ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり
菊地 高弘
野球というスポーツで話題なのは大谷翔平選手でしょう。ドジャーズに移籍して今まで以上の活躍が期待され、日本のみならずアメリカで人々から称賛されています。お国柄といいますか、アメリカでは人種や出身地にかかわらず活躍に見合った評価を受けます。MLBで活躍した外国人選手は今の時代でも「助っ人」と呼ぶ人もいて、正式なチームの一員であるにもかかわらず一線が引かれることもあります。
アマチュア野球においても他府県から入学した選手たちは「ガイジン部隊」と呼ばれることもあります。本書は、高校野球でもしばしば問題となる他府県からの野球留学生とその学校のドキュメントが描かれた本です。野球留学を擁護するでもなく、そして県外の選手を集めたチームや高校野球の現状を批判するでもなく、淡々と事実だけが書かれています。しかも表面上のきれいごとだけではなく、選手や学校側の現実にも踏み込まれていますので偏りは感じられません。
読者の判断に委ねるためにあえて筆者の主観を伏せているのではないのかと思うくらい、事実のみが書かれている、というのが私個人の感想です。他のスポーツに目を向けているとそれぞれのスポーツをよりよい環境でやりたいために他府県に行く学生を何人か見てきましたが、彼らは「ガイジン」といわれることはありません。高校野球だけはこの問題が話題になるのは、甲子園の大会が郷土というものを背負わされているからにほかなりません。高校生のクラブ活動とは違った目線で見られているからだと思います。そしてそれが「純粋」であったり「神聖」という価値がひっついてくると話は余計にややこしくなってくるのだと思います。大谷選手やイチロー選手らがMLBで活躍すると、チームや試合結果そっちのけで彼らのプレーばかりが報道で取り上げられるのは、「ガイジン部隊」問題の裏返しなんじゃないかと思っています。
私の主観はそれくらいにしておいて、読者がそれぞれの感想を持つにはほどよいバランスの情報が本書には記されています。そしてもう一つ、本書の大きな特徴はリアルさだと思います。巨人の坂本選手、ドジャーズの大谷選手、元阪神の北条選手、今阪神で売り出し中の野口選手や川原選手など野球好きなら聞いたことがある名前が頻繁に登場します。そして彼らの高校時代の活躍にも触れられていますので、彼らのプレーを思い出しながら裏舞台をこっそりとのぞくワクワク感もあります。数年前に多くの野球留学生で甲子園に出た秀岳館の元監督鍛治舎功さん(現県立岐阜商監督)の核心を突いたお話も当事者ならでは。
「高校野球はこうあるべき」という議論をする前に当事者の実際のところを見ておく必要があります。
(辻田 浩志)
カテゴリ:スポーツライティング
タグ:高校野球
出版元:インプレス
掲載日:2024-03-08