子どもにスポーツをさせるな
小林 信也
衝撃的なタイトルである。著者の小林信也氏が「30年以上にわたってスポーツの世界で仕事をしてきた」作家だと知ればなおさらかもしれない。
だが、スポーツが視聴率主義、商業主義、勝利至上主義などでがんじがらめになっており、取り組む目的やそこから何を学ぶかが置き去りになってしまっている現状が、ゴルフの石川遼選手から氏の住む武蔵野市の中学校まで幅広い実例を交えて繰り返し述べられているのを読むと、氏が心からスポーツを敬愛し、だからこそ危機感を抱いていることが伝わってくる。
マスメディアや関係者が視聴率や利益の獲得を目指す際、意図してか意図せずかスポーツの本質には触れられない。第五章「あたらしいオリンピックの実像」内で東京五輪招致について言及した部分では、日本国民、の前に東京都民であっても招致に向けた流れに乗りきれない、どこか他人事のように思える不思議さや違和感の正体はこういうことだったのかと気付かされた。
とは言え、本書はマスメディアに疑問を呈することが目的ではない。視点はあくまで現場に携わる作家より上にはならない。それは、小林氏が小学生の息子さんとともに、現在進行形で、自らの身体を動かしてスポーツに取り組んでいるからではないだろうか。
通読すると、“スポーツをさせるな”というタイトルは、親を含む大人がさまざまな思惑を持って子どもにスポーツを“させる”のではなく、子ども自身が楽しいから、好きだからスポーツをする。もしくは子どもとスポーツをしよう、ということを表しているのではないかと思えた。
(北村 美夏)
出版元:中央公論新社
(掲載日:2011-12-13)
タグ:スポーツ報道 野球 ゴルフ サッカー 五輪 教育
カテゴリ スポーツ社会学
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武道的思考
内田 樹
武道の本旨は「人間の生きる知恵と力を高めること」であり、「他人と比べるものではない」と述べる筆者。そして「比べていいのは『昨日の自分』とだけだ」とも述べている。
本書の中で何度も出てくる「武道が想定しているのは危機的状況で、自分の生きる知恵と力のすべてを投じないと生き延びることができない状況」というフレーズに象徴されるように、現在の日本にとって非常にタイムリーな内容になっている。
(磯谷 貴之)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2012-01-18)
タグ:武道 哲学
カテゴリ 人生
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イチローUSA語録
デイヴィッド・シールズ 永井 淳 戸田 裕之
野球ファンならずとも、彼の名前を知らない人はいないだろう。
イチロー。日本人初の野手としてメジャーリーグに挑戦した彼は、今や記録にも記憶にも残る名選手として活躍を続けている。本書はイチローのルーキーイヤーである2001年に、彼がインタビューなどで残した言葉が英文とともに記載されている。
日本では前人未到の200本安打を放ち、7年連続で首位打者というスーパースターだったイチロー選手も、当時のアメリカのメディアからすれば1人の小柄なルーキーでしかなかった。当時、現在のような活躍をすると予想していたメディアやファンがいただろうか。
10年連続200本安打や年間最多安打記録、オールスター戦でのMVPなど、彼の功績を知っている今、改めて当時のアメリカメディアが彼のプレーに衝撃を受けている様子を見ると、私は「どんなもんだ」と心の中で威張ってしまった。当の本人はそのような態度は一切見せていない。10年経った今でも変わらず、現状に満足することなく、さらに上を目指している。その向上心が、現在までの活躍を生んできたのだろう。
イチロー選手に関する本はほかにもたくさんあるが、メジャーリーグでのスタートを切った当時の言葉に触れられる本書を、ぜひ一度手にとってもらいたい。イチローの活躍の秘密が見つかるかもしれない。
(山村 聡)
出版元:集英社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:野球 スポーツ報道
カテゴリ 人生
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武士道とともに生きる
奥田 碩 山下 泰裕
武士道の精神とは何か。負けた者の気持ちを思いやる、強がらない、弱きものを助ける、公平にことを行う、礼節を重んじる…本書では、今こそその武士道の精神から学ぶべきことがあると、グローバリゼーション、死生観、教育問題まで、多岐にわたり問題提起を行っている。
先ほど、元プロ野球選手、桑田真澄さんの講演を聞く機会があった。桑田さんは、道具を大切にすること、礼儀を重んじることは武士道精神から由来した、日本野球界にとって素晴らしい取り組みだと話される一方で、非効率な練習(オーバーワーク)、目上の人への絶対服従、理不尽な体罰などは、野球界にいまだ残る悪しき慣習として挙げていた。
過去の良き文化は大事にし、悪しき文化は是正していくべきだ。しかし、このプロセスからは正解を求めてはいけないような気がする。その時代その時代にマッチするものが必ずあるはずで、それは時代の流れとともにすぐに変遷していく。今必要なことは何なのか。この時代に合う考えは何なのか。それを「見極める」力を持つことこそが、今の日本人には求められているのではないかと思う。
(水田 陽)
出版元:角川書店
(掲載日:2012-02-15)
タグ:柔道 武士道
カテゴリ 人生
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武道的思考
内田 樹
著者がブログや各種媒体で発表した内容を「武道」のテーマに沿って編み直したものである。
武道的であるということは、危機的状況下において生き延びていく、そのための知恵と力のことを指す。心身の修行と文献を読む中で得られた実感を伴う道筋が、教育問題や時事問題などを通して示されていて、かなりの刺激がある。とくに合気道の稽古に関する部分では、身体の感受性が高まるような気がする。どういう心持ちを、準備をしているかが常に問われるのだ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2011-07-10)
