人はどうして疲れるのか
渡辺 俊男
「若いころと違って年を取ると疲れる」なんて言葉を耳にします。私だって何度となくそんなことを言ったことがあります。若いころのほうが運動量も多いのに、どうして年を取ったほうが疲れるのか? 若いころとは違い、責任の重い立場にあるから疲れるのか? そうなると疲れは身体の問題ではないのか? 日曜日にゆっくり休んだのにどうして月曜日の朝は疲れているのか?──「疲れ」というものを改めて考えてみると不思議なことがたくさんあります。「疲れ」とはいったい何なのか? 本書は日常当たり前に起きる現象をさまざまな角度から分析しています。
「疲れ」にはマイナスのイメージがあります。誰だって疲れるのは嫌だし、疲れ知らずで動けたら素晴らしいかもしれません。しかし疲れなければ休息をとることもないでしょう。そこに待っているのは「破たん」であることは容易に想像がつきます。その流れにブレーキをかけるために「疲れ」が存在するのであればそこに積極的な価値を見出すことができると筆者は説きます。動くことこそが動物のアイデンティティであり、動くことにより食物を獲得し、エネルギーを得て活動ができるのですが、「動く」「疲れる」「休む」という要素こそが生命活動のシステムであり、これらの要素のバランスが効率をもたらすということを知らされました。
現代社会における我々を取り巻く環境は大きく変化し、疲労というものの質も、筋肉を中心としたものから感覚器官の疲労や精神的な疲労などに変わりつつあり、ますます「疲労」というものの正体がつかみづらくなってきたとあります。時代の推移により「疲労」も変化するというのは興味深いところです。
こんな引用があります。「C・ベルナールは『生きていること』を定義して、『下界の環境の変化に対して、生体の内部環境の生理的平衡状態(ホメオスタシス)を保つ努力である』と言いました」。動くものが動物であるかと言えばそうではありません。機械は動きますが自ら下界の環境変化に対して恒常性を持ちません。これこそが動物と無生物との分水嶺。ここで筆者は、安定した変化のない環境に馴らされて生体の内部環境を変化する力を失うことは、生物としての活力を失うことと言い切り、そのことが「死」に向かうことであると指摘します。安定した楽な生活を求めようとする私たちに対して警鐘を鳴らすと同時に、活力に満ち溢れた生活を営むためのヒントを与えてくれているように思えるのです。
最後の疲労回復法の章も必見です。疲労を軽く見て病的な状態に陥ることもありがちです。よりよく生きることは上手に「疲れる」ことである。そういった発想で日々を暮らしてみると、自分の心や身体との新しいつきあい方が見つかるような気がするのです。
(辻田 浩志)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2012-02-07)
タグ:生化学 疲労
カテゴリ 生命科学
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危ない!「慢性疲労」
倉恒 弘彦 井上 正康 渡辺 恭良
書名は「慢性疲労」だが、「慢性疲労症候群」についても詳しく述べられている。「慢性疲労」は自覚的症状が半年以上続いていても、日常生活には特に支障をきたさないもの。一方の「慢性疲労症候群」は疲労を併発する他の疾患がなく、日常生活を送るのが極めて困難な疲労感が6カ月以上続いているもので、1984年にアメリカ・ネバダ州で集団発生した原因不明の病態に対して命名された比較的新しい概念だそうだ。
これといった病気がないので、さぼっているとか、怠けていると思われることもあるが、元気で働いていた人が風邪を引いたあとにかかることもある。専門家でないと診断も難しいようで、「特に異常なし」と言われるものの極度の疲労感は続く。
日本では、1991年に厚生省の慢性疲労症候群研究班が発足、世界をリードする研究が行われてきた。特に、1999年から始まった本書の著者である渡辺、倉恒氏らの「疲労の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」はパイオニア的研究として国内外から注目され、2005年2月には日本で第1回の国際疲労学会が開催される予定である。厚生省疲労研究班が1999年に調査した結果では、疲れやだるさを感じている人は59.1%、そのうち疲労感が6カ月以上続いている人が35.8%だった。この本で基本的知識を持っておきたいものだ。
2004年10月10日刊、714円
(清家 輝文)
出版元:日本放送出版協会
(掲載日:2012-10-09)
タグ:疲労 慢性疲労症候群
カテゴリ 医学
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リカバリー アスリートの疲労回復のために
SAGE ROUNTREE 山本 利春 太田 千尋 笠原 政志 Aviva L.E. Smith Ueno
リカバリーに関するさまざまな知見をまとめた、ありそうでなかった一冊だ。リカバリーの効果は定量的に測定することはできないが、だからこそ個人個人がその意義を理解し、自身の心身の状態を確認することを促す。そのために、アクティブリカバリーやマッサージなどの方法はもちろん、睡眠や栄養摂取、日常におけるストレスを解消するコツにも触れられている。
スポーツ活動において、疲労回復がいかに重要かが伝わってくる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ナップ
(掲載日:2013-08-10)
タグ:疲労 リカバリー 回復
