運動会で一番になる方法
深代 千之
1カ月で速くなる
“運動会”という時期にはまだ少々早いので、タイトルを見ただけでは正直読もうという気にはなりにくいのですが、本書の「はじめに」のところに「この本は、タイトルとおりの内容の本です。少し補足すれば、『小学校の子どもを運動会で一等賞にするための方法について解説した本』」ということで、推奨される読み手は、1. 小学校の子どもをお持ちのご両親、2. スポーツを自分でもやったり観たりするのが好きな方、3. 人間の身体やその動きについて興味のある方、等だそうです。つまり、指導的立場にいる方々に読んでいただきたいということなのだと思います。ですから、当の小学生は本書に紹介されているドリルをやれば、運動会本番の一カ月ぐらい前からの練習で十分成果が期待できそうですが、それを指導する親や先生たちはドリルの本来の意味やら道理やらを理解する必要があるわけですから、もう少し時間を要するということで、この時期からそろそろ読んでおいては如何かということなのです。
ところで、本書の第一章にも掲げられていることなのですが、最近の子どもは本当に“自然の運動”をしなくなったのでしょうか。自然の運動とは、多分日常の環境を利用して運動することだと思うのです。例えば、空き地に行って草野球をやる。ところがいつの時代も空き地には“立ち入り禁止”と看板が掲げてある。もちろん、そんなことはおかまいなしにやる。と、そこへ土地の管理者が突然やってきて“こらー! おまえら誰の許可とってここへ入ったんだー!”と叫びながらこちらへ向かってくる。そこで、子どもは急遽試合を無期限延期にしてダッシュでトンヅラする。その際、忘れ物はないか素早く視覚で確認し、全員同じ方向に逃げないように各自逃走路を確保する。まさに、全身全霊を傾けての逃走劇。これこそが、理にかなった運動というもので、自然のトレーニングなのだが。やっぱり、少なくなったかな?
股関節活性化ドリル
日本人は長い間、長距離種目は強いが短距離種目はダメと信じられてきました。その理由は筋の組成が生まれつき長距離型になっているとか、骨格の長さが短いからとかいろいろ言われてきました。しかし、近年“ナンバ走り”で有名になった末續慎吾選手のように短距離種目でメダルの可能性を持つ選手も出てきたことは確かです。現役時代トップ選手として活躍し、現在彼のコーチである高野進氏は「脚を股関節で引っ張るように前から後ろへ運ぶ“競歩”のような動きが、短距離走の正しい脚の振り戻しに近いことに着目」したそうです。本書には「トップアスリートは、さらに上を目指して、様々な手法を取り入れて走りの中で応用できないか試しています。その一つが『ナンバ走り』なのです。それぞれの選手は、いろいろな走りを試しながら、自分にあった新しい“気づき”を体得しようと努力しています」と述べられています。つまり、経験知としてのコーチの何らかの確信があり、それを選手が自分なりに消化・吸収したとき初めて成果として記録がついてくるというわけです。ということは、今回本書に紹介されている「股関節活性化ドリル」は、まず指導者が体感し、確固たる経験知としなければなりません。ただ単に“股関節を使え”、“動かせ”と言っても選手には理解しにくいでしょう。まして相手が小学生ともなれば、股関節ドリルをベースしたオリジナルなドリルの作成が必要になると思います。是非とも今年の運動会に間に合うように、指導者の皆さんには早目に本書を手に取ることをお勧めいたします。
(久米 秀作)
出版元:アスキー
(掲載日:2005-04-10)
タグ:短距離走
カテゴリ 運動実践
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