オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット
大友 信彦
タックルは怖い。自分一人の戦いだったら、逃げ出したい。しかし、チームのための責任感がタックルを成立してくれる。このことを、ラグビーでは「カラダを張る」と言う。「カラダを張る」とはまさに、チームのために自分を犠牲にするプレイのことである。怖くても痛くても、相手が強くても「カラダを張る」ことはできる。別な言い方をすれば、「自分のため」ではなく、「チームのため」に「カラダを張る」のだ。
そして、おそらくこの「自分のため」だけでなく、「チームのため」、いやもっと言えば「国民のため」に「カラダを張る」のが、愛称「オールブラックス」で有名な、ラグビーのニュージーランド代表である。ラグビーが宗教のニュージーランドでは、誰もがオールブラックスに憧れ、そして選ばれた者は神にも等しい尊敬を人々から受ける。この双方の関係こそが、「自分のため」ではなく、「国民のため」という大きな力をうみだしているのだ。
哲学者の内田樹さんは、人間は自分のためでは力が出ないものだという。自分の成功をともに喜び、自分の失敗でともに苦しむ人達の人数が多ければ多いほど、人間は努力する。背負うものが多ければ、自分の能力の限界を突破することだって可能であると。
大切なもののために生きる人間は、自分の中に眠っているすべての資質を発現しようとする。それが、世界最強のラグビーチーム、「オールブラックス」の秘密だ。
(森下 茂)
出版元:東邦出版
(掲載日:2011-11-25)
タグ:組織 指導 ラグビー
カテゴリ 指導
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勝利のチームメイク
岡田 武史 平尾 誠二 古田 敦也
「勝てるチーム」と「勝てそうだけど勝てないチーム」との差、「それ」ってなんだろう。「それ」を知りたい指導者や選手はたくさんいる。
古田敦也(元ヤクルトスワローズ選手兼監督)は、平尾誠二(元ラグビー日本代表監督)との対談の中で、こんなことを言っている。
「『お前だってやればできるんだ』っていう言葉は、それこそ小さい頃から聞かされるじゃないですか。でも、いまいち信じきれない自分がいるんですよね。高校時代、強豪校と対戦するときに『同じ高校生なんだから勝てるぞ!』と先生に言われても『勝てるわけないじゃん』って思っているクチだった僕が、初めてプロでリーグ優勝して『やればできるんだ』って実感できた。実感すると『できる』ということを信じられるようになれる。大げさに言うと自分を信じられるようになる。『奇跡は、信じていても必ず起こるものではない。でも、信じない者には起こり得ない』というじゃないですか。それと同じで、『できる』と思えるかどうかは、勝負事で勝つか負けるかにとっては、大きな差を生むような気がするんです。」
もちろん、「それ」に答えはないが、この言葉は大いなるヒントを与えてくれる。
また、平尾と岡田武史(元サッカー日本代表監督)との対談で、
平尾:そうなんですよ。最初に、できない原因を「知る」。で、原因を知ったら。それをどう解決したら「できるようになるか」を理解するんです。これが「わかる」。この二段階を経て、初めて実習なんですよ。ここを指導者は十分認識しないと。
岡田:でもな、そういう理屈がどんどんわかってきてさ、教え方もそれなりに巧くなっていくとするじゃない。それだけでも必ず、壁にぶち当たる。スポーツは人間の営みなわけだから当たり前と言えば当たり前だけど、「おい、頑張れよ」の一言だけで、すべて事態が解決できてしまうこともあるじゃない?