タグ:武道
カテゴリ 人生
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武道の心で日常を生きる
宇城 憲治
沖縄古伝空手心道流実践塾・身体脳開発メソッド実践スクール「UK実践塾」を主宰し、由村電器常務取締役、東軽電工代表取締役、加賀コンポーネント代表取締役等を歴任し最先端の技術開発に携わった経験を持つ宇城氏が、自身の経験から日常に生きる武道の心を説いている。
一貫していることは「頭で考えるのではなく身体で覚える」ということ。宇城氏はそれを「身体脳」と表し、随所に武道でのからだの使い方を紹介、ちょっとした違いが与える変化について解説している。また、「知識では器は大きくなりません。偉そうにする人は器が小さい。小さい人ほど器を大きく見せようとします」と言い、自己主張だけでなく哲学を自分の中に持つこと、文化を通して哲学を学ぶことの重要性を指摘する。 本書は、日本の文化である武道をわかりやすく、かつ今に活かせる形で示している。日々の生活を振り返る意味でも、ぜひ読んでほしい本である。
2005年4月20日刊
(長谷川 智憲)
出版元:サンマーク出版
(掲載日:2012-10-10)
タグ:武道
カテゴリ 身体
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身体知
内田 樹 三砂 ちづる
内田樹(うちだ・たつる)氏は、フランス現代思想、映画論、武道論を専門とする神戸女学院大学教授。三砂(みさご)ちづるさんは、疫学を専門とする津田塾大学教授。この2人の対談集。副題は『身体が教えてくれること』。帯に「女は出産、男は武道!? 危険や気配を察したり、場の空気を読んだり。身体に向き合うことでもたらされる、そんな『知性』を鍛えよう」とある。
まず、女性の出産の話から始まる。お産のときはエンドルフィンハイの状態になり、産んだ直後はアドレナリンハイになっている。だから、産んですぐお母さんが「ありがとうございました」と冷静になっているのはよい出産ではない。助産婦さんの含蓄に富んだ言葉、助産婦さんと家で出産する意義を考えざるを得ない。
次に武道の話。「武道の場合だと、ほんとうにたいせつなのは、筋力とか骨の強さではなくて、むしろ感度なんです。皮膚の感度じゃなくて、身体の内側におこっている出来事に対する感度。あるいは、接触した瞬間に相手の身体の内側で起きている出来事に対する感度」(P.33の内田氏の発言)
きわめつけが以下のやりとり(P.170より)。
三砂 女性はパンツとかGパンをはいているから股に布がピタッとあたっているのですよ。それを、もう不快だと思わない。
内田 たぶんその部位の感覚がオフになっているんでしょうね。
三砂 主電源がオフになっていると思うのです。
内田 「主電源」ですか。
日常から着物で過ごす三砂さんの感覚のすごさがわかる。興味を持った人は読んで下さい。ソンはしません。
2006年4月24日刊
(清家 輝文)
出版元:バジリコ
(掲載日:2012-10-11)
タグ:身体 感覚 武道
カテゴリ 身体
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武道vs.物理学
保江 邦夫
科学的かそうでないか
自然科学の範疇で科学的なこととそうでないことを、どう区別するのかと問われれば、科学的凡人であり俗物である私は残念ながらその明確な答えを持たない。次から次へと出版される「科学的専門書」やテレビを始めとするメディアやネット上に氾濫する「科学的」と主張する情報を見れば見るほど混乱するばかりである。惑星物理学者の松井孝典氏は南伸坊氏との対談集「科学って何だ!」(ちくまプリマー新書)で、「科学は「わかる、わからない」、世間は「信じる、信じない」あるいは「納得する、納得しない」」と表現している。これはわかりやすい。私は、「わかる」ことと「納得する」ことでは後者の割合が明らかに高い。
武術を題材に物理の勉強
さて「武道vs.物理学」。「生まれつきの運動音痴で軟弱な上に中年癌患者になった」と自虐的に自分を繰り返し表現する著者は数理物理学者で大学教授。数々の複数領域にわたる著作を持つ。学術的立場にいるこの著者は理論武術家としての顔も持ち「武道の究極奥義」を「特別な努力もせず」に手にしている。そして軽妙というより、どこまで本気なのかわかりかねる遊び心満載の文章で、三船久蔵十段の「空気投げ」と呼ばれる隅落としやマウントポジションの返し方を生体力学や生物物理学を駆使して解説している。武術の技の断片のみを切り出して解説している印象がぬぐえないが、前半は武術を題材に基本的な物理の勉強ができる。学生時代から物理学を基礎レベルから理解する頭を持たなかった私は、学生時代にこういう勉強をすれば多少は物理学的思考を鍛えられていたかもしれない。
「究極奥義」
終盤に「究極奥義」のさらなる深みが顔を出す。なんと離れたところから、人を無力化してしまうのだ。本文中に説明されているある境地に至ることで、「敵の神経システムの機能を停止させ筋肉組織に力が入らなくさせる」可能性を示唆しているのだ。頭の悪い人間が懐疑的になると時として滑稽であり、見苦しいものであることは承知しているが、私はまさにその部類であることも自覚している。そんな私にとっては青天の霹靂であり、「納得できない」展開である。しかし著者はれっきとした物理学者であり、○○理論を銘打って己が唯一「科学的」であるような物言いをする輩とは違う。
懐疑的である一方で、世の中何でも起こり得るというお気楽主義も併せ持つひねくれ者としては、「そんなことないやろー」と思いつつ、ぜひ一度投げ飛ばされたいという欲求も禁じ得ない。科学的であることと、そうでないこと、さてどこに線を引けるのか。
それにしてもラグビー強豪国相手に日本人が圧倒できるような「究極奥義」があればねぇ。
(山根 太治)
出版元:講談社
(掲載日:2008-03-10)
タグ:物理学 武道
カテゴリ 身体
