監督の条件 その実戦と理論
梅村 清弘 深井 一三 小林 平八 安田 矩明
監督やコーチは、選手の競技力の向上に大きく関わっているのが普通である。ところが、監督やコーチの役割について、科学的に考察を加えたものはこれまでほとんど出ていない。
本書は、約10年前に書かれたものだが、このコーチングの分野に科学的な考察を試みた書であり、その内容は今も十分な説得力を持っている。
編著者は中京大学の教授、助教授の6人で、いずれも各種競技の監督・コーチを経験した人たちばかりである。そのため、理論を提示していきながらも、そのなかに自らの豊富な実例が挙げられて、常に、現場の視点も忘れられていない。たとえば編著者の1人は、中京高校が昭和41年春・夏の甲子園を連覇した当時の校長であり野球部長であった人で、自らのチームについての分析を詳細に行っていて興味深い。そのほか、中京大学から生まれた、各種競技のチャンピオンについての話も、監督と選手の関係という視点から詳しく考察している。
また、名監督といわれた川上、大松、松平などの各氏の指導方法、考え方が実例中心にわかりやすく解説されている。
そして、本書が今もなお、その新しさを失っていない点は、コーチングを単にスポーツの世界だけからみることなしに広く社会的観点から捉えようとしているところである。その意味で、本書の第1章が「コーチングの社会学」から始まるのは、その基本的な視点をよく表しているといえる。
コーチと選手の人間関係も、社会一般の人間関係の中で考察され、そのためにスポーツ以外の分野からも多くの文献を使っている。
こうした本がもっと出てくることによって、選手の資質だけでなく、監督(コーチ)の資質ももっと問われていくべきだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大修館書店
(掲載日:1983-10-10)
タグ:監督
カテゴリ 指導
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エディー・ジョーンズの監督学 日本ラグビー再建を託される理由
大友信彦
新しい日本ラグビーの入門書として
2019年にラグビーワールドカップが日本で開催される。過去7回行われた同大会において予選プール1勝21敗2分けという成績の日本で。2011年フランス大会でも、外国人選手で主力を固め、捨て試合をつくるなど手を尽くしたにもかかわらず、3敗1分けで予選プール最下位に終わっている。
長く続く暗い闇を抜けられないラグビー日本代表。本書は、2012年4月から「日本ラグビー再建を託された」エディー・ジョーンズ新ヘッドコーチの来歴およびそのコンセプトを紹介する本になっている。すでに出された結果をもとに訳知り顔で書かれたものではない。未だ霧がかかったこれからの日本ラグビーの歩みに悲願とも言える期待を寄せながら、それを分かち合うための入門書としての役割を担おうとしたものである。
壁を乗り越えるためのJapan Way
ラグビーのグローバル化のため、アジア代表としてこの地域のラグビー競技の普及を目指すことがワールドカップ日本招致目的の1つとされる。ワールドカップでは勝てない日本代表も、アジア五カ国対抗では2008年のスタート以来5連覇を成し遂げているのである。ただアジアを一歩踏み出すと、たとえば環太平洋の強豪国によるIRBパシフィック・ネイションズ・カップでも2011年を除き苦汁をなめ続けているのが実情である。
その壁を乗り越えるべく、外国人選手を安易に多用した前任者とは異なる方向性を持つ新ヘッドコーチ、エディ・ジョーンズ氏がその重責に就いた。彼が掲げたスローガンは「Japan Way」である。日本人の血統を持つ彼は「失われた日本の良さ」を取り戻すこと、「日本ラグビーが本来持っている可能性」を引き出すことを目指している。古くからのラグビーファンには膝を打った人も多いだろう。それは日本代表の菅平合宿の復活にも象徴されている。
実は彼の日本でのコーチング歴は1995年の初来日時に東海大学や日本代表のコーチに就いたところまで遡る。ACTブランビーズを率いて2001年にオーストラリアのチームとして始めてスーパー12(当時)を制したのはその後のことなのである。同チームの黄金時代にそのシークエンス戦法は世界を席巻した。そのアタッキングラグビーに、ラグビーが変わったと実感した関係者も少なくなかったはずだ。しかしその源流は実は日本ラグビーにあったとも言われる。日本のチームに所属していたある世界屈指のプレイヤーはこう評したそうである。「ブランビーズのプレーはエディーが日本から持ち込んだ」と。もちろん「ルールやレフェリングの変更された現在」そこに回帰することに意味はない。