岡田の言葉が物語るように、選手へのアプローチや、チームづくりに、「答え」はない。野球・ラグビー・サッカーと競技は違えど、その道で、闘い、結果を出し、また試行錯誤している彼らから学ぶべきことは、たくさんある。
(森下 茂)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2011-11-01)
タグ:組織 チーム 指導 ラグビー サッカー 野球
カテゴリ 指導
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野球力再生 名将のベースボール思考術
森 祗晶
本書は、日米両国の野球を比較しながら、日本野球界への提言をしていく内容になっている。フロントと現場の温度差、コミッショナーの権限の弱さ、ドラフトやFA問題。悪しき慣習が蔓延する野球界を、現役時代に巨人でV9を経験し、監督時代に西武ライオンズで黄金時代を築いた著者、森祗晶氏が冷静かつ論理的に両断していく。
同氏の言葉からは、現場から滲み出る重みを感じるし、メジャーリーグを始め、各界のいい部分をどんどん取り上げていくべきだとの主張は納得できるものが多い。しかし…正論であっても実現するのは難しいのだろうなと思ってしまう。どうせ一番の敵である「変わることを好まない」集団に跳ね返されてしまうのだろうなという気持ちになってしまう。
それではいけない。「勇気」が求められる時代背景の中で、野球界にかかる期待は大きいはずだ。プロ野球界の関係者全員が人任せにするのでなく、自分のこととして考え、できる限りの行動をしていく必要がある。本書はプロ野球ファンの方はもちろん、球団関係者、メディア関係者にもぜひ読んでいただき、これからの野球界発展に向けて一考いただければと思う内容であった。
(水田 陽)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:野球 組織
カテゴリ 人生
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マネジメント信仰が会社を滅ぼす
深田 和範
どちらが主役か
本書は冒頭で「マネジメント」と「ビジネス」をこう定義している。「ビジネス」=何らかの事業を行うこと。「マネジメント」=事業をうまく運営すること。企業活動で言えば、何かをつくるなり売るなりして利益を得ること、つまり「何をやるか」がビジネスであり、それを最大化、安定化させるために「どのようにやるか」がマネジメントである。従って、あくまでも主役はビジネスであり、マネジメントは黒子である。「何を当たり前のことを」と思われるだろう。そう、このことについて、異論のある人はまずいないのではないか。
ところが現実はそうではないらしい。マネジメントによってビジネスが抱える問題を全て解決できるという思い込みが広がっている。そのため、営業や製造の現場の第一線でビジネスを行っている人よりも、企画や人事など本部でマネジメントを行っている人のほうがエラクなっており、主従が逆転してしまっているのだ。これがタイトルの「マネジメント信仰」である。決して、昨今の「もしドラ」(「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、岩崎夏海著・ダイヤモンド社)ブームに対するいわゆるカウンター本でもなく、マネジメントを全否定するものでもない。「マネジメント信仰」について警告を発する本である。
ただ真似るのはなぜ
これは何もビジネスに限ったことではないだろう。スポーツの現場においても同様である。強いチームの練習方法や運営方法、本に書いてあるトレーニング方法など、手法をただ真似るということは、よくあることだ。そして、それで満足してしまい、本来の目的を忘れてしまう。
なぜ、こういうことが起こるのだろう。答えは簡単。ラクだからである。すでにどこかで誰かが実践してみて、うまくいった手法というのは、自分もうまくいくという保証があるように錯覚してしまうのだろう。本書を読み始めた頃は「あるある、こういうこと」と面白がっていられるが、だんだんそうも言っていられなくなる。私は「これはウチの会社のことでは?」と錯覚したり、「管理部門に読ませたい」と感じた。本書を読んだ多くの人もそう思うはずだ。会社や上司のことだと思っていられるうちはまだいいが、「自分のことかも…」と思う箇所もあり、読み進めるのが怖くなる。