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真剣
黒澤 雄太
スポーツでは真剣なプレーによって、心が動かされる、感動するというのは多くの人が体験したことがあると思う。真剣の意味とは、それを持ったときの切れ味重さから由来するものであるとも書かれている。それら剣に関わることを記した興味深い一冊である。
本書を読み進めていくと遠山の目付、観見の目付や、二律背反する相対境など、非線形科学の本を読んでいるような感覚になってくる。バタフライエフェクトや動的平衡などを、日本の武道という視点からみた書き方をした本であるともいえる。
さまざまな人物が登場してくるが、主に山岡鉄舟を軸に構成されている。鉄舟が無刀流を開くまでに至る人との出会い、挫折が書かれている。一時ブームになった、宮本武蔵の五輪書や般若心経などが数多く登場する。その中でもスポーツに関わる人間として、心に残った一文がある。著者が澤木興道老師の言葉を引用して、「坐禅はあたかも、武士が三尺の秋水(とぎすました刀)を引き抜いて身を構えていると同様に真剣な姿である。どんな人間でも、一番尊いのは、その人が真剣になったときの姿である。どんな人間であろうと、ギリギリの真剣な姿には、一指も触れる事の出来ない厳粛なものがある。(『澤木興道聞き書き』酒井得元)」と記している。
また、「道場で真剣を持って自己と向き合うということはこういうことです」とも記している。禅問答のようになったが、文中には禅と剣との関わりも出てくる。剣禅一如という言葉で頻繁に登場する。
鉄舟は剣の道の真理がすべてありとあらゆるものに通じているということを、こう述べている。
「此法は単に剣法の極意のみならず、人間処生の万事一つも子の規定を失うべからず。此呼吸を得て以て軍陣に臨み、之を得て以て大政に参与し、之を得て以て外交に当り、之を得て以て教育宗教に施し、之を得て以て商工耕作に従事せば、往くとして善からざるはなし。是れ、余が所謂剣法の真理は万物太極の理を究むると云ふ所以なり。」
人の生きる道とは、まさしくこの通りであると考える。先達の言葉をもう一度見つめ直したい。
読み進めていくうちに、自分はなんと小さなことにとらわれているのだろうと思った。少しずつ歩むことも大切であるが、時には大きく歩みを広げなければならないことを再確認させられた。振り返って読んでいきたい本である。
(金子 大)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:武道 剣術
カテゴリ 人生
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克つための弓道 的に克つ、己に克つ
村川 平治
弓道の一連の流れ(弓を持ってたち、矢を放った後まで)である射法八節が写真つきで解説されている。
足踏みから残心まで8つのphaseからなっている射法八節。自分の動作がおかしいと思ったらその前の節に戻る、八節の後半の動きがおかしい場合は八節の前半に戻ることを著者は勧めている。それぞれの型に名前はあるものの、あくまでも一続きの動作であり、心技体の「技」の部分である。
著者の父が弓道家ということで、著者である村川平治氏の幼少期は弓道が身近に感じられる生活だった。「昨日当たって、翌日当たらないのはなぜか」や「日常の練習は試合のつもりで」といった心技体の「心」の部分にせまる記述や「試合数日前から直前の練習法」という「体」の部分は他の競技選手が読んでも参考になる。
また、弓具(弓、矢、弦)の性質や選び方、調整のアドバイスが写真つきで丁寧に解説されている。
(1997年の)弓道界の現状として中学体育連盟に弓道が加盟していないことで、中学校に弓道部が少なく、弓道部員も中体連に参加できない。そして弓道を高校や大学でやってきていても、社会人になってから弓道場がないことや公営の弓道場の使用時間などの関係で競技の継続が難しいとのこと。
著者は「本当に強くなりたいのなら、外にも目を向け、いろいろな人の射を見て、取り入れて行った方がいい」と語っている。弓道のプロ化を願っている著者の言葉はひょっとしたら以下のように解釈できるのかもしれない。“本当に弓道を普及させたいのなら、他の競技にも目を向け、いろいろな競技のシステムを見て、取り入れて行った方がいい”(あくまでも想像だが)
自分の道場を持ちたい。自分なりの「村川流」をつくりたい。著者の自分の夢への強い気持ちを表す言葉でしめくくられている一冊。
(大塚 健吾)
出版元:ベ-スボ-ル・マガジン社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:弓道
カテゴリ 人生
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あの実況がすごかった
伊藤 滋之
スポーツは現場で観戦するのが1番とよく言われている。その通りではある。ただ、実況中継でしか味わえない感動「ドラマ」がある。この本を読んだ直後、スポーツを中継で見たいと思った。
この本の筆者は放送作家という立場で、多くのスポーツドキュメントやバラエティ、中継に携っている。大会の見どころを伝える事前番組の企画、注目選手のキャッチコピーを考えるような仕事をしているそうだ。この本では、そのような経験をもとに、スポーツ中継の舞台裏を徹底的にわかりやすく語っている。
「ついに夢の舞台へ。日本人初のNBAプレイヤーとなった田臥勇太、24歳」というように、第1章は英雄たちのデビュー戦から始まる。第3章の冒頭30秒の名文句では、こんなにもメッセージが綺麗に、時に静かに、時に強く語られているのかと惹かれた。松木さんの解説は、面白くて共感していたが、実に鋭い洞察力と勘からなっているのが理解できた(第5章 予言する解説者)。懐かしいものも多々ある。アトランタ五輪初戦のブラジル戦(マイアミの奇跡)、アテネ五輪の体操王国の復活。その中でも、長野五輪のジャンプ団体での大ジャンプ。「まだ距離が出ない、もうビデオでは測れない、別の世界に飛んでいった原田!」解説を読むだけでも、あのときの感動が蘇る。