ただそんな実績を背景にし、サッカーを初めとする他競技からも貪欲に「自分のクラブで応用できる要素を探す」ことを常とする彼が標榜する「Japan Way」ラグビーには、やはり期待を抱かずにはいられない。少なくとも代表を目指すプレイヤーがその原理を理解し実践することができれば、日本ラグビーは変われるのではないかという気持ちにさせられる。アタックシェイプと呼ばれるような実戦的戦術以外の要素に触れた彼の言葉も本書では多く紹介されている。
悲願達成を願う
彼は言う。「子供たちにこういうプレーをしたいと思わせるようなプレー」を見せたいと。フィールドに立つメンバー中で、決まりごととしてではなく、しかし共通認識のような「ディシジョンメーク」ができる必要があると。「ミスをすること、失敗することは決してネガティブなファクターではなく、ミスは起きるものという認識があれば、ミスへのリカバリー、反応の速さ、ミスで発生した新たな状況のクリエイティブな活用」につながり、それはまさに日本伝統の「武術における『無心』の境地」であると。
代表予備軍である「ジュニアジャパン」を立ち上げ、「試合に向けて若手のチームを強化するのではなく、日本代表に入ってこられる選手個人を育成する」ことも始まった。ユースレベルの強化・育成、また、高校日本代表セレクションを兼ねた「トライリージョンズ(三地区対抗)」と呼ばれる合宿も行われている。ラグビーのフィールドでは「ストラクチャーを作るのではなくオーガナイズされたラグビー」を目指すにしても、代表選手育成というストラクチャーは確立される必要がある。
彼は問う。「目標として世界を見据えて、そのために毎日努力しているのかどうか」を。「セレクトされるべき人間は「信用できる人間」なのだから。これらは当たり前のことに思えるかもしれないが近年日本代表チームから抜け落ちていたように思える事柄が多いのは錯覚ではないだろう。2012年9月に世界ランキング16位の日本代表が、「サイズを言い訳にしないでスキルを磨き」、「ストレングス&コンディショニングをインターナショナルレベルに引き上げ」、「ハイスピード、ハイフィジカル、ハイフィットネス」を「ロングジャーニー」の到達点で手に入れたとしたなら、日本開催大会のひとつ前、2015年の第8回ラグビーワールドカップで我々は何を目にすることができるだろう。ラグビーファンとしては楽しみだ。
余談ながらイングランドをホスト国として行われるラグビーワールドカップは1991年に続いて2回目である。この第2回RWCで、今は亡き宿澤広朗監督率いる日本代表が唯一の白星を挙げている。その勝利を知る男、薫田真広氏が今の日本代表アシスタントコーチである。気が早すぎる、本当に早すぎるが、すでに知将として知られる氏がエディー・ジョーンズジャパンでさらなる昇華を遂げ、2019年度の日本代表を率いて開催国として悲願のベスト8達成のようなことになれば熱いと、日本ラグビー界にとって本当に熱いと、そう思う。
(山根 太治)
出版元:東邦出版
(掲載日:2012-11-10)
タグ:ラグビー 監督
カテゴリ 指導
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サッカー名監督超一流の思考
児玉 光雄
著者は臨床スポーツ心理学者で、スポーツ選手・指導者の「言葉」についての著書も多くある。本書は、サッカー日本代表を率いるザッケローニ氏とヨーロッパで活躍する4名の名監督の言葉から、彼らの成功の秘訣を探り、スポーツ現場はもちろんチームマネジメントにも広く応用しようという一冊だ。
右ページに言葉、左ページに解説というわかりやすい構成となっていて、これからの時代に求められるリーダー像が浮かび上がってくる。即ち、メンバーの自発性を損なわず、かつリーダーとしてすべきことは行う。
一見難しそうだが、同時にリーダーシップは誰でも習得可能な「スキル」であることも伝わってくる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東邦出版