本書では、徒にデータや理屈を振り回す「真似ジメント」ではなく、「経験と勘と度胸」で勝負すべしということが書かれていて、その具体例として、うまくいった事例、失敗した事例がいくつか紹介されている。しかし本書の目的は、結果とそれに至る経緯を評価することではない。本書は「マネジメントが下手だからビジネスがダメになったのではない。マネジメントなんかにうつつを抜かしているからビジネスがダメになったのだ」という主張で始まり、「マネジメントなんて小難しいことを言っていないで、さっさとビジネスを始めよう」という訴えで締めくくられている。一貫して「意思を持て」「決断せよ」「リスクを引き受けよ」と読者に迫ってくるのだ。
信じる道を
私は小学生の陸上クラブの指導をしているのだが、常に不安を感じている。彼らの、一生に一度しかない「今」を、そして無限の未来を、私の拙い指導で台なしにしてしまうのではないだろうかという不安である。だから、あれこれ理屈をつけて、あらかじめ逃げ道をつくっているのではないのか。指導方法やトレーニング方法を勉強したり、データを集めたりするのは、子どもたちのためでなく、自分を守る理論武装のためではないのか。本書を読んで「自分のことか?」と感じるのはそういうことである。
「もしドラ」で描かれているように、ドラッカーの言う「われわれの事業は何か。何であるべきか」「顧客は誰か」の問いは、企業に限ったことではなく、あらゆる分野のあらゆる組織に普遍的なものだと思う。
何のために、誰のために、何に向かって。スポーツに関わる一人一人がその問いに向き合い、自分なりの答えを探してほしい。そして勇気を持って自らの意思で決断し、信じる道を突き進んで行かれることを願う。
(尾原 陽介)
出版元:新潮社
(掲載日:2011-06-10)
タグ:マネジメント ビジネス 組織
カテゴリ 人生
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強いリーダーはチームの無意識を動かす
橋川 硬児 石井 裕之
サイレント・カリスマ
最近、書店の一部を陣取っている書籍群に「ビジネスシーンでのコミュニケーション・スキル」に関するものがある。タイトルはさまざまで、意匠を凝らしたものが多いが、ベースになっている理論に注目すると、「コーチング」と言われるものや、「NLP(神経言語プログラミング)」をベースにしているものがとくに目に付く。両者とも輸入物だが、最近は日本的会話術よりもこちらのほうが売れているようだ。
前者の「コーチング」は、先ず相手の話に耳を傾ける(傾聴)ことから始まり、“質問スキル”を使って自らが気づき、自らの行動を促すことに重点をおいている。一方「NLP」のほうは、人の無意識な部分をうまく活用できるようなコミュニケーション・スキルを身に付けることに重点をおいている。だが、両者とも目指す方向性に大差はない。
今回紹介する本は、一応「NLP」理論をベースにしてはいるが、それほどこの理論を理解していなくても読める一冊である。要は、“これからの管理職には、どうやって部下のやる気を引き出すかが重要なキーワードになる。だから、コミュニケーション・スキルを学びましょう!?”と、“無意識”に語りかけるような内容になっている。「これまでのリーダーは、権限に支えられ、トップダウンでみんな従ってきました。だから権限さえあれば、誰でも、カリスマリーダーになれたのです。(中略)しかし、今の若い人はついてきません。王様が何も着ていないことを見抜いてしまいました。そして、『王様は裸だ』と平気で言います」
つまり、権限だけじゃ人は動かない、監督・教師というだけで生徒・選手はついては来ない! というわけだ。ではどうするか。緊張を強いることがない、先入観を持たない、選手を尊重する、そしてラポール(信頼関係)を築けるコーチ、「スタッフの潜在意識が、『このリーダーのために良い仕事をしたい!』」と思わせるようなコーチなることであると本書は説く。これを「サイレント・カリスマ」と本書では呼んでいる。われわれスポーツ・コーチにも、大いに参考になる内容である。
“たるんでいる”という指導者
私が原稿執筆中の現在、ちょうどトリノオリンピック開催中である。残念ながら日本は、今のところ期待されていた通りの成績とは言えない。が、唯一私たちの期待に見事応えてくれたのが、女子フィギアスケートの荒川静香選手だ。フリー演技当日、どれほどの人々が彼女の演技を固唾を呑んで見守ったことか。そして、演技終了と同時に“やった!”と快哉を叫んだことか。この約4分間の静と動に、正直私は感動した。もちろん、感動したのはフィギアスケートだけではない。スピードスケートもモーグルも、そしてカーリングにも感動した。みんな全身全霊を傾けて自分と戦い、競技場に立ち、始まればひたすらゴールに向かう。その全過程に、私は感動した。だから、戦い終えた彼らには、肩をポン! と軽くたたいて、こう言ってやりたい。「僕らは、君の事を誇りに思っている」。