カメラの先には全力でメッセージを発信しようとするアスリートたちの姿があり、彼らと心を一つにし、熱い思いを伝えようとするテレビの存在がある。プレーであれ、態度であれ、表情であれ、アスリートが抱く真摯な気持ちを一人でも多くの人に伝えること、それこそがテレビが担うべき役割。筆者の職を超えた熱い思いの一冊である。
(服部 紗都子)
出版元:メディアファクトリー
(掲載日:2012-10-16)
タグ:実況 報道
カテゴリ スポーツライティング
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勝利(チャンピオン)への条件
江川 玟成
ロサンゼルス・オリンピックのときもそうだった。「プレッシャーに弱い日本選手」とよくいわれた。そのたびに思ったが、「プレッシャー」などという言葉がなかったとき、海外試合その他で日本人はいったい「何に」弱かったのか。多分、その当時なら「根性がない」とか「意気地がない」「だらしない」といわれたのではないだろうか。どうも時代錯誤的感想めいているが、「プレッシャー」という言葉で逃げられる一面もあるのではないかと、愚考する。
こんなことをいうと、オリンピックの想像も及ばぬ緊張を知らないからそんなことがいえるのだと反論されるのは火をみるより明らか。本当に知らないから、そういわれれば、「そうですか」と引き下がるよりない。「…でも」と口を濁して。やはり、スポーツマンはプレッシャーをはねのけ、あるいはコマーシャルの文句ではないが、プレッシャーをエネルギーにし、というようでなければ、頼りない。世の中の男たちが頼りなくなってしまったのと同様、スポーツマンたちも、時代の空気の中で似たような状態なのかもしれない。要求される度合いが昔と比べ物にならないのだという言葉ももっともだが、それでも、やっぱり、どうしても、プレッシャーを克服しないと勝てないのは自明の理。
そこで、本誌で座談会や今月のスポーツドクター・インタビューの頁などで紹介されているメンタル・トレーニング、メンタル・マネージメントが注目を浴びてくる。ただ「頑張れ」「そんなことでどうする」といった叱咤激励では効を奏さない、もっと方法論をしっかり持って、というわけである。本書『勝利への条件』は「スポーツマンのメンタル・トレーニング」という副題がつけられている。著者は東京学芸大学助教授(教育方法学、カウンセリング心理学)で空手道六段である。ライフル射撃と剣道をする霜礼次郎医師も武道、とくに『五輪書』とメンタル・トレーニングの共通点を指摘しているが、著者も同書および『兵法家伝書』を文中によく挙げている。両方の書は「勝負や訓練の際の精神面を重視してはいるが、けっして精神主義ではない。技術向上や勝負にあたっての技の運用について、合理的にすすめていこうとする研究・工夫が、よく記述されている。むしろ合理性(科学志向性)の裏づけをもった精神重視といってよい。だからこそ、科学時代の今日でも、時代をこえて役だつ点があると、評価できるのである」(第1章より)。
試合で勝つためには、まず日常の心構えが大切という箇所で、参考までに『五輪書』からの引用(一部)を下に掲げてみよう。
第一に、邪心を持たぬこと。
第二に、二天一流の道をきびしく修行すること。
第三に、広く諸芸にふれること。
第四に、さまざまな職能の道を知ること。
第五に、ものごとの利害損得をわきまえること。
第六に、あらゆることについて、ものごとの真実を見分ける力を養うこと。
第七に、目に見えぬ本質をさとること。
第八に、わずかなことにも、注意をおこたらぬこと。
第九に、役にたたぬことをしないこと。
これを引いた上で、著者は、「人に勝つには、日常生活が、即、修練・修行の場であるべしとする、宮本武蔵の意図が、十分によみとれることであろう。……つまり日常生活が、技術の向上と試合につながっていなければならないと、理解したい」と語っている。
これだけを読んでも、当たり前と思う読者も多いことだろう。しかし、その実際はたやすいものではない。そのたやすくないことがどうすればできるかを説いたのが本書といってよいだろう。もちろん、方法論としては日常以外のことも含まれているが、すべてはこの辺に根本があるようだ。「主な目次」の項を参照していただきたいが、著者は「勝利への条件」として、第1章で技術の向上、第2章で事前準備、第3章でそれらの科学的基礎、第4章で集中力、第5章で“あがり”の克服、第6章で試合中の心・技について述べている。それぞれ実際的で、メンタル・トレーニングの方法についても詳しく記されている。新書判なので読みやすく入手もしやすい。
スポーツは、人間がからだを動かすことがまず基本だが、肉体は精神と切り離せぬものである。スポーツ、とくに勝敗や記録を争う競技スポーツでは気持ちのありよう、精神的態度、心構えは練習、試合とも非常に重要である。ところが、それは性格や天性の部分もしくは本人の“やる気”に委ねられていることが多い。本書を読めば、そうではなく、性格も変えられるし、集中力も高められるし、“あがり”も克服できるのがわかるだろう。また、勝つということが、単に技術、作戦的に上位の結果ではなく、勝つために日頃から努力している結果であることもわかる。
宮本武蔵などを持ち出すと、古くさいと思う人もいるだろう。だが私たちは武道が長い歴史の中で培ってきたものがただならぬものであることも、今改めて知る必要があるのではないだろうか。
まあ、いずれにせよ、スポーツの世界で「プレッシャーに負けた」とか「プレッシャーに弱い」などという文句はこれから目にしたくないし、耳にもしたくないのである。
主な目次
第1章 スポーツ技術のレベル・アップ
1. スポーツ指導についての誤解/2. 技術を向上させる条件
第2章 試合に勝つための条件
1. 勝敗を決めるものは?/2. 試合に勝つための事前準備/3. 試合にのぞんでの工夫
第3章 技術の向上に必要な科学的基礎
1. 身体力学と生理学の基礎知識/2. 心理学の基礎知識/3. 練習内容と方法を決める科学的基礎
第4章 集中力を高めるためには
1. 集中力とは何か/2. 集中力アップの工夫
第5章 “あがり”の克服法
1. なぜ“あがる”のか/2. 日頃の工夫による防止対策/3. 自律訓練法による克服
第6章 試合中の心と技の工夫
1. 試合中の心のもち方/2. 試合中の技はここを!
