チェアウォーカーという生き方
松上 京子
「チェア(椅子)」「ウォーカー(歩く人)」初めて聞く言葉ですが筆者の作った造語のようです。車椅子に乗る身体障害者ということですが、どことなく軽快な印象があります。本書は25歳のときバイク事故で両足が不自由になったひとりの女性の生き様がありのままにつづられています。
突然襲いかかった耐え難い現実を、葛藤の中で素直に受け入れ、そこから自分の価値を見いだし積極的な生き方で自らの幸せを拓いていく様が描かれています。
バリアフリーという言葉は近年になって耳にする機会が増えましたが、段差をなくすことや手すりをつけるなど物理的な物だけではなく、同じ社会に生きる人の手伝おうとする気持ちや共に楽しく過ごそうとする精神にこそ真のバリアフリーだという問題提起がここにあります。 海外におけるバリアフリーということに対する個々の意識については考えさせられます。「手伝ってほしい」「手伝いたい」お互いにそんな気持ちはあっても現実には口にして実行することに気恥ずかしさを感じたり気後れしたりすることも多いはずです。障害者側は出来ることと出来ないこと、さらには手伝ってほしいことを明確に告げた上で積極的に社会参加すれば生き方も拓けていくことを示し、また同じ社会に生きる人がどのように障害者に接したらお互いに気持ちよく手助けできるかのヒントも筆者の体験談から教えてくれます。
本当のバリアフリーとは何か? ともすれば暗くなりがちな話題を力強く明るく展開していく内容には心惹かれるものがあり、読むにつれて勇気がわいてくるようです。それが筆者の人間としての魅力なのだと思います。
理屈ではなく心で読んでみたい・・・。そんな素敵な一冊です。
(辻田 浩志)
出版元:小学館
(掲載日:2012-10-16)
タグ:障害者
カテゴリ 人生
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身体障害者のためのスポーツ指導 身体不自由編 視覚・聴覚・言語障害編
大阪市障害更生文化協会
身体障害者のためのスポーツ指導 身体不自由編
身体障害者のためのスポーツ指導 視覚・聴覚・言語障害編
身体障害者のスポーツは、リハビリテーションとしてのみならず、広く楽しむスポーツとしても行われるようになってきた。ここに紹介する2冊は、「市民スポーツの指導者が積極的に障害者を受け入れ、みんなの中で、いっしょにスポーツの指導をすすめていくための資料として」作成されたものである。
発行所である大阪市身体障害者スポーツセンターは、昭和49年、在宅の身体障害者のために、家族ぐるみで気軽に利用できる総合的スポーツ施設として開設されたもので、開館4年半で利用者は延べ50万人にのぼるという。その4年半の事例を中心にまとめられているが、「あとがき」にある通り、「身体障害者が一市民としてみんなのスポーツの輪に入れることを願って、市民スポーツの指導者と養護学校のみならず、すべての学校の先生方に参考としていただきたい」ものである。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:大阪市身体障害者スポーツセンター
(掲載日:1981-12-10)
タグ:運動指導 身体障害者
カテゴリ 指導
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強くて淋しい男たち
永沢 光雄
本著は当時活躍していたアスリート達への取材記録ともいうべきものであろうか。当然インタビューも含まれている。といっても、出版されてすでに16年経っているので、現在彼らの多くは引退しているものと思われる。
この中で取り上げられているのは格闘技選手が多いのだが、その中で特に私が興味を持った取材対象を紹介しておきたい。
プロレス団体「ドッグレッグス」。コアなプロレスファンであっても知らない人のほうが多いのではないだろうか。身体障害者(以下、障害者)のプロレス団体である。で、この団体ができた経緯が興味深い。ドッグレッグスは元々はごく普通のボランティア団体だった。
そこに所属する障害者2人がひとりの女性をめぐって対立。女性は2人から熱烈なラブコールを受けるも、どちらにも興味がなく去っていった。2人の間には遺恨だけが残り、それからというもの酒が入る度に女性が去ったのを相手のせいにして殴り合いの喧嘩をしたそうだ。これを見かねたボランティア団体の代表が「プロレスで決着をつけろ!」ということで結成された。
念のために言うが選手たちは皆、障害者である。ロープのない、厚めのビニールシートが敷かれているだけのリングの上で選手たちが熱戦を繰り広げている。マイクパフォーマンスといったプロレスならではのショー的な要素あり、加えてそれ以上に真剣勝負、本気で戦っている。出血することも珍しくないし、見ようによってはマジ喧嘩かと誤解されてしまう(実際はちゃんとプロレスの訓練を受けている)。それゆえ、この団体は常に障害者やボランティア団体から「障害者を見せ物にしている」との批判に晒されてきた。しかし、この団体に所属するある選手が団体のパンフレットにこう書いている。一人の大人としてやりたかったことがプロレスだった。そして、健常者と障害者との間に流れる‘社会の川’に橋を架けるのが障害者プロレスであると(本文より省略して抜粋)。
