運動分子生物学
大日方 昴 山田 茂 後藤 勝正
細胞膜やミトコンドリアの外膜を物質はどのように通過しているのか。そこに仕組みは必ずあるはずであるが、一般の生化学や生理学の書籍ではなかなかそこまで記載していない。その疑問を解決する一つの手段になりうる書籍である。遺伝子をはじめ筋細胞内外の構造変化やエネルギー代謝、シグナル伝達機構などを筋の構造や機能を細胞単位ではなく、さらに細かい分子単位を基準として記載されている。
とくに一般の生化学や生理学の書籍と異なる点は、運動前後でそれらがどのように変化しているのかが記載されており、トレーニング原理を考えるうえでは非常に役に立つ。
しかしこれらを理解するためには、まずは生化学や生理学の基本的な流れを理解していることが前提となる。
細胞を分子レベルで考えるとどうしても単一の細胞に目が向きがちになるが、筋細胞1つでは何もできない。筋細胞だけではなく、その周りの構造も筋収縮を行うためには必要なものである。
トレーニングもそうだが、全体像を意識して詳細を考えてゆかなければ、方向性を見失ってしまう。
(澤野 博)
出版元:ナップ
(掲載日:2012-02-07)
タグ:分子生物学 生化学
カテゴリ 生命科学
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運動分子生物学
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ろくろ首の首はなぜのびるのか
武村 政春
でたらめも真顔で力説すれば真実に聞こえる──世の中にはそういったことがいくらでもあります。そういった嘘に騙されないために勉強し、正しい情報や知識を得ながら、人は大人になっていきます。真偽の見極めができる大人が、真実ではないということを承知の上で嘘を楽しむことができれば、これは1つの遊びになります。現実的にはありえないことを筋道立てて展開することにより成立する文化は、いくつも存在します。小説もしばしばそういった手法をとりますし、架空の話に笑いという要素を含めると落語にもなります。言語ではなくものを使って虚偽を表現する手品も同じだと思います。真実は大切ですが、「真実ではないこと」のすべてが悪いということではありません。そこに遊び心があれば人々の心の潤滑油になることは皆さんご承知でしょう。
前置きが長くなりましたが『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか』というタイトルは多くの人の興味を引くでしょう。ろくろ首は妖怪という架空の生き物(死んでいるかもしれません)であり、夜中に首が伸びて行灯の油を舐めるというストーリーは有名です。首が伸びるという摩訶不思議な現象について具体的な解説があるのならば一度は聞いておきたいと思うのは自然なこと。もともといるはずのない生物の実体を解明するという矛盾を容認する遊び心があれば、荒唐無稽な論理も楽しめるというのが本書の魅力だと思います。
大人を騙そうというのですから、子どもだましではいけません。きちんとしたデータに裏づけされた整合性のある論理でないと読むに値しません。しかしご安心ください。各項目において生物のデータ、きちんとした科学的事実などを提示したうえで筆者による考察が展開されていきます。ここまで堂々と現実世界にないことを推論されると「なるほど」と相づちを打たざるを得ません。子どもの頃、疑問に思っていたことも謎解きされて、数十年たった今、胸のつかえが取れました。
本書における登場人物は実に多彩。日本を代表してろくろ首・豆狸・かまいたちなどが登場したかと思えば、ドラキュラ・人魚・ケンタウロスなど西洋の物語に出てくる架空の生き物にまで話が及びます。古典的なものだけではありません。モスラや「千と千尋の神隠し」のカオナシまで登場します。ドラキュラは日光に当たると灰になるのはなぜか? ケンタウロスの持つ人間の胴体と馬の胴体。その中にはいったい何が入っているのか? ろくろ首の頚筋群の細胞はどのような構造を持つのか? 巨大化したモスラの悩みとは? とにかく奇想天外な切り口で彼らの正体を暴きます。
底の浅い適当な理屈ではありません。用意周到というか膨大な資料を元にした研究結果といえるまでに昇華したでたらめです。力強く引き込まれました。
(辻田 浩志)
出版元:新潮社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:生物学
カテゴリ 人生
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愛づるの話。
中村 桂子
『季刊 生命誌』をカードとWebで発行し、最後にまとめる。これはその2冊目。編集の中村さんは、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館(10年前に創設)の館長である。東京大学理学部化学科の出身で、生命科学が専門だが、生き物の歴史とでもいうかBiohistory(生命誌)という概念を打ち出し、言論活動も盛んに行っておられる。
さて、この号のテーマは2つ。「愛づる」と「時」である。前者は中村さんとの対談が4つ。哲学者の今道友信氏との「讃美と涙が創造の源泉」、生物学者で前JT生命誌研究館館長の岡田節人氏との「生物学のロマンとこころ」、美学・美術史が専門で京都大学大学院教授、同大学附属図書館館長の佐々木丞平氏との「生を写す視点」、生命基礎論(複雑系)の金子邦彦氏との「生命──多様化するという普遍性」である。