(掲載日:2013-06-10)
タグ:監督 サッカー
カテゴリ 指導
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高校野球 神奈川を戦う監督たち
大利 実
2013年春に発売されたものだが、1シーズン限りの観戦ガイドではなく、読み応えがある。中学軟式野球、高校野球の現場に足しげく通う筆者ならではのノンフィクションだ。
慶應義塾などの伝統校、2009年に甲子園初出場を果たした横浜隼人、打倒私立を掲げる県立高校の監督たちが、いかにそれぞれのチームカラーをつくりあげているかに迫る。神奈川県予選でぶつかることも多く、勝負を分けたプレーについても聞いている。最終的に、横浜高という王者をいかに倒すかを皆考えながら切磋琢磨しているのがわかる。
1校しか甲子園に行けず、ライバルも多数いる中でのチームづくり、そしてライバルチームの指導者とどのような関係を築いているかは非常に興味深いものだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2014-01-10)
タグ:野球 監督
カテゴリ スポーツライティング
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異能の球人
矢崎 良一 藤井 利香 崔 仁和 中里 浩章 谷上 史朗 沢井 史 渡辺 勘郎
監修の矢崎氏は、高校野球の指導者には「異能」が求められるという。高校野球という場は時間が限られ、(一部を除いて)力量の高い選手も限られ、学校や保護者の理解もなかなか得られるものではない。そもそも「場」に立ち続ける保証もない中でどう指導していくか。指導論に留まらず、生き様にまで迫ったシリーズの11冊目だ。
矢崎氏をはじめ7名の執筆者は、数奇で濃密な指導人生を辿る監督陣に深く切り込んでいく。浮かび上がるのは、野球の世界も若者に何かを教えるのも綺麗ごとだけではないということだ。甲子園に出場するような指導者でもここまで苦労しているのかと思わされる。その分、教え子たちが口にする言葉が尊いものに感じられる。現実を突きつけられるが、希望もある一冊だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2014-08-10)
タグ:野球 監督
カテゴリ スポーツライティング
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采配
落合 博満
常勝の秘訣
本書が刊行されるのとほぼ同時に、著者は監督ではなく元監督という立場になっている。退任の記者会見でも「普通のおじさんになった」とキャンディーズのようなことを言っていたように思う。ただ、本稿では敬意をこめて、あえて「監督」という呼び方をしたいと思う。
落合監督といえば、あまりよい印象を持たない方も大勢いると思う。少なくとも1人、身近にそういう人を知っている。私の妻である。彼女曰く、とにかく何だかエラソーで好きになれないのだそうだ。ぶっきらぼうなもの言いと「オレ流」のイメージが定着してしまっているのだろう。
しかし、すごいリーダーであることは間違いない。監督をしていた8年間で、中日ドラゴンズは4度のセ・リーグ優勝を果たしている。また、2007年には53年ぶりの日本一に輝いているのだが、その年から導入されたクライマックスシリーズ制によりリーグ2位から日本一になったということで、物議を醸したこともまだ皆さんの記憶に新しいと思う。そしてリーグ優勝が出来なかった年でも、2位が3度、3位が1度という、まさに常勝軍団になった。
その秘訣はビジネスにも通ずるのではないかというわけで、本書はビジネスマン向けの書物といった体裁になっている。しかし、書かれている内容は当然、プロ野球のことばかりであるので、スポーツの現場で日々奮闘している指導者・スタッフ・選手の方々にも違和感なく読める。
地道な努力
本書を読めば、誰もがどこかに共感を覚えるはずである。それがどの部分かは読者の置かれている状況によるのだろうが、「そうだよなぁ」とうなずく部分は必ずあるはずだ。なぜなら、当たり前のことばかりが書かれているからである。中日ドラゴンズは、当たり前のことを当たり前にできるように、地道にコツコツ努力して常勝軍団になったのだということがよくわかる。しかし、当たり前だと思っていることほど、実はよくわかっていないものだ。その例として、本書の中で私がおや? と感じたことを紹介したい。落合監督の勝負に対する姿勢だ。