しかし、世の中みんながみんな好意的とは限らない。残念なことだが、ある知事は某記者会見の席で、トリノオリンピックでの日本不振について感想を求められて「たるんでるんだよ」と言った。私は正直この発言には幻滅を感じる。何が“たるんでいる”のか理由が欲しい。理由もなく、なんとなく言ったのなら、そういう発言はご自分のご家庭でどうぞ。責任のある者が、責任のある発言を求められる場で言う言葉ではない。監督が選手に「お前らたるんでるから勝てないんだ」と同列。昔なら、選手は「はい!」の大合唱だが、今は違う。だから、こういう本が書店に並びはじめたのです。ご一読を、知事。ところで、あなたは夏季オリンピックを日本に招致したい意向もお持ちと聞きます。大丈夫ですか? もし失敗すると言われますよ、国民に。たるんでいるから、と。
(久米 秀作)
出版元:ヴォイス
(掲載日:2006-04-10)
タグ:組織論 チーム リーダー
カテゴリ 指導
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究極の勝利
清宮 克幸
「荒ぶる」魂の復活
早稲田ラクビー部、正式には「早稲田大学ラグビー蹴球部」と言う。本書は、ここの監督を平成13年度から昨年度まで5年連続で引き受け、その間対抗戦5連覇、大学選手権優勝3回、準優勝2回、さらに平成17年度の日本選手権では社会人トップリーグチームと互角に渡り合い、ベスト4まで駒を進めるという日本でもトップクラスのチームに早稲田を育て上げた男、清宮克幸の熱き指導哲学書である。
清宮克幸の指導者としての船出は、しかし決して順風満帆とは行かなかった。「OB会は(監督に)清宮を推薦することでまとまったけど、今度は選手たちが納得しないんだよ」どうやら早稲田では監督は選手が最終的に決めるようで、このとき彼は選手から監督就任拒否の憂き目を見たのである。「自分を否定されたのは、私にとって始めての経験だった。(中略)だが、ショックを受けたわけではなかった。選手たちが考えていることがわかったからだ」。彼は、ここ10年間大学選手権の優勝はおろか対抗戦でさえ優勝できない母校の低迷の原因をこの時点ですでに看破していたのだ。
「私が監督に就任するまで、早稲田のラグビー部は、毎日長時間の練習をしていた。そして、選手たちは早稲田ラグビーのスタイルを必死になっても身につけようとしていた」。彼はこの“悪しき伝統”、つまり形ばかりを重視した中身のない練習をすべてやめることから指導を始める決意をする。「最初に早稲田の選手たちに接するあたり、いくつか考えなければならないことがあった。何しろ、彼らは私の監督就任を希望していなかったわけである」(中略)「そこで、(監督としての)所信表明は非常に大切だった。私は、初日のミーティングで選手の度肝を抜くようなプレゼンテーションをして、私に対する猜疑心を晴らしてやろうと考えた」。そして、彼は効果的なプレゼンテーションを演出するために「それまでの早稲田の戦術を徹底的に否定する手法」を実行する。さらに「早稲田の目的は、大学選手権優勝であることを明言し、一気にトップに登りつめようと提案したのだ。選手に拒否されたことが、私に火をつけた」。こうして早稲田ラグビー部の「荒ぶる」魂は、指導者清宮克幸の熱い呼び掛けによってその重い腰を少しずつ上げ始めるのである。
早稲田式エンパワーメント
清宮は早稲田ラグビーの強みを「個の強さ(パワー)、スピード、精確さ、継続(ボールを持ち続ける)、独自性、こだわり、激しさ」に求めた。そのなかでも、とくに“激しさ”と“こだわり”については主将を中心とした選手側の双肩にかかっていると言う。早稲田ではその年のチームを主将の名をとって「○○組」という伝統があるようだ。つまり、監督は選手に対して独立した人格を認めているわけだが、言い換えれば早稲田は伝統的に監督が選手に対してエンパワーメント(権限委譲)する機能を持っているということである。このエンパワーメントとは組織の潜在能力を引き出し、活性化させるためのアメリカの企業経営の潮流を示す概念のひとつだ。たとえば最近の企業では、上司が部下にどのように権限委譲していくかが企業業績を伸ばすポイントと考えている。結局トップダウン式会社運営や少数の幹部しか会社の正しい情報を知りえない独裁体制は近代的企業経営に向かないのである。エンパワーメントを進めるには組織全員のビジョンの共有化、境界をなくすバウンダリーレス、能力を引き上げるワークアウトシステム等が不可欠だが、早稲田は伝統的にそのエンパワーメントシステムを持っているようだ。詳細は本書に譲るが、現在一流と言われる他のチームもおそらく早稲田と同じようなシステムを持っているのであろう。清宮は「コーチングの哲学」のなかで、選手にはビジョンを共有化させ、現状を分析させてゴールを設定させると、選手は自然と未来予測を始めて自分で動き出すと述べている。清宮克幸のコーチングは正しいと、私は思う。
