女は女が強くする
井村 雅代 宇津木 妙子 五明 みさ子
シドニーオリンビックで多くの人に「鳥肌が立った」と言わせたシンクロの井村さん、ソフトボールの宇津木さん、シドニーでは団体5位に終わった新体操の五明さん。この3人の女性指導者に月刊スポーツメディスン連載中の山田ゆかりさんが取材、聞き書きというスタイルでまとめられたもの。
まず、このタイトルに「う~ん」とうなる人も少なくないだろう。
「そうだな」と思う人もいるだろう。でも、女が女として女を主張するという感じの内容ではない。むしろ逆か。
井村さんも「けれども、これからのスポーツ界は、女だから男だからということにとらわれてはいけないのではないでしょうか。両性の協力によって世界に立ち向かっていかなければならない時代に来ていると思います」と「まえがき」に記している。だが、女の指導者なんてという言われ方はまだある。もう男と女にこだわるのではなく、でも男と女とは何なのかと考えたい。
誤解のないように言うと、この本は女性指導者の姿をたんねんに話を聞きながら、やはり女性のライターがまとめたものである。
スポーツ界の人にとっては「コーチングとは何か」というテーマでも読める。
今の若い人への接し方の参考にもなるだろう。ビジネスでも活かされるだろう。でも、ここはストレートに、指導者が選手に、どう考えどう接しているか、その姿そのものを知ることに意味があるととっておきたい。3人の指導者みな魅力的である。強く、しかも誰もがやはり悩んでいる。スポーツをすること、そのスポーツを指導すること、それをもう一度考えることができる本。
井村雅代、宇津木妙子、五明みさ子著 四六判 208頁 2001年7月12日刊 1400円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:草思社
(掲載日:2001-11-29)
タグ:女性 指導 シンクロナイズドスイミング ソフトボール 新体操
カテゴリ 指導
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「導具」を使った健康体操 オリジナル手具体操のすすめ
春山 文子
日常生活で健康体操(運動)を楽しく継続させるために、長年の体操指導の実績を持つ著者が、健康体操を楽しく継続させるために開発した「導具=動きを導くための物」と体操の方法を紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:文芸社
(掲載日:2002-11-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動実践
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高齢者さわやか体操
石井 紀夫 石井 千恵
高齢者の健康づくりに携わる人向けの、指導を行ううえで知っておきたい基礎知識と体操の実技をまとめたもの。基礎知識編では、高齢者の性格の変化や、痴呆高齢者への対処、介護保険制度について分かりやすく書かれている。コミュニケーションの取り方のコツや心構えがきめ細かく記述され、著者らの高齢者に寄り添う様子がうかがえる。
実技編では、用具の呼び方が非常に面白いのだが、「お団子ボール」(ハンドエクササイザー)や「なると棒」(フレックスバー)を利用した低負荷で楽しめる範囲のエクササイズを紹介している。他にも、顔や手、足指の体操、さらに月刊スポーツメディスン連載でもおなじみのチェアエクササイズ、水中運動にフラダンスを取り入れたアクアフラダンスが紹介されている。
また青竹やフィットネストビナワ、うちわを利用した体操や、盆踊りとパラパラを融合した盆パラビクスなど、読んでいるだけでも楽しそうなエクササイズの実例が示されている。
どの実技においても、言葉がけのポイントなどに参加者にとって精神的負担にならないような考慮が感じられる。また、それぞれの担当者による示唆に富んだコラムも掲載。指導経験豊富な執筆者たちらしい1冊。
(清家 輝文)
出版元:金原出版
(掲載日:2012-10-08)
タグ:体操 高齢者
カテゴリ 運動実践
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楽しく踊れるズンドコ体操
太藻 ゆみこ
まず表紙からおもしろい。写真からコンセプトがにじみ出ている。健康運動指導士、健康運動実践指導者、医学体操専任指導士、日本エアロビクスフィットネス協会公認インストラクターでもある太藻ゆみこ氏が書いた『楽しく踊れるズンドコ体操』はDVD付きで、誌面、DVDも読者が踊りやすいように左右逆に踊っているので、画面に合わせて踊れる親切さもある。しかも「ダンス体操」というダンスと体操をひとつにしたもので、体操の号令のようなものではなく、音楽で動きの楽しさを獲得できるものになっている。
また踊るときの選曲もいい。「きよしのズンドコ節」から始まり、「元気を出して」、「さくら(独唱)」と続き、それぞれの曲の雰囲気に合わせた体操ダンスのポイントもあげている。
聴きなれている音楽のリズムで自分の体を動かし汗をかくことも、実際はかなり難しいことである。だが本書を通して楽しく取りむことで、ダンスや体操がより身近で親しみやすいものになるだろう。
2006年10月20日刊
(三橋 智広)
出版元:日本放送出版協会
(掲載日:2012-10-11)
タグ:体操
カテゴリ 運動実践
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マジック体操で腰痛・肩こりさようなら
