思想する「からだ」
竹内 敏晴
『「からだ」と「ことば」のレッスン』(講談社新書)などの著書で知られる著者の新著。あれこれ言うより、著者の言葉を引こう。それのほうがわかる。
「いずれにせよ、『からだ』の対極に『ことば」を置くと見えて来る地平に私は生き始めており、『からだとこころ」を対にする地平は私に遠い、というよりは、そこには生きていない、と言うことであろう(P.115)
かつて聴覚言語障害者であり、弓道にも打ち込み、演劇にも深く関わる著者の「ことば」、あるいは「声」への言及は深く身体に問いかけてくる。思いもかけない「からだ」の発見。あなたは、どんな声でどんなことばを日々投げかけているか…。
四六判 238頁 2001年5月10日刊 1800円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:晶文社
(掲載日:2002-01-15)
タグ:身体 言葉
カテゴリ 身体
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スポ-ツに言葉を 現象学的スポ-ツ学と創作ことわざ
山口 政信
宿題に追われて
小学生の頃、夏休みを迎えて何が憂鬱かといって読書感想文と自由研究ほど憂鬱なものはなかった。嫌なものは当然早く片づくはずもなく、いつもギリギリになって大変な思いをしたものだ。
読書が嫌いなうえに作文は下手、探究心もそれほど旺盛でない子どもがそのまま大きくなったらどうなるか? 苦労するに決まっているのだな、これが。
ただし、大学生になってもそのことにまだ気づいていない。棒高跳びの大先輩による「ガーン! グーン! スポーン!」という大名言のせいでもあるのだが、このオノマトペ(擬声語)には棒高跳びのすべてが詰まっていると信じ、長じて感覚的なイメージだけで人間は理解し合えると思っていたからだ。
しかしこれは実際に棒高跳びをやったことのある者、あるいは、その場にいて身振りを見ながら聴いた者でなければわかりにくい感覚なんですね。ちゃんと言葉を用いて表現しなければ普遍的に理解されることは難しい。それも感覚の異なる人たちに理解され、しかもできるようになってもらうためには、体育大学にいたときとは全く別のアプローチが必要なのだ。慌てて「身体」という語が入った本を買ってみたり、「哲学」だの「原理」だのという題のついた本を机に積んでみたり、と苦労が始まった。
すると不思議なことに何かがわかったような気になったらしい。しかし己の無知を知らないというのは困ったもので、いまだわからないこと、知らないことばかりのくせに先日ある会でシタリ顔をして能書きをならべたて悦に入ってしまった。そこへ、柔和な顔をした優しそうな人がニコニコ近づいてきて、うちの雑誌に何か書きませんかなどと言うものだから、ついいい気分になって引き受けてしまったら、さあ大変、何の因果か小学生の夏休みと同じ思いをするはめになってしまった。締め切り当日になって書き始めたのだが、あ! もう日をまたいでしまった…。嗚呼、ついには陽も昇ってきたぞ!