(久米 秀作)
出版元:講談社
(掲載日:2006-06-10)
タグ:ラグビー 組織
カテゴリ 指導
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強いだけじゃ勝てない
松瀬 学
1974年に関東学院大学ラグビー部監督に就任した当時は、関東リーグ戦グループ3部のチームであった。部員は8人、ボールやグラウンド、ゴールポストもない。以来30年余り、どん底のスタートから大学日本一の座に至る道のりが書かれている。「強いだけじゃ勝てない」とあるように、春口監督のラグビーにかける情熱と人間力が、選手や周囲のスタッフ、学校関係者に伝わり、チームがつくられていくヒューマンドラマが読み取れる。
指導者であれば、毎年よいチームづくりや強いチームづくりを実現していくうえで、何をすべきなのかを考えるだろう。本書からは、チームづくりに必要なこと、選手の素質を見抜く力、チームが発展していく中での春口監督自身の指導者としての成長も感じられる。また、さまざまな苦難・困難な出来事を乗り越えていく過程で、真の強いチームとは何かを考えている様子がわかる。
関東学院大学ラグビー部の逸話の中に「涙の雪かき」がある。試合では、グラウンドに立っているレギュラーメンバーだけで戦うのではなく、そこに立てなかったチームメイトの存在や思いがあってこそ生まれるチームの結束力の大切さを学ぶことができるだろう。また、ラグビー指導者のバイブル的名著、大西鐡之祐監督の「ラグビー」にある一節に春口監督は感動したことが書かれてある。それは、「ラグビーとは、人間と人間とが全人格の優劣を競うスポーツである。しかも15人の人格が形成するひとつの新しい超人格的チームが15人の結集される力にある何者かが加わって闘うとき、はじめてそこに相手にまさる力が生まれるのである」という1文であった。そこには、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」の精神の大切さが目には見えない力となることを理解できるだろう。
春口監督は、ある年の慶応との決勝戦に敗れたとき、「強いだけでは駄目だ。いいチームじゃないと。周りから応援され、愛されるチームじゃないといけない」と思ったという。
ラグビーのみならず、さまざまなスポーツ種目の指導者、関係者に読まれることで、日々の私達の環境に感謝する気持ちや周りの人達の支えなくして、スポーツは成り立たないことを再認識することができるだろう。誰かが何とかしてくれるのではなく、自らの現場や足元からスタートしていこうという勇気がもらえる1冊である。
(辻本 和広)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:ラグビー 組織論
カテゴリ スポーツライティング
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体育会力
礒 繁雄
本書のタイトル・表紙や帯からは一般的な体育会で培われる能力に関するビジネス書のように思われるかもしれないが、早稲田大学競走部の礒監督による組織論である。著者が早稲田大学競走部の指導にあたってからの組織づくり、さらには今後変化していくであろう体育会の形について、惜しみなく書かれている。
冒頭で、「『体育会』は有機体に富んで、その中に生きる者たちによって常に少しずつ構成を変えていく有機体である」と述べているように、個々の選手の指導だけでなく、日本一の組織づくりに重きを置き、「個人」が育つ「組織」をつくるためのさまざまな取り組みが紹介されている。一般的な体育会のイメージである礼儀や上下関係などを徹底した上での著者の考えやプランニングが述べられており、心理学やバイオメカニクス的手法を用いた指導なども非常に面白い。途中、教え子であるディーン元気選手、ディーン選手の高校時代の恩師である大久保良正氏との対談や、高校時代の顧問である松本芳久氏の対談が盛り込まれており、著者の持論に至った経緯などが赤裸々に書かれている。
組織を強くするために体育会のノウハウが用いられることは多いが、個を強くする体育会のノウハウが書かれた本というのは非常に珍しいのではないだろうか。また上記のように本書は著者のオリジナルな考えがふんだんに盛り込まれており、読者が持論を構築していく上での大きな支えになるような一冊でもある。