巻末に「性格の自己チェック尺度」と「敗因診断票」を付す。
(清家 輝文)
出版元:千曲秀版社
(掲載日:1986-09-10)
タグ:メンタル 武道
カテゴリ スポーツ医科学
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勝利(チャンピオン)への条件
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子どもの生きる力の伸ばし方
中野 秀男
存在価値が問われる集団
武術とはそもそも戦場で命のやり取りをするための戦闘技術であり、相手の命を奪い得る技能のはずだ。生き残る技術と言い換えたとしても、そもそもそこにはルールやモラルなど存在しなかっただろう。今の常識でいうどんなに不浄な手であっても、考えられる全ての手段を講じて己を生かし続け、その遺伝子を残そうとすることは生物としての本能というものだ。しかし人としてどうあるべきかという概念が加わると話が変わってくる。生きるか死ぬかの瀬戸際でも、いやだからこそ、「命を惜しむな、名こそ惜しめ」といった考えが生まれる。たとえそれが大将による自分の手駒を動かすための方便だったとしても、自分の存在意義を考える力が人にはあるのだ。
天下泰平の世となり戦闘する機会がなくなった武闘集団は、次に支配階級としての存在価値を模索することになったのではないか。武士であるというだけで、身を粉にして働く階級の人々の上に君臨することへの説得力を持たせるために武士道というものを生み出し、こじ付ける必要があったというのは安易すぎるか。しかし、いかに存在するか、どう生きるかという自律なくしてその特殊階級は存在し得ず、戦闘技術の修行は精神鍛錬としての意味が濃厚となり、人格形成の手法へと変換されたのではないだろうか。
時代が移り、廃れるべくして廃れたその階級が遠い昔のことになった今でも、その精神は心ある日本人の常識の中に棲み続けている。濃度がずいぶん低下したとはいえ、だ。
空手を通じた教育
さて本書は、空手道を通じて子どもたちの育成に尽力し続ける日本空手道太史館館長、中野英雄氏の教育提言書である。45年もの間に7000人の子供たちを指導してきたという氏の指導方針は、命を懸けて武術を極めるといった過酷なものではない。もちろん、よりうまくなりたい、より強くなりたい、技を極めたいという想いの下、厳しい稽古を積むことに変わりはない。
だが現代社会における空手の技は、競技以外で披露されることはまずないし、それは強く戒められる行為となる。代わりに、その技を練ることを通じてどう生きるかを問い、その力を伸ばすことはできる。「誠実」「謙虚」「積極」「努力」「忍耐」「不屈」という大志館の教室訓を通じて、子ども達は「心を鍛えて徳を身につけ」「生きる力」を育む。中野氏の数々の指導例を拝見するにつけ、現代社会における武道の持つ人格形成的価値はまだまだ大きいように感じる。
空手道という、ともすれば暴力的行為へとつながる技を現代社会で生きる子ども達に指導する人間は、十分に人格形成されていなければならない。戦闘技術としての空手を教えるだけでなく、人としての力を育てられる存在であるべきなのだ。
成果は成長
自分の思い通りになる子どもだけを自分の思う通りに指導するだけなら易しい。だが、「一人ひとりの子どもと向き合」い、子どもたちに正の変化をもたらすことは簡単ではない。
ちゃんと教えているのにできないのはお前の努力が足りないからだと子どもに言い放つことは易しい。だが、各々の歩幅ででも自分は成長していると実感させられることは簡単ではない。子どもたちが指導者のために在るのではなく、指導者が子どもたちの期待に応え得る存在でなくてはならない。指導者が子どもたちを試すのではなく、指導者が子どもたちに試されているのだ。そしてその成果は、競技成績だけでなく子どもたちの成長という形で表れる。
子どもたちにおもねることなくこれらをやり遂げられる力。これはまさに道としての武道を究めて辿り着けるのはないかと感じる。平和な世にあって生まれる価値そんな存在に至りたいと思う一方で、これもあくまで戦闘がない平和な時代と場所だからこそ言える綺麗事のようにも感じる。今も世界のどこかで現実に存在する子どもたちが銃を手に取らなければならないような場所では、虚しい絵空事に過ぎないからだ。そんな世界では戦闘技術は純然たる戦闘技術でなければならず、人の命を奪い、生き残るための手段となる。となると、平和な世に暮らしていても、その気になれば一線が越えられるように心身に覚悟を持たせておくこともやはり必要なように感じる。よく生きるなどという余裕はなく、ただ生きることに汲々たる人生を送らなければならない場合、生き残りながら徳を失わず、人格形成に力を注ぐようなことが普通の人々にできるのだろうか。
では、今日も明日も無事生きていることがほとんど不自然でなく、10年先どころか20年先の目標までも立てられるような平和な世界で生きている人間が、よく生きることにこだわれているのかというと、これはこれで違う次元の問題が生み出されているようである。
こうなると「死」と隣り合わせでなければ感じ得ないことも無数にあるように思えてくる。果たして我々は全てを包括的に身に棲まわせておくことなどできるのだろうか。
そんな稚拙な思考を巡らせていると、平和な世での武道による精神鍛錬、人格形成がより深い意味を持ち、より大きな価値を持つようにも感じてくる。そして武道が、そんな手段であり続けられることを願わずにはいられない。
(山根 太治)
出版元:文芸社
(掲載日:2015-09-10)
タグ:教育 武道 空手
カテゴリ 指導
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めざめよカラダ! “骨絡調整術”
平 直行