丹羽 滋郎
月刊スポーツメディスンの特集でも紹介されている丹羽滋郎先生の著書。同氏は整形外科の専門医として現場で活躍されてきたが、本書は愛知医科大学運動教育センターでの深い経験によってまとめられている。著者は「身体を動かしている筋肉の状態がどのようになっているのかを知って、その異常を正常にもどすことが、骨や関節の痛みを和らげるようになるのではないか」と、マジック体操考案のきっかけを述べている。実際このマジック体操を、夏はロッククライミング、冬は氷壁を登るなど、70歳を超えても精力的に活動をされている方に紹介したところ、非常に評判がよいという。
マジック体操の内容は、その体操の始まりから、マジック体操の原理、とくに腰痛や肩こりは問題を抱える人が多いが、それら部位の体操を中心に紹介している。また昨年とくに流行ったジョーバロボットや、腰痛予防椅子の運動効果を説明している。
何と言っても「丹羽先生の健康メモ」は、各ポイントごとにわかりやすく説明しており、こうした細かい配慮がうれしい。本書はとくに日常生活において運動する暇やノウハウのない人に読んでいただきたい一冊だ。
2007年10月19日刊
(三橋 智広)
出版元:暮しの手帖社
(掲載日:2012-10-12)
タグ:腰痛 肩こり 体操
カテゴリ 運動実践
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日常生活で「導具」を使った健康体操
春山 文子
昔からお手玉や独楽(こま)、竹馬など道具を使った遊びというものはたくさんあります。子どもはいろいろなものを使いながら遊びを通して自然と身体を動かしていますが、大人になると身体を動かす機会が少なくなってしまいます。ましてや昨今では、生活様式も変化し、便利な世の中になり、布団の上げ下ろしをする家庭も少なくなり、指一本でいろいろな作業ができるようになってきています。その結果、体力は低下し、物を扱う能力も低下してしまうのは当然のことだと考えられます。
本書は、手具を使うと身体の筋肉をより使う、モノの扱い方で出来映えの確認ができるなどの特性を生かして、身の回りにあるものを使った体操が紹介されています。
1つの物の使い方には、掴む、持ち上げる、投げる、跳び超える、潜る、その他にも数えきれないくらいさまざまな使い方がありますが、それを行うだけではなくて、それらの使い方を創造することも脳にとっては十分な体操になります。実技編では、ひもや新聞紙など身近にあるものを使った動きを図解しながら詳しく説明されているので、わかりやすくすぐに使える本であると思います。
(大槻 清馨)
出版元:文芸社
(掲載日:2012-10-16)
タグ:運動指導 体操
カテゴリ 運動実践
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表現スポーツのコンディショニング 新体操・フィギュアスケート・バレエ編
有吉 与志恵 秋山 エリカ
1人1人の状況や目標に合わせてどう指導していくか。ときには負担の掛かるポーズやパフォーマンスを許容せねばならないかもしれない。新体操やフィギュアスケートといった表現スポーツではとくにそういった葛藤が大きい。ならば、ケガが起きにくいよう、元の身体をコンディショニングしていこうとまとめられたのが本書である。
姿勢をモニタリングし、課題があればリセットを行った上でアクティブコンディショニングを行う。これは技術向上にもつながる。見本写真も新体操選手が行っているのでイメージしやすい。痛みのない状態で練習や試合に臨めるように、という著者らの願いが伝わってくる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2016-04-10)
タグ:コンディショニング 新体操 フィギュアスケート バレエ
カテゴリ 運動実践
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どうぶつ体操 気持ちがよくて、楽しくて、おまけに痩せる
谷本 道哉
まったく運動習慣のない人にとっては、エクササイズ指導者が伝える表現や感覚にもピンとこないかもしれない。
そこで「伸びをする猫」など身近な動物にたとえてメニューを紹介していく。動いてみるという1つ目のハードルを越えたのち、立ち上がる・歩くなどの日常動作の改善、そしてウォーキングやランニング、筋力トレーニングへとステップアップ。
メニューの強度や頻度だけでなく、発想の面でも相手に寄り添うヒントが詰まっている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:マガジンハウス
(掲載日:2014-03-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動実践
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鉄骨クラブの偉人 オリンピアン7人を育てた街の体操指導者・城間晃
浅沢 英
アテネオリンピックにて、体操男子日本代表は28年ぶりに団体金メダルに輝いた。メンバーに名を連ねた 6 人のうち 3 人のジュニア時代に関わったのが城間晃氏だ。
だが城間氏の歩みは華やかとは言い難い。選手としての自身を「二流」と言い、その後悔から小さな町クラブで美しい体操を教え続けた。