普段、障害者と過ごす環境にない者が障害者と相対するとき、どういう風に接すればいいのか、どんな会話をすればいいのか、妙な緊張感に包まれてしまうことはないだろうか。普通の会話であっても彼らを笑ったり批判してはいけないのではないかと。しかし選手からしてみれば、リングの上で滑稽なことをすれば笑ってくれればいいし、反則技で相手に執拗な攻撃をしようものなら野次を飛ばしてくれて構わない。あえて健常者という言葉を使うならば、健常者と同じように接してくれたらいいと言う。つまり、彼らにとっては健常者も障害者もないのだ。そういう意味で、「障害者だから」という冠をつけているのは、むしろ我々のほうかもしれない。
かつては入場料がたったの300円、観衆が30人足らずだった興行も、噂が噂を呼んで以降、大きな会場で3,500円取れるまでに大きな興行を打てるようになったそうだ。やがてマスコミにも大きく取り上げられ映画や本になった。
社会通念からいって、こういうイレギュラーな事柄に関しては、とかく批判的に捉えられがちである。そこらのテレビコメンテーターであれば、大上段に構えて批判的なコメントをすることが容易に想像できる。しかしどうだろう。大事なのは当事者がどう捉えているかではないだろうか。プロレス団体ドッグレッグスの選手たちは自らの意思で参加している。志を持っている。充実した人生を過ごしているのだ。もはや外野がとやかくいうことではあるまい。
彼らは立派なアスリートである。
(水浜 雅浩)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2015-08-31)
タグ:プロレス 障害者
カテゴリ 人生
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障害者の体力評価ガイドライン 脳血管障害・脊髄損傷
日本リハビリテーション医学会障害者の体力評価ガイドライン策定委員会
障害を持つ人が運動を行う際、安全管理はとくに重要で、そのためには状態の把握が欠かせない。だが、傷害者の体力を評価する指針がこれまでなかったことから、議論を重ね、本ガイドラインがまとめられるに至った。そもそも「体力とは」まで立ち返り、各要素の評価法を紹介している。後半ではリハビリの現場で割合の多い脊髄損傷者と脳血管障害者の体力評価について、Q&A方式で解説している。
運動を取り入れる際に抱きがちなためらいを取り払う一助となるだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:金原出版
(掲載日:2013-09-10)
タグ:体力評価 障害者
カテゴリ その他
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初めて携わるメディカルスタッフのための障がい者スポーツ レクリエーションレベルから競技レベルまでのケアとサポートの実践術
青木 隆明
ドイツ人医師ルートヴィッヒ・グットマンが、ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院に赴任し、リハビリテーションの一環としてスポーツを取り入れたのが、現在のパラリンピックにつながっている。グットマンは1943年に当地に赴任し、1948年のロンドンオリンピックにあわせて入院患者を対象に、ストーク・マンデビル大会を開催した。映画『ベスト・オブ・メン』では、褥瘡予防に励み、患者の環境改善のために奮闘するグットマン医師が描かれている。時には患者とともに車いすに乗ってスポーツに興じたりもする。なにかと激昂しがちな医師ではあるが、その熱意は患者や看護師に伝播し、次第にひとびとは変わっていく。
この本は、水泳やパラ陸上、ボッチャ、CPサッカー、車いすテニス、車いすバスケットボール、車いすラグビー、ゴルフ、卓球、フライングディスク、パラパワーリフティングという競技別に、ルールや各競技参加者のタイプ、クラス分類、外傷の発症機序とメカニズム、その予防法に至るまで、網羅的に記載されている。タイトルに銘打ってある通り、障がい者スポーツに初めて携わる方におすすめできる。
自分は普段、障がい者スポーツに関わっているわけではないが、東京パラリンピックでは、車いすバスケットの日本代表選手たちの活躍に熱くなった。また、口にラケットをくわえて、足でトスを上げる卓球のエジプト代表イブラヒム・ハマト選手には脱帽した。スポーツでもリハビリテーションでも、自分の持っている力の限界にチャレンジするという姿勢は変わらない。その姿勢に感化され、勇気づけられるひとは多い。
ともあれ、わずか80年ほどで、ここまで障がい者スポーツは進化した。もしグットマン医師が今のパラリンピックを見たら、歓喜するに違いない。
(塩﨑 由規)
出版元:メジカルビュー社
(掲載日:2022-09-09)
タグ:障害者スポーツ
カテゴリ スポーツ医科学
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