こういう武道系の身体操作術の本は好きでよく読んでいますが、正直言って当たり外れが激しいというのが私の印象です。とりわけ武道というものは理論よりも実践の中で培われたものですから文章化すること自体に馴染みにくいという性質もあるからだと思います。それと武道ひと筋でやってこられた方が多いので、ご自身の世界観の中での話に留まることもしばしば。だから筆者の世界観が合わなければ読んでいて苦痛に感じることさえありました。
しかし実際に読んでみて、そういった心配は無用でした。イラストを交えた解説もわかりやすく、とっつきにくさはありません。読者のことを考えながら書かれたものだと感じました。
やはり大切なのは本に書かれた情報をもとに実践したとき、どう感じるかだと思います。だから可能な限り自分で試してみるようにしているのですが、本書に関してはいくつかアッと思うような感覚がいくつかありました。最近、私は右肩と左の股関節に問題を抱えていたのですが、本書で紹介されたメソッドを試してみると右肩の引っ掛かりが消失し、左股関節の痛みも感じなくなりました。論より証拠、これほど具体的な結果を見せられては否定する理由がないというもの。
武道の型は古来より伝承されたものであり、理にかなったものでなければ生き残ることはかなわないという納得できるような納得できないような言い方になるのですが、結果が出ればそれも信用せざるを得ません。同じ話が何度も出てくるのもご愛敬といったところでしょうか。
骨格の正しい使い方で極力筋力に頼らないというのは、筋骨格系の効率的な身体操作だと思います。それだけに力に頼った身体の使い方を続けているとアンバランスになり、全く使えていない筋肉が萎縮したり弱体化することは、身体の本来の機能を失うばかりか痛みまで誘発することもあります。
筋力に頼らないということは、筋力が衰えた高齢者にとっても有効な手段となりうるのではないかと感じました。
(辻田 浩志)
出版元:BABジャパン
(掲載日:2018-10-27)
タグ:武道
カテゴリ 運動実践
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めざめよカラダ! “骨絡調整術”
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トレイルズ 「道」と歩くことの哲学
ロバート ムーア Robert Moor 影山 徹 岩崎 晋也
私の生まれた町は道路が東西南北に規則正しく伸びていて、碁盤の目のようになっている。北に行けば標高が高くなり、南に行くほど海に近くなるので、北に行くことを「上に行く」、南に行くことを「下へ行く」と言い、道案内はそれで通じた。鉄道も3路線あったが全て東西に長く伸びるだけであった。
高校卒業とともに上京した私は、縦横無尽に走り枝分かれする道路や地下鉄に戸惑いを隠せなかった。
本書の道案内役はロバート・ムーア。ミドルベリー大学の特別研究員である。彼はアパラチアン・トレイル(アメリカ東北部を2,600kmにわたって連なる山脈)の全区間スルーハイクから、 ある疑問を持った。「道はどのようにしてできたのか」「なぜこの場所にできたのか」。その答えを求め、整備された都市はもちろん、原住民族のみが知るような地図にない道、目に見える道だけでなくアリの行列から古代生物の化石まで世界各地を探索した。
やがて彼は、一つの答えにたどり着く。
”道=トレイルには物語がある”。動物が生存のために天敵を避け、食料のある場所までの安全な道を作った。人類はすでにある道をできるだけ早く移動するために、また情報を伝えるためにテクノロジーを発達させた。人類の、そして地球に住む生物の太古からの営みと歴史がトレイルには刻まれていた。
我々がなぜ今ここにいるのか、どうやってこの場所にたどり着いたのか。本書は幾重にも積み重ねられたトレイルの“これまで”の物語を知るとともに、我々が“これから”をどう生きるかを考える哲学書でもある。
ロバート・ムーア氏とともにトレイルを辿る旅に出てみてはいかがだろうか。きっといい道案内役になってくれるはずである。
(川浪 洋平)
出版元:エイアンドエフ
(掲載日:2019-08-17)
タグ:道 トレイル
カテゴリ 人生
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日本武道の武術性とは何か サピエンスと生き抜く力
志々田 文明 大保木 輝雄
武術は戦や狩猟の中から生まれたもので、戦の相手や動物を殺傷することを目的としていました。ところが徳川の安定した時代になると戦う機会もなく、一番必要とされた戦闘スキルも活躍の場を失います。軍隊でもあり兵士であったはずの武士も、その役割が政治であったり行政であったり仕事の内容も変わりました。そんな時代に武術に身が入るはずもなく、武術そのものの価値なり目的なりが見失われそうになりつつあるとき、新たな目的や価値観を見出し、戦闘の術から身心を鍛えるための武道へと変わっていくさまを学術的に記したのが本書です。
価値観はその時代で変わるものですが、ここ200年ほどで「人権」という概念が生まれ、人を殺傷する行為は、すなわち人権侵害であり「暴力」と呼ばれ社会的に嫌われる行為となりました。もちろん私たちの時代は生まれながらに人権を持っていますので、ある時代から「人権」や「暴力」という概念ができたというのは驚かされました。それ以前の時代背景では敵をやっつけて戦に勝つということは名誉なことであり、それが「暴力」と呼ばれ否定されるという逆転の時代の中でどうやって武術の生き残りをかけて新たな価値の創造をしていくかが1つのテーマとして書かれています。
戦うことこそが武術・武道の中心的要素なわけですから、精神的な修行とともに「武術性」にこだわるのはもう一つのテーマになっています。近代においてはスポーツとして存続している武道もありますが、「武術性」「精神修養」「怪我や事故を防ぐ」「暴力性の否定」などは今の時代も重要な問題点として議論されています。
