持つ業の一つなのかもしれません。
「個」として生き延びる難しさ、「種」として命をつなげる難しさ、そして人間の関わり合い。多くの疑問点を心の中に残しつつ、読み終えました。
(辻田 浩志)
出版元:草思社
(掲載日:2022-08-08)
タグ:生命
カテゴリ 人生
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