(山下 大地)
出版元:主婦の友
(掲載日:2014-11-01)
タグ:陸上競技 組織
カテゴリ 指導
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高齢者が働くということ 従業員の2人に1人が74歳以上の成長企業が教える可能性
ケイトリン・リンチ 平野 誠一
齢をとりたくて仕方がない
マスターズ陸上などというベテラン選手の大会に出るような人たちは“齢をとる”ということに関して、世間とは少しばかりズレた価値観の中で暮らしている。“長老”が偉いのは当然のこととして、とにかく皆“早く齢をとりたくて仕方がない”のだ。
マスターズのカテゴリーは5歳きざみでクラス分けがされていて、ひとつのカテゴリーの中でレースタイムが同じだった場合、1日でも年上のほうが勝ちとなる。“齢をとるほど体力が低下”しているはずだからだ。そういった意味では、たとえば80歳クラス(80~84歳)では80歳より84歳が有利となる。
しかしまた、ひとつ上がって85歳クラス(85~89歳)になると、今度はそのクラス“最年少”選手として若手のホープに返り咲くことになるのである。
だから88歳の誕生日を迎えられた大先輩に米寿のことほぎを申し上げに行ったとき、“そんなことはどうでもいい”と、遠い目をして宣ったとしても動揺してはいけない。“ああ、早く90(歳)になりてえなあ”とのお言葉が後に続くからだ。マスターズとは、まさに“40、50ハナタレ小僧。60、70働き盛り。男盛りは80、90(歳)”を地で行く世界なのである。
家族経営の工場が舞台
さて、今回は『高齢者が働くということ』。「ヴァイタニードル社」という、アメリカ東部にあって、特殊な注射針などを製造する従業員約40名の家族経営の工場を舞台としたものである。ごく普通の(むしろ小規模な?)製造業ではあるが、ただひとつ違っている点は、従業員の半分を74歳以上の高齢者が占めているところにある。
著者のケイトリン・リンチは気鋭の文化人類学者だ。文化人類学の研究手法に「フィールドワーク(現地調査)」というのがあって、ある文化を共有する集団に対し“外部者”としての目から観察したりインタビューしたりするのだそうだが、もう一歩踏み込んで“内部者”として時間を共にすることで文化の特性を分析しようとする「参与観察」という方法があるそうだ。著者は、約5年の取材期間のうち3年近くを「従業員」として勤め、ヴァイタニードル社の内部にいながら外部者としての観察眼を発揮するという綿密な取材を敢行して本書をものしている。
ケイトリン(この工場では従業員同士を含め社長に対しても互いにファーストネームで呼び合う。従業員の中には先代の社長時代からの者もおり、現社長が少年の頃から知っている)には、「インタビューでたびたび使用してきた質問」に「あなたはお年寄りですか?」というのがあって、従業員は誰もが戸惑いを隠せないようだった。「老い」というのは「文化的に構築された」ものであって、彼らの反応は「年相応の振る舞いに対する文化全体の期待に応えよという社会の圧力があることを指摘する」ものであるという。
働く理由
従業員たちは「人柄や経歴、働く理由も千差万別である」が「働くことに対して、給料だけでなく、帰属感や友達づきあい、さらには生産的なことをしている実感ややりがい、誰かの役に立っているといった経験を求めている」のである。
最高齢が99歳(2011年現在。ほかにも10代からあらゆる世代)の従業員を抱えるこの工場は、「ヴァイタ」すなわち「ラテン語で『人生』という意味」が示すように「まさに人生が(それも意味のある人生が)つくり出されている」「成長企業」であり、世界が注目する「エルダリーソーシング(高齢者に仕事を任せること)」モデルとなっているようだ。
かつてスポーツ界では25歳を越えると“ベテラン”と呼ばれる時代もあった。ましてや30歳を越えて活躍する女性アスリートというのは皆無に近かった。今では35歳を越えてもなお世界の一線で活躍するアスリートも少なくない。
しかし人生80年の時代を迎え、競技の絶頂期を過ぎてからの人生はあまりに長く、引退後のセカンドキャリア問題は多くのアスリートにとって重くのしかかる。競技力を問わず(それによってメシを食っているいないにかかわらず)人生の大きな位置を占めていたものと距離を置くことになるからだ。なんとしてでも、別の人生を死ぬまで歩み続けなければならない。