取材当初は専門知識はなかったという著者が練習を見学した感想は「地味」。ジュニア期に基本を反復するのは確かに地味だが、なくてはならない過程だ。それは体操だけでなく全てに言える。城間氏が基本を貫いたように、そこに光を当てたのが本書なのである。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:KADOKAWA
(掲載日:2016-05-10)
タグ:人生 体操 指導
カテゴリ スポーツライティング
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わんニャンたいそう
谷本 道哉
運動経験の少ない人にストレッチやトレーニングの指導を行う際、とってほしい姿勢や「正しい部位に効いている」感覚を納得してもらうのは意外に難しい。
本書では身近な犬・猫にたとえることで、誰にでもイメージしやすくしている。もちろん人間のモデルの写真も豊富に掲載されている。
1~4章前半は子どもから大人まで気軽に楽しく取り組める基礎的な内容、4章後半と5章はもう少し鍛えたいというニーズを満たす内容だ。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2015-02-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動実践
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肩こり・腰痛らくらく体操(ビデオ)
(財)横浜市スポーツ振興事業団
肩こり・腰痛の解消や予防のための、自宅でできる簡単な体操がビデオになった。肩こり編・ストレッチ体操が10分、筋力トレーニングが5分と比較的短い時間で見ることができる。限定数1500本。通信販売の申込みは、横浜市スポーツ情報センター。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:
(掲載日:2000-06-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動指導
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ABC体操(ビデオ)
石井 千恵
ABCのAは「青竹」、Bは「ボール」、Cは「チェアー(椅子)」と、身近で準備しやすい道具を使って適度な運動の実践を勧めている石井氏らが啓蒙する「ABC体操」のビデオ。解説編と実践編から成り、初めての人にもわかりやすくなっている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ウィズダム
(掲載日:2001-03-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動指導
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ユル ココロとカラダに効くリラックス体操
高岡 英夫
運動科学研究所所長・高岡英夫氏による女性のためのスーパーリラックス体操。カラダをゆすってゆるめ、心地よい波動により、「こり」や「こわばり」が取り除かれるプログラムをわかりやすいイラストで紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:朝日出版社
(掲載日:2002-09-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動実践
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「体をゆるめる」と必ず健康になる 心と体が若返る究極のリラクゼーション「ゆる体操」
高岡 英夫
全身がリラックスする「ゆる体操」を提唱する高岡氏による「ゆる体操」の実践および症状別ゆるメソッドを紹介。年齢を問わず、立ったまま、座ったまま、寝たままでもできる超簡単リラックス法をイラストで紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:マキノ出版
(掲載日:2003-11-10)
タグ:体操
カテゴリ 運動実践
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若返りホルモンダイエット
石井 直方
成長ホルモンなど若返り効果があると言われるホルモンの分泌を促す運動を「若返りホルモン体操」と名づけ、その方法をイラストで解説。さらに正しい食習慣を促す「若返りホルモン・ダイエット」も紹介。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2004-03-10)
タグ:食 ダイエット 体操
カテゴリ 運動実践
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「頭と体」に効く!ボクシング体操 揺すって、力を抜いて「肉体改造」
豊嶋 建広
これまで紹介されてきたエクササイズ、とくに健康のための運動を念頭においたものでは、素早く反応するための敏捷性のトレーニングは避けられがちであったと著者は言う。本書では、ボクシングや空手において指導や研究を行ってきた経験から、まずセオリー編として脳と身体のトレーニングについて解説を行う。素早い動きをするためには、まず力を抜くことが大切であり、ボクサーは脱力の名人なのだそうだ。そして、ベーシック編として脱力を味わい方から写真を使ってエクササイズを紹介。段階的にボクシングの動きに近づいていく。コーディネーション編では脳と身体能力を鍛えるもの、そして最後にアドバンス編として脳と運動機能を同時に鍛えることを狙ったエクササイズが紹介されている。チョキチョキパニックなどのエクササイズ名も面白い。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2008-07-10)