監督は「最大のファンサービスはあくまでも試合に勝つこと」であり、「理想は全試合勝てるチーム」であると言いきる。しかし一方で、ペナントレースを制するために「50敗する間にどれだけ勝てるか」を追い求め、選手たちには「勝てないときは負けない努力をしろ」と説く。だが、勝ち目がないと見ればその試合はあっさりと捨ててしまうのか、といえばそうでもない。例えば、アメリカ流の「大差で勝っているチームが勝敗に関係のない場面でバントをしてはいけない」という、最近日本にも定着しつつある暗黙のルールについて噛みついている。大量リードでも逆転されることはいくらでもあるのに、どうして勝敗に関係ないと言えるのか、最後まで全力で戦うべきではないのか、というのだ。
これら1つひとつは至極当たり前だ。しかし、こうして並べてみると、何だか矛盾しているようにも感じる。どういうことかと何度も読み返していると、ある結論に行きあたった。
大切なのは「理想はパーフェクトなものを描き、それに1歩でも近づいていけるよう、現実的な考えで戦っていく」ことであり、「常に考えておくべきは、負けるにしてもどこにチャンスを残して負けるか」なのである。
これもまた当たり前のことかもしれない。しかし、ブレずにこういうことをきちんと地道に実践できるかどうかが、成功への分かれ道なのだろうなと思う。
本当の「オレ流」
本書は『采配』というタイトルでありながら、選手起用などについての詳細にはあまり触れられていない。そういうことを知りたいのにと思うのだが、きっと監督なら「企業秘密」とか「自分で考えろ」で終わりだろう。
しかし、ぶっきらぼうでもエラソーでもない。監督は選手やスタッフだけでなく、審判やその他関係者にも敬意を持って接する。また、仕事の成功と人生の幸せとは全く別物と考えている。マスコミがつくり上げた「オレ流」のステレオタイプとは正反対である。
視線はクール、態度はドライ。それでいて、心は熱く人柄はどこまでも温かい。これこそが落合采配の秘訣なのだろう。
(尾原 陽介)
出版元:ダイヤモンド社
(掲載日:2012-02-10)
タグ:野球 監督
カテゴリ 指導
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監督と甲子園7
藤井 利香
本書は強豪私学の監督がどのような考えをもってチームづくりを行っているのかが書かれている。また練習をどのように行っているのか、選手と関わるときには何を考えて話しているのかなども書かれており、普段ほかの指導者の考えを聞く機会の少ない人にとっては貴重な経験を得ることができる。
監督の話だけでなく選手の話についても触れている場面があり、プロになった選手はどのような態度で練習に臨んでいたかなども書かれていた。
練習メニューを勉強することも大切であるが、指導者の考えを聞くことも大 切である。選手も指導者の考えを理解することで、練習に対する考えに変化が現れるので参考にするとよさそうである。
(榎波 亮兵)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2017-01-21)
タグ:監督 野球 指導
カテゴリ 指導
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監督と甲子園7
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名監督の条件
「すごい」という陳腐な言葉で表現したくない“名監督”たちの条件。どちらかと言えば「おもろいこと考えとる、おっさんたちや〜」がしっくりくる。その“おもろさ”は、実はスポーツでは一番大事なことかもしれない。特に、京大アメフト部の水野弥一監督は、その“おもろさ”では最上級かもしれない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2001-07-10)
タグ:監督
カテゴリ 指導
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