こうなったら“90になって迎えが来たら、100まで待てと追い返せ。100になって迎えが来たら、耳が遠くて聞こえません”を目指そうじゃないか! と、潔くないかもしれないが50代のハナタレとしては訴えたいのである。
(板井 美浩)
出版元:ダイヤモンド社
(掲載日:2014-10-10)
タグ:人生 働く 組織
カテゴリ 人生
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今いる仲間で「最強のチーム」をつくる 自ら成長する組織に変わる「チームシップ」の高め方
池本 克之
「チームシップ」とは、著者のつくった言葉。他のメンバーと協力し合うだけでなく、全員がチームのために成長するべく自ら動くのがポイントだという。本書はスポーツチームだけを対象にしたものではないが、応用できる部分が多くある。たとえば、タイトルにもある「今いる仲間で」という考え方は、常に才能溢れる選手が揃うとは限らない中で結果を出すのに欠かせない。といってもそれを理解して実行するのは簡単ではない。
そこでチームをつくっていく方法の1つとして「Teamship Discovery Camp」を詳しく紹介している。要は話し合いなので取り入れやすいが、「全員参加」「1回で終わらせない」などのポイントを読み進めていくと奥が深い。もちろん治療院やトレーナーチームといった組織でも活用できそうだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日本実業出版社
(掲載日:2014-10-10)
タグ:組織 チーム
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変えることが難しいことを変える。
岩渕 健輔
ラグビーW杯における日本代表の躍進が記憶に新しい。著者は日本代表ゼネラルマネージャーとしてその瞬間に立ち合ったはずだ。本書は2012年のGM就任以降の取り組みが書かれている。今でこそ「GM」というポジションはよく聞かれるようになったが、実際どんな仕事をしているのかが垣間見える。一言で言えば対内および対外交渉がメイン。そのとき最も重要なのは周囲に同じ方向を向いてもらうことだと感じた。
岩渕氏は現役時代は司令塔のSOを務め、海外チームでのプレー経験もある。だからこそ世界と渡り合いながら改革を先導できたが、逆に言えば課題が見え過ぎて何もできなくなってしまったかもしれない。
どんなに優秀な人でも1人でできることは限られている。本書の内容はスケールが大きいが、周囲と力を合わせればどんな組織でも応用できるのではないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベストセラーズ
(掲載日:2015-12-10)
タグ:組織 チーム
カテゴリ 人生
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勝つためのチームメイク
堀越 正巳
選手としての華々しい15年、そして監督しての2年、この間に培われた氏による「実践的ラグビー組織論」「勝つためのチームメイク」の集大成。組織と個人をいかにうまく噛み合わせ、戦う集団にするか。フォワードとバックスを機能的に動かし、両者の力を最大限に発揮させる堀越氏の理論とは?
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2001-02-10)
タグ:ラグビー 組織
カテゴリ 指導
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オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット
大友 信彦
ニュージーランドラグビー
2011年9月16日、ラグビーワールドカップ2011ニュージーランド大会1次予選、日本対ニュージーランドの試合は、両国が被った震災への黙祷で幕を開けた。国歌斉唱で横一列に並ぶ日本代表チームの中に外国人選手の姿が目立つ。本大会に戦いを挑んだ日本代表選手30名中、国外出身選手が10名を占めた。その多くがニュージーランド出身者である。中には高校生の頃から日本で生活をしている選手や日本国籍を取得している選手もいる。IRB(国際ラグビーボード)のルールに則って選ばれた彼らは、まぎれもない日本代表選手である。君が代を高らかに歌い上げる姿や日本代表としての誇りを胸に懸命にプレーする姿は見ていて胸が熱くなる。しかし、である。心のどこかにわき出す違和感は否定できない。これについてはさまざまな意見があるだろうし、賛否の分かれるところだ。