時代時代の環境にアジャストしなければ生き延びることができないという点で、武道もまた生物同様の難しさがあることを教えられました。中には、消えていった武術もあるはずです。文化や芸能もまた然り。長い時代を生き続けるものもあれば、ひっそりと消えていくものもあったでしょう。本書の核になるのは「臨機応変」という姿勢だと感じました。変化することで生まれる問題点も上手く取り込んでいくたくましさと知恵こそが最も学ぶべきところでしょう。
(辻田 浩志)
出版元:青弓社
(掲載日:2021-01-21)
タグ:武術 武道
カテゴリ その他
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武道vs.物理学
保江 邦夫
バイオメカニクスは人の動作の仕組みを物理学の手法を使って解明しようとする営みである。我々トレーナーにとっては運動指導をする上で避けては通れない重要な分野であるが、トレーナーを目指す学生はもとより、資格を取得済みの現役トレーナーにとっても非常に難解な分野である。
本書では、武道の技を物理学とバイオメカニクスによって分析していく。が、武道という伝統を重んじる領域で、話が突拍子もないところへ飛ぶ。飛びまくる。
たとえば柔道の投げ技をロボット工学で分析し、ブラジリアン柔術とフィギュアスケートの共通点を指摘し、果ては空手の突きを宇宙物理学で論じる始末である。最終章では筋電図まで出てくる。物理の範疇を越えているではないか。
ところが驚いたことに、そのような目まぐるしい展開も、筆者の軽妙な語り口(本なので文章なのだが)のおかげでストレスなく読み進めることができた。読み終わった感想は「なんだ、物理学ってそんなに難しいものじゃないんだな」である。
私自身、学生時代は教科書とにらめっこしてただ唸るしかなく、試験はほぼ丸暗記で耐えていた側の人間なのだが、本書を読んで「あのときのあれは、こういうことだったのか」と理解することができた。
あなたがバイオメカニクス分野に苦手意識をお持ちなら、手に取ってみてはいかがだろうか。
(川浪 洋平)
出版元:講談社
(掲載日:2021-06-03)
タグ:スポーツバイオメカニクス 武道 物理学
カテゴリ スポーツ医科学
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脱力のプロが書いた!「動き」の新発見
広沢 成山
本書のテーマは「脱力」。むかしから興味のあることだったので読んでみると、最初に書かれていたのは物事を習得するときの心得みたいなお話。そして第二章では身体についてのお話。「脱力」について知りたいと思っていた私には肩透かしを食らった格好です。しかし振り返って考えてみれば筆者は武道家です。単にHow to本みたいな知識の切り売りは御免という意識を感じました。何かを会得するにはこちら側の気構えであったり、基礎知識などの土台が必要であって、そこの部分を飛ばして得たものは表面上のことしかありえないと反省しました。
すごく表現がわかりやすく簡単なことのように書かれていますが、その一つ一つには深遠な事柄が書かれています。200頁ほどの単行本ですから深堀していたらとんでもない量になりそうな気がします。簡潔にまとめられたその奥には、読み手の想像力も試されているような感じさえします。「余白を活かす」という項目では、書道の作品を見るとき黒く書かれた文字だけではなく白い余白にも意識を向けなければならないというくだりがありました。こういった表現は実に哲学的。同時に本書を読むとき連なる文字だけを見るのではなく行間もしっかり見ろという筆者のメッセージと受け止めました。
「脱力」については丹田の機能を中心とした解説がわかりやすく書かれています。しかし実際に「脱力」を会得するには、本書のあちらこちらにちりばめられた必要事項を理解してこそ身につくものなのかもしれません。簡単そうに書かれた難しい本でした。
(辻田 浩志)
出版元:BABジャパン
(掲載日:2021-06-07)
タグ:脱力 武道
カテゴリ 運動実践
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書のひみつ
古賀 弘幸 佐々木 一澄
走りに表れるもの
走りには人が出る。まずは骨格や筋(肉)のつき方を含めた体形、筋線維組成や筋・腱複合体の働き具合(バネ)といった身体的要素に影響を受ける。そしてまた、そのときの内的感覚や視覚から入るフォームや動きなどのフィードバックから走る主体(つまり走っている私)は様々な思いをめぐらせ、どうやったら速く走れるかという方法論や、どうやったらカッコよく or 気持ちよく走れるかといった趣味の問題までもが意識無意識にかかわらず投影される。“なってしまう走り方”とともに、“こうしたい走り方”が、人の走りには反映されてくるからだ。“無の境地”で走れること(人)など極めて稀だろう。
思想や信条まではわからないが、気質や性格、感情や想いなどは走りによく表れるものだ。そのため、スポーツによる交流は人としてプリミティブな部分での深い共鳴を選手同士に芽生えさせ、見ている者には大きな感動を呼び起こさせる力があり、それが、“スポーツは言葉の壁を超える”といわれる素になっているのだろうと思う。
「書」にも表れる
一方でまた「書」にも人が出る。「書は人なり」という言葉もあるように、「書かれた文字」には「書いた人の人格」と「強い関係」があって「書き手の息遣いやその人のセンス」が表れる。「書」は、文字を基本としていることから、より高次な情報がそこに乗る。「政治、思想、宗教、文学など」「さまざまな人間の営みが書を通じて表現」されてきたため、「書の線にはいろいろなものが溶け込んで」いるのだ。
また、“走り”も「書」も、「一回きりの生々」しい身体表現という点でも共通している。
さて、今回は「書のひみつ」。「書」の「いろいろな見方、面白がり方をなるべく広く紹介」し、「魅力を改めて発見するためのガイドブック」だ。