「時」のほうは、「時を刻むバクテリア」(岩崎秀雄)を始め9つの論文で構成されている。最後にScientist Libraryというタイトルで、本庶佑氏ほか4人の科学者の生い立ちや研究内容が興味深く紹介されている。
柔らかい知性というべきか、「蟲愛づる姫君」から「愛づる」をキーワードに選んだ中村さんの感性に気分よくひたれる。いつまでも読んでいたくなる。
(清家 輝文)
出版元:JT生命誌研究館 新曜社
(掲載日:2004-07-15)
タグ:対談 生物学 生命 時間
カテゴリ 生命科学
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雌と雄のある世界
三井 恵津子
生物学の本である。著者は、お茶の水女子大理学部科学科から東京大学大学院生物化学専攻の理学博士。ドイツ、アメリカでの研究生活後、サイエンス系出版社で編集記者、編集長を務めた。現在はサイエンスライターである。
ご存じのように、生物学の世界は日進月歩。正確には、分子細胞生物学、分子遺伝学、発生生物学など、どんどん細かくなっていて、一般には新しい発見についていけそうにない。本書は、そういう世界でどこまで研究が進んでいるのか、何がわかってきたのかを、わかりやすく教えてくれる。iPS細胞やクローン技術などトピックも満載。
発展著しい分野だが、わかってくるほどわからないのが生物とのこと。わかっていないことのほうが多い。著者は、この本を書いたとたんに書き直さなければいけないのではないかと記しているが、それくらい新たな発見が続いている。
書名にある「雌と雄」の話も面白いが、こうした発見の概要を知るだけでも楽しい。しかし、つくづく思うのだが、細胞の話はなんと人間の社会全体にあてはまることが多いのか。細胞について考えると、自然と宇宙や命、つまり人生全体へ思いが及ぶ。
2008年10月22日
(清家 輝文)
出版元:集英社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:生物学 生命科学 細胞
カテゴリ 生命科学
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マンガ分子生物学 ダイナミックな細胞内劇場
萩原 清文 谷口 維紹 多田 富雄
生命の本質が分子であるということを本書を読んで初めて知った。その事実を知るということを、私は避けてきたのかも知れない。なぜなら分子というものが、筋肉や骨、内臓のように見て触れることができないもので、存在感を感じないからだ。しかし、本書を読むことで私たちの身体の成り立ちは分子の集まりだということを改めて理解することができた。
治療やトレーニング、リハビリなどのトレーナー活動をするに当たり、なぜそれが効果的なのかを理解するには、解剖学以前に目に見えない部分で何が起こっているのかが大切になってくる。そもそも、理由もわからないのにトレーナーとしてクライアントの身体に対する行為を漫然と行うのはよくない。しかし、見えない部分を学ぼうと思っていても、取っ付きにくいのが正直な思いだ。
本書は、分子生物学という分野を取り上げている。細胞、DNA、タンパク、病気の仕組みから治療方法などをマンガを使って説明しているので、物語として頭に入ってきやすい。あっという間に読めてしまう一冊である。正直言うと物足りなさもある。マンガのまま、身体について学びたい思いが強くなる。もっと続きが読みたいぐらいだ。
文章だけで学ぶ教科書、参考書はどうしても想像がうまくできない。そんなとき本書が、分子生物学や身体にまつわる知識について、わかりやすく解釈するヒントとなる。この本を参考にして、自らの知識を、マンガや物語にしてみるのも面白そうだ。理解力と表現力が試されそうである。
本書をお勧めするには、医療関係の方では簡単すぎて物足りないかもしれない。なので、そもそも遺伝子に興味があって学びはじめの方、あるいは分野を掛け離れて学び方、伝え方を変えたい方。そんな方々が読むことで、何かきっかけをつくれるのではないかと思える一冊である。
(橋本 紘希)
出版元:哲学書房
(掲載日:2016-06-04)
タグ:分子生物学
カテゴリ 生命科学
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運動分子生物学
大日方 昂 山田 茂 後藤 勝正
近年、遺伝子技術を駆使した筋細胞の分子生物学的研究が進み、筋に対する新たな知識が加えられている。この本では、運動によってもたらされた信号を受けた筋が、どう応答し特性を変えるのかというテーマを踏まえながら、運動器官としての筋の構造と構成分子、さらには仕組みについて述べられている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ナップ
(掲載日:2000-07-10)
タグ:分子生物学
カテゴリ その他
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運動分子生物学
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働かないアリに意義がある 社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係