タグ:体操 ボクシング
カテゴリ 運動実践
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コマネチ 若きアスリートへの手紙
ナディア・コマネチ Nadia Comaneci 鈴木 淑美
世界が驚いた演技
“アパセロスアパアムロスベロンヘルメルローマ東京”
何のことかと言うと、近代オリンピック夏季大会の順番だ。学生時代、体育史のテスト前にこの妙な語呂合わせを皆で覚えたものだ。第1回がアテネ(ギリシャ)で1896年。次いで、パリ(フランス)、セントルイス(アメリカ)、ロンドン(イギリス)、ストックホルム(スウェーデン)...ローマ(イタリア)ときて、1964年に第18回の東京オリンピックと続く。4年ごとの開催だから、それぞれの大会が行われた年がおのずとわかることになっている(ただし、1916年、1940年と1944年の計3回、戦争のため中止を余儀なくされた)。東京オリンピックまで覚えておけば後は簡単に言えるはずだったのだが、今回の北京大会(第29回)では東京大会からすでに11回を数え、記憶が怪しくなってしまった。歳月を感じる瞬間だ。嗚呼、遠くなりにけり我が学生時代。
さて、今回のオリンピックでも世界中の天才アスリートたちが集い、さまざまなドラマが展開された。毎回オリンピックではスーパースターやシンデレラが生まれる。中でも、東京大会から数えて3回目のモントリオール大会(カナダ、1976年)で彗星のごとく現れたルーマニアの体操選手には、世界中がひっくり返って驚いたものだ。
その名も“白い妖精”ナディア・コマネチの登場だ。他国チームに比べ明らかに幼い選手たちが、白いレオタードに身を包み、髪をポニーテールにまとめて入場してくる姿は異様でさえあった。しかし演技は白眉で、あれよという間にコマネチは器械体操史上初の10点満点を連発(合計7回)し、金メダル3個、銀銅メダルをそれぞれ1個獲得した。
頂点を極めたその後
老婆心ながら頂点を極めた人たちのその後の生活が気になって仕方がない。オリンピックという大舞台での成功の代償があまりに大きい場合があるからだ。一挙手一投足に過剰なまでに関心が注がれ、揚げ足を取られ、笑いの種にされ、その後の人生において理不尽な圧迫を強いられることがしばしばある。メダリストが若年であるほどその運命に翻弄される度合いが強い。コマネチはその極みだったように思う。
しかし、彼女は冷静な判断力と強い意思をもってこの運命に立ち向かっていたことが本書を読むとわかる。たとえば、あまりにも正確に、そしてそれが当然のようにほとんど無表情で淡々と進められる演技には「オートマティックに」「やってのける小さなロボット」と批判する声は少なくなかった。自我のない少女がコーチの言いなりになっているように映ったのだ。彼女はこう反論する。「もしそうしたくなければ、帰ればよかったのです。子ども本人がいやがるのに、体操のような難しいことを無理じいしたり、上達させたりすることはできません」「私はすでに自分の進む道を選んでいました。望みどおりのことをしていたのです」。
ところが17歳にもなると状況が変わってくる。若手選手と一緒の遠征ではコーチ(=国)の管理下に置かれることに疑問を持ち、彼女の中では何の矛盾もなく次のように述べられる。「もう子どもではないから」「他人の意思のままに動くあやつり人形ではいられない。私自身でコントロールしたい」。
亡命を経て
当時のルーマニア政府から国威発揚の道具として使われ、一時は“ルーマニアの至宝”とまで呼ばれるも、競技引退後は悲惨な生活を強いられている。栄光をなきものとされ、未来のない生活から抜け出すため、彼女はついに亡命を決断する。1989年のことだ。
失踪が周囲に気づかれぬよう普段と変わらない様子をアピールするため、直前に「あえて弟夫婦と近くの村のレストランで食事」をする。しかし「二、三時間後には死んでいるかもしれない、と知りながら、いとしい家族との食事を楽しむふりをするのは、耐えられないほどつらく難しかった」。国境越え決行後も幾度か失敗の危機に直面し、「体操では、ある意味で自分の運命を支配することができた。いい演技をすれば、国中の尊敬というご褒美が与えられる。しかし人生はそうはいかない。ルーマニアでは人間性を奪われ、いまここで亡命の危険と不確実性を体験して、私は生きる環境に対して無力であることを痛感した」。
しかし、まさに命をかけて成功させた決断は最終的に正解だった。彼女は現在、アメリカで体操教室のコーチや多くの慈善事業に携わって暮らしている。彼女が慈善事業に携わる理由は「受けたものをお返ししたいと思うからだ。他人のための行為は、自分個人でやりとげた演技に拍手をもらうより、はるかに達成感がある」からだ。あれほどの思いをしたにもかかわらず、負の思い出より、人々から受けた正の思いを胸に、祖国ルーマニアに対する愛、体操競技(スポーツ)に対する愛はむしろ高まっているようだ。
彼女のさらなる幸せ、ひいては今回のオリンピックで活躍した選手(思うような結果が残せなかった選手も)全員の、引退後の幸せを願ってやまない。
(板井 美浩)
出版元:青土社
(掲載日:2008-10-10)
タグ:体操
カテゴリ 人生
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