「退化」の進化学
犬塚 則久
「人類は万物の霊長である」誰がそんなことを言い出したのか知りませんが、人類が他の動物よりも優れているのは人間の生活環境の中においてのみ通用すること。すべての動物は生活する環境に適合すべく、進化と退化を繰り返してきました。それぞれの動物が自らのおかれた環境で有利に過ごし、子孫を残していくという点では、今生きている動物は皆優れていると言わざるをえません。
本書は人類が今の姿に至るまでのプロセスを4億年前に遡り、どういう部位がどのように変化していったかを細かく説明します。「人類の履歴書」とでもいうべき変遷には現在においての謎が隠されているようです。現代において機能を喪失してもなお残る痕跡器官(男性の乳首など)や、作用が残り大きさが縮小した退化器官(親知らずや足の小指など)を変化した理由とともに数多く紹介されています。「人は元々二枚舌だった」とか興味深い「過去」があったり、数十年前まで退化したものと思われていた盲腸や虫垂もしっかりと働いていたという事実も近年明らかになったそうです。
「退化」という言葉のイメージは後退するというネガティブなものでしたが、環境の変化に対応した「進化」の一形態であることが納得できました。無駄なものを捨てコンパクトな姿で過ごすことが将来を生き延びるための自然の摂理に適合した知恵であり、「退化」もまた重要な選択肢であると思うのです。「得る」ということと「捨てる」ということが同価値であると教わりました。
過去の変化の理由を知ることにより、未来の人類の変化に対しても予測を立てることができたり、不都合な変化に対する警鐘を鳴らすことも可能なんじゃないかと思うのです。われわれ自身の身体に対する「温故知新」を見たような気がします。
学問的な難しい本というよりも、知ると面白い豆知識がいっぱい詰まった一冊です。
(辻田 浩志)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:進化 退化
カテゴリ 生命科学
CiNii Booksで検索:「退化」の進化学
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:「退化」の進化学
e-hon