以上、ちゃんと勉強しておかないと大人になって恐ろしい思いをするというお話でした。
頭に柔軟性を持つ
さて本書だが、『現象学的』立場からスポーツ現場に『言葉』さらには『創作ことわざ』を導入しようと試みたものである。「ことわざ」とは「生活の中から生まれ、むかしから伝わっていて、なるほどと思わせる、短いことば」(三省堂の国語辞典より)のことだが、それを『創作』するためには、自分にとっての「当たり前」や「常識」を見つめ直し、構築し直す頭の柔軟性が必要となる。
『現象学』とは、浅学を承知で言うならば、ある観察対象について観察者の主観を交じえずに記述しようとする態度のことである。いくら観察者が客観だと思っていても、そこには彼が育った社会的文化的背景、すなわち観察者にとって『当然と思っていたこと』が反映してしまうのだが、それを『一時的判断停止=エポケー』して『本質に迫る』こと、あるいは自分がある特有の立場でしか観察できていないことを認識したうえで考察をすることである。
つまり、ここにバッタを甘露煮にして食べる県民がいたとしますね、それを見て「うえー! うちの県じゃこんなもの食わねえよ!」という気持ちをいったんカッコで括っておいて(すなわち、エポケー)素直に見つめ、相手の立場を尊重しようとする態度、ということであります。
スポーツ(生徒、選手、技術、戦術)という現象を観察者(教師、コーチ、監督)が一方的に解釈するのでなく相互に理解する態度を養うことで、ありがちな体育会系縦社会の短所を払拭し、スポーツ現場でのコミュニケーションをより有機的なものにしようと本書は訴えているように思う。
「ガーンとやってグーンと行ってスポーンだって言ったじゃないか! 何で分かんないんだよ! ちゃんと俺の話を聴いてんのか? こんにゃろめ!」という経験をしたことがある人ならぜひ読んでおきたい一冊だ。
(板井 美浩)
出版元:遊戯社
(掲載日:2007-10-10)
タグ:言葉 現象学 オノマトペ 指導
カテゴリ 指導
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トップアスリートの勝つコトバ
根本 真吾
ここで言われる「勝つコトバ」とは、勝負の場面に「勝つコトバ」ではなく、夢を背負い、その達成までの過程で生まれた自分に「勝つコトバ」である。
トップを経験したアスリートや指導者たちのコトバには共通点がある。皆、ポジティブだ。今何をするべきか、できることに目を向ける。悩んでも苦しんでも、それが楽しいとさえ思う。困難から逃げずに、考え方をプラスに変える。そんなポジティブなコトバを浴びていると、悩みや苦しみが小さかったものだと気づかされる。与えられている選択肢は1つ、やるしかない。前を向けば導かれる道があり、歩むべき方向が見えてくる。
ではなぜ、こんなに前向きになれるのか?その理由が著者の経験談とともに本書の中に書かれている。夢が生まれてから達成するまでの法則がわかる気がする。
(佐々木 愛)
出版元:秀和システム
(掲載日:2012-10-13)
タグ:アスリート 言葉
カテゴリ 人生
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逆風満帆
朝日新聞be編集部
本書は、第1章「頂点からの転落、そのとき自分は…」、第2章「挫折の中から自分の可能性を切り拓く」、第3章「逆風あればこそ見えてくるものがある」、第4章「たゆまぬ努力と職人魂で1つ上をめざす」、第5章「逆境でも自分を貫く強さが人を惹きつける」によって構成され、各分野で活躍する20名の人物が登場する。
私たちは活躍する人物を見ると、順風満帆に人生を歩んでいるように見える。しかし実際には、外からは見えない陰の努力やさまざまな思いが存在する。さまざまな苦難に遭遇しながらも、その過程で前向きに取り組むことで状況を打開しているのである。見ているようで見えていなかったことや、気づかないでいたことを本書から感じ取れる。そして、多様な角度からものごとを見ることで、スポーツに関わる私たちにも多くのヒントを得ることができるだろう。
本書のあとがきには、次の1文でまとめられている。「ほんとうに大きな困難を克服して今の地位に辿り着いた人たちは、実に冷静に自分を分析していました。自分の失敗や逆境を見つめ直して、他人に率直に語れる人というのは、やはり一流の人だと実感しています」ということである。本書は、謙虚な姿勢や心が大事であり、それが後になって、自分自身に返ってくることを教えてくれる。
(辻本 和広)
出版元:明治書院
(掲載日:2012-10-16)
タグ:アスリートの言葉
カテゴリ 人生
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ないもの、あります
クラフト・エヴィング商會