中国で生まれた「書体」の歴史や「書風(個人の書きぶり)」、日本で独自に発展した「かな文字」の「連綿(続け字)」する「文字の美しさそれ自体の追求」の味わい方などが紹介されている。読んでいて面白いのは、「書」は、紙の上に時間が固定されているため数百年前の息遣いが今ここで感じることができる点だ。それに加え、引用されている図版の選出や、説明の言葉選びに対する著者の苦労を想像することもこの手の書物の面白味なのではないかと思う。優れたガイドブックは、その世界を一望できる情報をわかりやすく提示し読者の世界観を変えてくれるものである。本書は読了後、世の中の見え方を明らかに変えてくれる。
抽出される言葉
話題は跳ぶが、膨大な物語から抽出してわかりやすくといえば、スポーツ選手のインタビューも同じものと考えることができそうだ。たとえばゴルフ選手のインタビューなど見ていると、数日間にわたるプレー(たとえば 3 日間54ホール分)の要点を的確に抜き出し、全体の流れに及ぼした影響や意義を、平易な言葉を用いた短いセンテンスで明確に伝える、あるいは全体を一括して感想を述べるといった場面に遭遇することがある。
たとえば全英オープンで優勝を果たした渋野日向子選手のインタビューでは、幾通りもの応え方がある中から瞬時に一つを選び、発した自分の言葉に対して責任を取っていく姿は、プレーそのものにも似た「一回きりの生々しさ」にあふれた潔い言葉の数々で、見ていて心が躍るので動画サイトで何度となく再生したものである。
また、彼女は書道が得意とのことで、腕前を披露しているTV番組があった。とても堅実な書き手で、線を一本引いては墨、点を打っては墨と、一文字書くうちに何度も墨継ぎをするので出来上がりはどうなるのかとハラハラしたが、不思議なことにバランスの取れた書きあがりになっているのである。
ゴルフが一打々々の積み重ねの上に成り立っているスポーツであるということに関係しているのだろうか。とすると、もし渋野選手が「連綿」の書法を身につけたとしたらどんなプレーが展開されるようになるのか。勝手に妄想は広がるのである。
(板井 美浩)
出版元:朝日出版社
(掲載日:2021-02-10)
タグ:書道
カテゴリ 身体
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スポーツ医学を志す君たちへ
武藤 芳照
武藤氏の著書100冊目は、スポーツ医学に関わる、もしくは興味を持つ若手スタッフや学生へ向けたものとなった。武藤氏の45年にわたるあゆみを交えつつ、スポーツ医学がいかに面白く、また必要であるかを語っている。予防医学の重要性やコンプライアンス、学校スポーツや高齢者とスポーツについてはもちろん、舞台芸術や武道の医学にも頁を割いている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:南江堂
(掲載日:2021-10-10)
タグ:予防 舞台 武道
カテゴリ スポーツ医学
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武道のコツでスポーツに勝つ!
吉田 始史
武道家である著者がすべての運動に共通の理論として「運動基礎理論」を提唱。武道におけるからだの使い方をさまざまなスポーツの動きに当てはめ、武道の動きのコツから、からだを使いこなす方法を写真とともに紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:BABジャパン
(掲載日:2004-04-10)
タグ:武道
カテゴリ 運動実践
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強くなるための剣道コンディショニング&トレーニング
齋藤 実
剣道のためのコンディショニングについて総合的にまとめている。コンディショニング、トレーニング、メディカル、食事、水分摂取、テクニカルの6つの分野にわたって網羅され、まさに集大成となっている。基本を押さえたうえで、実際に対応した方法が紹介されており、実践的な内容となっている。たとえば踵の脂肪パッドをカバーするためのテーピング、竹刀を使ったトレーニング方法などである。
防具をつけたままの水分補給に関しては所作事の観点から好ましくないとされる可能性についても言及し、剣道のよさを尊重しつつ新たな提案もされている。
著者らの剣道を大切にしながら医科学的なサポートをしていこうとする姿勢がうかがえる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:体育とスポーツ出版社
(掲載日:2008-10-10)
タグ:剣道
カテゴリ スポーツ医科学
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身になる練習法 柔道 基礎から心技体を鍛える稽古
石田 輝也
著者は強豪・大成高校柔道部監督であり、選手としても日本トップクラスの成績を残した。大学や社会人カテゴリーで花開くための幹や根となる稽古をまとめ、ひろく紹介する本書。基礎練習は地味で苦しいものが多いが、どのメニューもなぜ必要か解説されているので選手も頑張りやすいだろう。準備体操だけで一章分費やされ、また曜日別の練習メニューの組み立て方も解説されており、現場に取り入れやすい。寝技や立ち技だけでなく、トレーニング項目の写真もすべて大成高校の部員がモデルになっており、この年代に無理のないメニュー構成になっている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2017-08-10)
タグ:柔道
カテゴリ 運動実践
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