長谷川 英祐
働かないアリの存在意義
「働かないでお金儲けできるってよくないですか」。少し前に卒業した教え子が突然こんなことを言い出した。ビジネスで成功し、将来的に左うちわで過ごしたいというのではあれば、まあ面白いかと話を聞いた。どんな壮大なビジネスプランが飛び出してくるのかと思いきや、何のことはない。マルチ商法にはまってしまっただけだった。久方ぶりに文字通りの落胆というものを味わった。
さて本書の著者長谷川英祐氏は、アリやハチなど「真社会性生物」専門の進化生物学者である。読者はまずタイトルである「働かないアリに意義がある」を一見して、どう感じるだろう。よく働くものだけを取り出してコロニーをつくった場合と、働かないものだけでそうした場合とを比べると、双方とも「同じような労働頻度の分布を示す」という、いわゆる「2:8の法則」や「パレートの法則」と呼ばれるものを思い出すかもしれない。確かにある種のアリでは、それが真実として認められるそうだ。
では、なぜそうなるのだろう。働かないアリは本当に働きたくないから、楽をして生きていたいから働かないのか。巣に引きこもって外に出ようともしない彼らに一体どのような存在意義があるのか。本書で非常に興味深い説明がなされている。トレーニングに詳しい人には、運動生理学で学んだ「サイズの原理」がヒントになる。筋肉を筋線維のコロニーだと考えるとわかりやすいはずだ。
本書の読後は人間の個体もいわば60兆からなる細胞のコロニーだという感覚を新鮮に持つこともできる。個体の中に、生殖細胞を維持するための完全な社会を持つのだと。
アリとヒト、それぞれの社会
同じアリやハチでもその種類によって生態は異なり、全ての種にその法則が当てはまるわけではない。全てのコロニーメンバーが完全な遺伝的クローンとなる「クローン生殖」や、社会システムにただ乗りし、働かずに自分の子を生み続ける「フリーライダー」など、興味深いさまざまな「真社会性生物」の生態を、本書では生物学者のハードワークに舌を巻きながら楽しむことができる。著者が「人間から見ると信じられないような、他者を出し抜いて自らの利益を高めるような生態」と呼ぶ行動も、自分の遺伝子を残すための工夫だと思えば、まだ許されるようにも思えてくる。それより、お金のためにそのような行動に出ることのある人間のほうがアリには信じられないだろう。
ヒトは本来、過酷な環境を生き残り、自分の遺伝子を次世代に伝えるために働いたのだろう。より効率的かつ安全に生活するために群れをつくり、社会が生まれた。生物としては奇跡的な進化を遂げてきたヒトは、そこで膨大な付加価値を創造してきた。それらの価値の重要な尺度となる貨幣は、社会で生活するための必需品で、自分が分担している労働価値を他の価値に変換することができるツールでもある。しかし貨幣そのものが働く目的となり、貨幣が貨幣を生むような構図は、その是非はともかく、よほどの良心が存在しない限り、さまざまな問題をも生み出してしまう。
その卑小な例であるマルチ商法に没頭している元教え子は、フットサルやバスケットボールのスポーツイベントと称した集まりを企画し、自分に縁のある同窓生をかき集めている。彼らが信じる「素晴らしい考え」を多くの人に伝えたいと称してはいるが、将来自分が楽をするためのカモを身近なところで探しているわけだ。遺伝子を伝えるためにではなく、自分の金づるとなる子や孫をせっせと増やそうとしているその行動は、アリには到底理解できないだろう。「利他者」の顔をした「利己者」は、自分が本当に「利他者」と思い込んでいる分、性質が悪い。自分の考えに賛同してくれない人間は付き合う価値がないとたたき込まれているようなので、在校生や他の卒業生を守るための手を打ちながら、その本人とは一線を置き、指導者としての苦みをかみしめながら放置せざるを得ない。ただ、この本は読んでみてもらいたいとは思う。
(山根 太治)
出版元:メディアファクトリー
(掲載日:2011-09-10)
タグ:進化生物学
カテゴリ その他
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働かないアリに意義がある 社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係
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ざんねんないきもの事典
今泉 忠明 下間 文恵 徳永 明子 かわむら ふゆみ
動物界・昆虫界の生き物の特徴を面白おかしく解説する本書。まず、キャッチーなフレーズが魅力だ。たとえば、
・サイの角はただのイボ
・アライグマは食べ物をあらわない
・ワニが口を開く力はおじいちゃんの握力に負ける
・コアリクイの威嚇はまったくこわくない
などなど。
副題にあるように、どうしてそうなった!?と思わずにはいられない。専門的には様々な議論があるのだろうけれど、ユーモアあふれる切り口で生物の進化をざっくり説明してくれるのが、この本の魅力だろう。
個人的には、ユカタンビワハゴロモの頭はからっぽ、というのがなぜか一番印象に残った。
(塩﨑 由規)
出版元:高橋書店
(掲載日:2022-05-30)
タグ:生物
カテゴリ その他
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