カテゴリ スポーツ医科学
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動的ストレッチメソッド
谷本 道哉
30年にわたる平成の歴史の中でこれがいったい何度目の流行であるかはわからないが、今、ストレッチがブームである。有名トップアスリートが実践していると謳われるメソッドや、誰でもバレリーナのような開脚ができるようになるというキャッチーなフレーズに、人々の注目が集まる。
ところが、タイトルからもわかるようにこの『動的ストレッチメソッド』という本は、みんながまずイメージするような一般的な“ストレッチ”を紹介する本ではない。
導入部分では、もはや当てはまらない人なんてほとんどいないのではないかと思われる、パソコン・モバイル環境に由来する身体の疲れや不調を改善するための手段のひとつとして、この「動的ストレッチメソッド」がすすめられている。
この本のいいところは、まず最初に肩甲骨・脊椎・股関節がどれくらい動くかをセルフチェックする項目(=評価)がきちんと設けられている点だ。たとえばアスレティックトレーナーがアスレティック・リハビリテーションとしてエクササイズをアスリートに指導するときも、必ず可動域や痛みの評価をまず最初に行う。しかも、内旋・外旋…などの専門的な用語を使わずに、「ひじを下げずにひねることができる?」といったように、誰でも「自分はこの動きが硬いのかもしれない」と簡単に自覚できるように、表現が工夫されている。
最初のチャプターでしっかりと動機づけを行ったあとは、ベーシック、ブースト、ストレングスとその人の活動量やレベルにあわせてステップアップしていく構成で、それぞれの動作が大きな写真と一緒に紹介されている。一日中デスクに座りっぱなしのビジネスマン、筋力も体力も低下した女性、激しい運動は避けたいシニアでも、今すぐ本をちょっと横に置いて、リビングで試せるようなシンプルなものばかり。また、読者が無事に最後のチャプターまでたどり着いたあかつきには、さりげなく、しかしきちんとページを割いて、健康やダイエット、疲労回復とは切っても切り離せない「栄養の摂り方」についての情報も掲載されている。そんなつもりでこの本を手に取ったわけでなくても、ここは最後まで読まずにはいられないだろう。
こういった具体的な動作が指南された本は、結局なかなか全てに目を通すことが難しいことが多いが、この本に関しては、全体的に明るく鮮やかなカラーとわかりやすい写真やイラストのおかげで、どんどん読み進めることができた。
私もキーボードに向かって丸まった肩周りが気になったので、さっそくデスクのそばに立ち上がって「ベーシック」のストレッチを全部やってみた。全てやっても10分もかからない。なるほど、これは簡単で、とてもよさそうだ。今は誰かにこの本を紹介したくてたまらない。
(今中 祐子)
出版元:サンマーク出版
(掲載日:2018-10-30)
タグ:疲労回復 ストレッチ 栄養
カテゴリ ストレッチング
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運動と疲労の科学 疲労を理解する新たな視点
下光 輝一 八田 秀雄
運動によって「疲労」を感じることは誰しもが経験するだろう。この「疲労」というのを、ただ「疲れた」という小学生の感想文のような表現で一括りにしてはいないだろうか。もしくは、気合いが足りないからやメンタルが弱いからといった主観的で曖昧な要因から、「疲労」が生じるという詭弁に陥ってはいないだろうか。
「疲労」は、客観的な指標で仮説を検証するという科学の世界での研究対象となっている。本書では、生理学・脳科学・心理学・栄養学といった科学的な観点から「疲労」に関する理論が展開されている。科学の世界では、以前までの常識が非常識になるというパラダイムの変換が生じる。運動をして疲労するということは、かつて乳酸が蓄積することが原因と考えられ、その考えは今でも根強く残っている。しかしながら、現在の科学では、乳酸は疲労物質でなく、疲労の予防に関与することが示されている。筋肉を動かすエネルギー源には筋肉中に蓄えられたグリコーゲンの関与が広く認知されているが、乳酸も筋肉へのエネルギー供給に重要な役割を果たしていることが報告されている。疲労によってこれらのエネルギー源が枯渇してしまえば、スポーツパフォーマンスの低下は避けられない。
筋肉だけではなく、脳においても乳酸やグリコーゲンの関係が示されている。これらが関与した脳におけるエネルギー源の減少は、中枢性疲労を引き起こす要因の一つとされている。中枢性疲労とは、脳から筋肉に指令を出す際に関与する神経系に疲労が生じることである。上記に示した筋肉と脳においての疲労に関する話だけでも、「疲労」という現象には様々なメカニズムが潜んでいることがうかがえる。
本書を読むことは、「疲労」という現象とそのメカニズムを理解し、「疲労」と適切に付き合う方法を考える思考の糧になるであろう。この理解は、精神論によって追い込むトレーニングとは一線を画し、科学的な視点から「疲労」を客観的に捉えたトレーニングメニューの作成につながると考える。最新の知見から得られる恩恵によって、質の高いトレーニングが継続できる結果、最終的にスポーツパフォーマンスが向上すると考えられる。「疲労」という観点でトレーニングに関する思考の糧を育むためにも、本書を読まない理由が見当たらない。
(曽我 啓史)
出版元:大修館書店
(掲載日:2020-08-17)
タグ:疲労 乳酸
カテゴリ スポーツ医科学
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