さて、ラグビーを追い続けるスポーツライター大友信彦氏による本書は、オールブラックスを頂点とするニュージーランドラグビーに縁のある人へのインタビューで構成されている。そこからうかがい知れる彼の地のラグビー文化を考察する内容は、ラグビーファンには興味深いものだ。現役オールブラックスの声は残念ながら聞けないが、登場する元オールブラックス、またその好敵手だった選手や監督も日本に居住する人ばかりで、だからこそ聞かれる日本ラグビーへの提言も面白い。
遠い憧れ
第1章を飾るのは、1987年に行われた第1回W杯でニュージーランド優勝に大きく貢献したジョン・カーワン氏である。彼のライン際80m独走トライは、24年を経た今でも鮮明に思い起こされる。オールブラックスに選ばれる選手の強さを象徴するシーンだった。当時ラグビーを見る目が肥えていたなら、フォワードの動きを中心に、気づくことはもっと多かっただろうが、あの頃はただその鮮烈なフィニッシャーに心を奪われた。同時に、日本のラグビーと世界トップクラスとの格差に愕然としたものだった。彼がオールブラックスに選ばれたとき、こう聞かれたそうである。「ただのオールブラックスで終わるのか、グッドオールブラックスになるのか、グレートオールブラックスを目指すのか」。上のレベルを目指すには謙虚さを持ち続け、他の人にない努力をすることだと教わったとある。その彼がヘッドコーチとして今回のW杯に向けてジャパン(ラグビー日本代表)を鍛え上げてきた。
映画「インビクタス」の舞台となったW杯1995南アフリカ大会で、ジャパンはオールブラックスを相手に17-145という歴史的惨敗を喫した。まるでディフェンスのいないキャプテンズランのように次々にトライを重ねられるその惨状に、ラグビーファンとして胸がきりきり痛んだことを覚えている。それ以降、代表チームのみならず国内の多くのチームが主にニュージーランドからプレイヤーや指導者を招聘し、日本ラグビーの向上を図ってきた。16年ぶりの対戦で、多くのラグビーファンは、ジャパンが成長してきた部分、ジャパンが世界トップを相手に戦える要素を何か見つけたいと思っていたはずだ。確かにボールをキープして攻撃のフェイズを重ねるシーンもあった。しかし、漆黒の壁にスローダウンされてほとんどの局面でコントロールされていた。ディフェンスにおいても、懸命な姿勢は足が止まってきた終盤も貫かれたが、失点は83を数えた。
主力を温存したとのことだったが、ジャパンのメンバーは精一杯プレーしていたし、以前より外国人慣れしている印象は確かにあった。しかし、ジャパンの持ち味とされるスピードある展開を含め、全ての要素で格が違った。ニュージーランドラグビーは未だに畏怖すべき遠い憧れの存在のままだったのだ。
もっとこだわりを
外国人選手がジャパンに多く選ばれている理由として、まだ彼らから学ぶ時期だというものがある。ただこれは随分前から繰り返されている決まり文句である。代表選手が時とともに入れ替わる中で、外国人代表選手の数は帰化選手を含めて確実に増えているのだ。国内頂点のリーグであるトップリーグに力のある外国人選手がたくさん加わることで見どころは増えるし、日本ラグビーのレベルは確実に上がってきている。しかし、ジャパンには、日本代表としての特別なこだわりがもっと必要ではないか。今回のW杯でも、負傷者によるポジション調整以外に、この世界レベルを経験する日本人スタンドオフがいなかったことも、大きな問題ではないのだろうか。
出発前の東京都知事による叱咤激励にも象徴されるように、代表チームの戦場は結果が求められる厳しい世界である。しかし、彼らは子どもたちの夢でもある。もちろん勝つことが彼らに夢を与える最善の策だろうが、力足らずとも懸命に工夫し身体を張り、誇りを見せる日本人の姿は、いつか自分が強くしてみせるという若者も生み出すのではないか。その子どもたちに、外国人が中核となる今のジャパンはどう映っているのだろうか。
本書にはニュージーランドラグビーを肌で感じてきた日本人も登場している。最終章の坂田好弘氏の話は痛快である。ジョン・カーワンHCは、今回のニュージーランド戦後、強国との試合経験を積ませるため、日本人選手やチームを、協会が尽力して海外の試合に派遣する構想を発表した。現状の日本代表を憂慮するラグビーファンを少し前向きな気持ちにしてくれたのではないだろうか。2019年のW杯は日本で開催される。
(山根 太治)
出版元:東邦出版
(掲載日:2011-11-10)
タグ:組織 指導 ラグビー
カテゴリ 指導
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