子どもの目の健康を育てる
枝川 宏
自分と他人は、見えている世界が違う。考えてみれば当たり前のこと。だけどそれは、ものすごく新鮮な驚きでもある。
「色を見分ける力は6~10歳でおとな並み、ものを見る経験も必要」「距離感や立体感を知る力は6歳くらいでおとな並み」「立体視の発達には3歳までが重要な時期」。おおお、なるほど。
本書はタイトルの通り、子どもの目のトラブルのしくみや予防・対処方法などを細かく解説する本である。しかし、私が本書を読んだ感想は冒頭のとおりである。
こんな例がある。小学生にハードルや走り高跳びをやらせると、すんなり跳べる子と躊躇してしまう子がいる。ハードルや高跳びのバーと自分との距離感がうまくつかめるかどうか、という問題だと考えている。なんで跳べないのかなぁ、と不思議に思うこともしばしばだが、本書を読んで少し納得。これまでの経験や目の特性によって、ひとりひとりが認識している世界が違うのだ。
私には3人の子どもがいる。今年で12歳(男)、9歳(女)、4歳(女)だ。3人3様、それぞれのものの見え方が違うのだなぁ。中でも、一番下の娘が見ている世界は、私と全然違うのかもしれないと思うと、ものすごく面白い。一体、どんなふうに見えているのだろう。
(尾原 陽介)
出版元:草土文化
(掲載日:2012-10-16)
タグ:眼
カテゴリ 医学
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一流選手になるためのスポーツビジョントレーニング
石垣 尚男
著者はスポーツ選手の「見るチカラ」を「スポーツビジョン」と定義する。これは健康診断などで測定する「視力」に限らない。
本書では冒頭にてトップ選手がプレー中どこを見ているかを分類。固定されたゴールを狙う競技、1対1の対戦競技など特性に合った眼の使い方が必要だとわかる。続いて眼のしくみに触れた上で、スポーツ(動作)と見ることの密接な関係をデータを用いて説明。最後にトレーニング方法を解説する構成となっている。特別な器具は必要なく、空き時間や練習中に取り入れられるものばかりだ。
現場に役立つ提案を、という著者らの想いがうかがえる。持っている技術や体力をなかなか発揮できない選手へのアプローチとして参考になるのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2015-03-10)
タグ:スポーツビジョン 眼
カテゴリ スポーツ医科学
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スポーツ選手なら知っておきたい「眼」のこと 眼を鍛えればうまくなる
石垣 尚男
眼とパフォーマンス
五十の齢を迎えようが身体は鍛えればまだ相応に反応してくれる。しかし「眼」というものは、なかなかやっかいである。数年前から始まった小さな文字を人相悪い目付きでにらみつけてもぼやけてしまう現象。暗い灯りの下ではもうお手上げだ。世間がぼやけて見えるくらいが生きやすいと強がってみても、人間の感覚器の中で眼からの情報量が最も大きいことに変わりはなく、不便になったことは否めない。認めたくないものだ、老いゆえの衰えというものを。
そんな老眼の話はともかく、アスリートにとって視力の問題はパフォーマンスにネガティブな影響を与える大きな要因である。これは昨今判明したことではなく、かの宮本武蔵も五輪書で「兵法の目付といふ事」として「観る」ということを説いている。40年ほど前だろうか、愛読していた野球漫画「ドカベン」で、主人公である山田太郎が電車に乗っているときに通過する駅の名前を読み取る訓練を常にしているというシーンがあったようにも思う。武道のみならずスポーツで眼を鍛えるという概念は相当昔からあったはずだ。だがそれを定常的なトレーニングとして行っている人は、どれほどいるのだろうか。
わかりやすい解説書
本書は「スポーツに必要な見るチカラ」=「スポーツビジョン」についてのわかりやすい解説書であり、トレーニング法の指南書でもある。「スポーツビジョンは小学生の時期に臨界期」を迎え、「この頃に高いレベルに上げておけば、加齢とともに落ちるにしても生涯高いレベルを保つことに」なるとのことだ。年齢が高くなるとトレーニング効果はあっても、子どもの頃についた能力差は埋まらないようだ。子どもの頃からボールを用いるようなオープンスキル系スポーツをプレーしていれば自然に発達するだろうが、これに特化したトレーニングも合わせて導入するべきだと思う。
ただ、このスポーツビジョンは身体とのコーディネーション抜きには語れない要素だ。眼からの大量な情報を瞬時に処理して身体の動きにつなげることができなければ、いくら眼がよくてもスポーツのパフォーマンス向上には活かされない。実際本書でも、基本的な眼のトレーニングに加えて種目別のコーディネーショントレーニングが紹介されている。眼から得られる情報の重要性を理解した上で、固有受容器や前庭からの情報、小脳による様々な情報の処理や制御など、身体の動きをコーディネートする他の様々な要因も組み合わせる必要があるということだ。
一方で、最大の情報を封印することで、その他の能力を引き上げることも考えていいだろう。片脚立ちで眼を閉じるだけでバランス保持に苦労することは皆知っているはずだ。
対等に戦う全盲の選手
それにしてもパラリンピックなどで視覚障害者競技を見ていると、どのような感覚がどのように磨きこまれているのだろう。アルペンスキーなど、まさに手に汗握り、ただ驚くばかりだ。明らかに健常者より発達した能力が備わっている。
アメリカ留学中に学生トレーナーとして実習を積んでいた高校で、他校の学生ではあるが生来の全盲レスリング選手を見る機会があった。彼は世にあるさまざまな形というものを、その眼で認識したことがなかった。人の身体というものを、自らの身体を含めて視覚で認識したことは一度もなかったのだ。それにもかかわらず、彼は健常者との試合に対等の条件で出場していた。そして相手選手と対峙してまだ身体が触れないときから、彼は相手の腕のあるべきところを探り始めていた。間合いが見えているかのように近づいて、一旦コンタクトするとどの部位をどうすれば極めることができるのか、身体のつくりというものを理解しながら動いているように私の目には映った。
ある程度強く速い選手に当たるとやはり敵わなかったが、1回戦や2回戦は勝ち上がっていたのである。彼のような条件で研ぎ澄ましたさまざまな感覚に視力が加わればどうなるのだろうか。身体を操る能力は向上するのだろうか、それとも調整が狂ってしまうのだろうか。
身体と対話
老眼になってから始めた空手の稽古で、私は初めは鏡と向かい合ってよく稽古していた。眼からの情報を頼りに自分の形を確認していた。しかしあるとき、自分を客観的に見る視覚に頼りすぎている自分に気づき、鏡を封印してもう少し身体と対話することに努めるようにした。
主観的な視覚にも制限をかけて、自らの動きを内面からコントロールする力をもう少し身につけようと考えている。同時に、基本的なビジョントレーニングに加え、出勤中の人混みの中で視野を広げるために人数を数えたり、広告の文字や電話番号を読み取るように努めたり、走り去る車のナンバープレートを読んだり、老いた眼に一生懸命喝を入れている。傍目には怪しいオヤジに映っているはずである。
(山根 太治)
出版元:大修館書店
(掲載日:2015-05-10)
タグ:眼
カテゴリ スポーツ医科学
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