人のイマジネーションってすごいと思います。「想像」とは必ずしも虚構であるとは限りません。物質的にはなくても頭の中で想像すると確かに存在することってたくさんあると思います。「-1」なんて数字は物質的には表すことはできないと思います。もちろん証明は可能でしょうが「物」としてないものはないのです。人の感情や意識なんて「物」としてはありません。しかしそれを否定する人はいないはず。
「堪忍袋の緒」「口車」「思う壺」「冥土の土産」など書いてみれば「物」として存在しそうなんですが決して存在しないもの、それを商品として売ろうっていうんですから何やら怪しげ。「クラフト・エヴィング商會」という架空のお店を立ち上げ想像の産物を売るという企画。あくまでも本書は商品カタログの体裁となっているのがポイント。
絶妙のセールストークで次々に商品を売り込んでくるんですから読者の私たちも心して聞かなければいけません。言葉巧みな売り込みは一流セールスのそれ。私もかつて営業のお仕事をしていましたが、そのとき先輩や上司から教わったのは絶対に嘘はダメということ。メリット・デメリットをきちんと説明した上で取引相手が納得しないと長期的な取引はしてもらえないと叩きこまれました。もちろん本書のセールストークもそのあたりはきっちり押さえてあります。本当にこんな商品があったら欲しいなと思った時点で、術中にはまっていたんでしょうね。
商品となった言葉の本質にあらためてうなずくばかり。想像力の豊かさと淡々と語られる商品説明には思わず身を乗り出してしまいます。こんな面白い商品カタログは初めてです。
最後に掲載された赤瀬川原平さんのエッセイ「とりあえずビールでいいのか」も秀逸。
(辻田 浩志)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2013-09-06)
タグ:遊び 言葉
カテゴリ フィクション
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トップアスリートの勝つコトバ 強運を引き寄せるスポーツ名言集
根本 真吾
イチロー、浅田真央など、国内外のトップアスリートの語った言葉を集め、解説を加えたもの。紹介される言葉は確信に満ち、前向きな姿勢を表すものになっている。解説では、「勝つコトバ」が生まれた背景が描写され、場合によって著者自身の実体験と重ねて述べられている。著者が、その言葉に触発されて自らと対話している過程である。これによって、アスリートの言葉に重みが増している。これは読み手を問わない。つまり、読み手の置かれた状況によって、言葉から読み取ることのできる意味が変わってくるのだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:秀和システム
(掲載日:2008-06-10)
タグ:アスリートの言葉
カテゴリ 指導
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身体言葉に学ぶ知恵1
辻田 浩志
本書は、タイトルの通り身体の様々な部位にまつわる言葉の解説である。読んでいて思わず「へぇ」とか「なるほど」と、無意識に声が出る。普段、何げなく使っている身体言葉の語源の解説は、トレーナーとして活動している私の知的好奇心をそそる。また、単に言葉の語源の解説にとどまらず、整体師として、日々人の身体に真剣に向き合っている著者自身の体験や考察も興味深い。
長い日本の歴史の中で、先人たちの作った身体言葉には、現代のトレーニングやリハビリでも十分に役立つ知恵がつまっていて、身体言葉の知恵に注目した著者のその観点は、今までにない面白いものである。
(久保田 和稔)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2016-04-14)
タグ:言葉 身体
カテゴリ 身体
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名言珍言108選 トップアスリート編
手束 仁 創部線の会
1960年から2015年までにあったオリンピックやトップリーグ、全国大会における選手・指導者のコメントを紹介。1つの言葉に見開き1ページというシンプルな構成となっており、日本のスポーツの歩みのダイジェストのようにも読める。
興味深いのは、現在は有名な選手が若手時代に発した言葉だ。「このときこう言っていたから、その後の活躍があったのかも」と思わせられる。発言がメディアに取り上げられるトップアスリートでなくとも、そのときどきで思ったことを記録しておけば、後に読み返して初心を思い出せるかもしれない。
言葉の持つ力が改めて感じられた。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日刊スポーツ出版社
(掲載日:2015-05-10)
タグ:言葉
カテゴリ その他
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